第38話 リッチの夢②なんで知らないシーンを見るのだろうか?

「お疲れ様♡」

あぁ。ただいま。


俺が新宿ダンジョン40層のボス部屋じぶんのへやに戻ると黒いローブを羽織ったロゼリアが待っていた。


衝撃だった。



こいつがローブを着ているだと???

いつもほぼ見えてる胸も尻も隠しているだと???


どうしたんだ?もしかして殺されるのかな?


「両手とも使っちゃうなんて、大盤振る舞いしたわね」

そう言いながらロゼリアが近寄ってきて俺の肩を撫でる。

まぁ、距離が近いのはいつものことだから俺は特に反応しないが……。


「久しぶりの人間の世界だったんじゃない?どうだったかしら?」

そう言いながら俺の背中に腕を回して抱き着いて来るロゼリア。

まぁ、抱きしめられるのはいつものことだから俺は特に反応はしないが……。


「あなたちょっとは反応しなさいよ。さすがに無反応は寂しいわ」

俺の胸のあたりにすりすりしながらこっちを見上げて頬を膨らませているが、骨が抱き着かれてもそもそも何も感じないんだがな。


悪戯してしまうおててもないし、どうしろと言うのか。


「それでも……そう言えばいつも適当に撫でたり触ってるだけだったわね……くっ……」

そんなにきつく抱きしめられると骨が軋むだろ……『くっ、苦しい……』なんて反応が欲しいわけじゃないだろ??


というか、この腕は治るんだろうか?

リポップしてもこのままだったら悲しいぞ?


「治るわよ。あなたの万全の状態で再登場するわ」

いつものように俺の考えを読み取って会話が成立していて、ロゼリアが答えをくれる。


ならいいか。さっさと殺してリポップさせてくれ。


「わかった。けど、一晩は好きにさせてもらうわ」

頬に人差し指を押し付けながら首を傾げるあざといポーズを取りながらそんなことを言いだした。

腕のない骨相手に一晩も何するつもりなんだよ。


と思ったけど、ローブを脱ぎ捨てたこいつは……これ以上はエロゼリアの名誉のために黙っておこう。



翌朝になって満足したのか、彼女はちゃんと俺の頭を切り落としてくれた。



そしてまた夢を見たんだ。前世の……多分前世だよな?知ってるやつらが見えるから……前世の俺が婚約破棄されて追放された後か?


俺がいなくなってから何年か後に国ごと潰れたと思うんだけど、なんで俺の記憶にはないものを見るんだろうか?

 

*----------


「どういうことですか?勇者様を追放とは?」

はげたおじさんが慌てふためいて王女を問いただしている。


「だから、ルード大臣。説明した通り、あの男は浮気をしたので婚約破棄して、国外追放しました。もちろん、聖剣は返還させたので問題ないでしょう」

王女はしたり顔で聖剣を指差しながら説明している。

ちなみに彼女には持てなかったので床に置きっぱなしだ。


「浮気か……酷い男だな。こんなに美しいメルフィアと婚約しながら浮気とは……しかしご心配なされませんように。私が立候補しますので」

その横で顔を歪めながら怒りを表しているのは剣士ラーゲンは、全て計画通りなので予定通り王女の婚約者に立候補する。


もしこれが認められれば、彼が次期国王だ。

公爵家出身の彼にとっては、欲望と権威欲を満たし、実家への義理も返せる会心の一手だった。


「悔しいが、次期国王ともなる王女様との結婚は譲ろう。しかし、私は約束通り宮廷魔術師長となって、2人を支えよう。勇者などいなくても心配ない」

さらにその隣で自分の利益を確保しに行ったのは賢者サディックだ。


彼は子爵家の出身であり、身分ではラーゲンには叶わないので、宮廷魔術師長の地位を守りに行ったのだ。

目的はもちろん王宮内に居続けることで王女との関係を維持すること、つまり公然の秘密としての浮気相手だ。


「……」

もう1人、パーティーのメンバーであった聖女ユリアは、王女の腰にしがみついたまま離れない。

そんな聖女の頭をなでながら王女は微笑む。


「この国には魔王を倒したパーティーのメンバーである剣士と賢者と聖女がいます。3人とも王宮に。ですので、なにも問題ありませんわ」

王女はこれが結論だと言わんばかりにしたり顔でルード大臣に宣言した。



しかし……



「えぇと、勇者様不在ですか?だとすると、私は退任させていただきます。あの方にお仕えできると思っていたからこそ、こんな面倒な職を受け、今日まで続けてきたのです」

「なっ?」

なんとルード大臣が辞任した。

この事態を王女は全く考えていなかったようで、目の前でゲットした肉がはじけ飛んだときのゴブリンのような驚きの表情で固まった。

いや、外見だけは美しいが……。


「ルード大臣。それは勝手が過ぎるというもの。あなたには周囲を思いやる心がないのですか?」

そんな王女への助け舟なのか、声をあげたのはこの王国の軍事を一手に握るハーグリード将軍だ。


「そうですとも。大臣ともあろうものが、あのような下賤な平民に使えたいなどと、あなたに貴族の心はないのですか?」

王女は語気を強めて大臣を糾弾する。


「……しかし勇者様の浮気などと言われていますが、それは本当なのですか?」

ルード大臣もまさか私的な友人でもあるハーグリード将軍に責められるとは思っていなかったのか、少し考えた後、そもそもの王女の言葉に疑問を呈した。


彼も王女が尻軽なのを知っているので彼女が勇者を非難すること自体に違和感を覚えているが、さらに信じられないのはあの勇者が浮気したということなのでそちらを聞いたのだった。


「もちろんですとも。ここに証人がいます。ねぇ、ユリア。あなたは昨日あの勇者の毒牙にかかって」

「浮気なのに毒牙なのですか?」

さっそくおかしな表現が登場したのですかさず大臣が突っ込む。


「えぇ。あろうことか勇者は聖女に懸想し、彼女を寝室に連れ込んで襲ったのです。なんとおぞましい」

「はぁ……」

おぞましいのはお前の方では?という気持ちを全力で隠した表情を大臣は聖女に向ける……。

聖女は顔を王女の服にうずめたままだ。


「にわかには信じられませんな。して、聖女殿、どのようにして勇者様に襲われたのだ?」

一方、女性の感情の機微などみじんも理解していないハーグリード将軍がずけずけと核心に迫ることを聞いた。


「なっ、将軍!襲われて震えている女性にそのようなことを聞くのですか?」

当然王女は怒る。


「しかし、どう魔力を読んでも処女のままの彼女が襲われたというのが理解できぬのでのう」

「なっ!?!?」

しかしこの場の雰囲気を読むことを放棄したハーグリード将軍はそのまま核心的な事実に踏み込んでしまった。


「何を言うのだ将軍!まさか聖女が嘘をついているというのか?」

そのやり取りを静観していた剣士ラーゲンが堪えきれずに怒りを露わにして割って入った。


「そう言っているのだ。もしくは王女様なのか。いずれにせよ聖女様が処女であるので勇者様の浮気はない。にもかかわらず婚約を破棄し、彼の方を国外追放するというのであれば、ワシもルード大臣とおなじく辞任する。大臣、一人で勝手に辞任することは許さん」

ハーグリード将軍は辞めるなら一緒に辞めるから事実を明らかにしていけとルード大臣に言っていたのであって、決して王女に従えなどとは言っていなかったのだろう。


「なっ……」

王女は一日に何度驚けば気がすむのだろう。

しかし、その衝撃は理解できる。

なにせ手元に残ったのは年若く、国政で役に立つのかは未知な人材ばかり。

一方で、経験豊かな大臣と将軍が辞めると言っているのだ。この2人が辞めれば、他にも追随して辞めていくものが出るだろう。


「えっと、その……昨晩勇者のお兄ちゃんのところに行って来いって言われたから行ったけど、こんな夜中に男のところに来るなって怒られて部屋に帰らされたよ?」

「なっ……」

さらに追い打ちをかける聖女の言葉。きっと将軍こわいおとなの視線に耐えきれず、つい語っちゃったのだろう。

たかだか8歳の女の子なんだから。


そして大臣も将軍もあきれ顔である。なにせ計画がゆるすぎる。

夜中に自分の元を訪れたからと言って、こんな小さな女の子を襲うバカが王女と剣士と賢者こいつら以外にいるだろうか?

 

この話を聞いた王宮の要職にあるものたちのうち、過半数が辞任してしまった。

ただただ王女たちが欲望のままに勇者を追放しただけだからだ。


領地があるものは領地へ、平民は国外へ向かっていった。



そんな状況で王女たちは厚顔無恥にも、辞任してしまった者たちへの怒りを全く隠すことなく方々で当たり散らした。そして、自分たちに従うものたちを引き上げて体制だけは整えた。


残念ながらこの割を食うのは国民だが、彼らとて大人しく従い続けるだけではない。


王女たちが圧政、腐敗、増税のトリプルコンボを決めたことによって追い詰められた国民が、決起して剣士と王女を玉座から文字通り引きずりおろして処刑するまで5年ともたなかった。

処刑時には剣士と王女の称号欄には"暗愚の王"が現れていた。


そして彼らが処刑されたあと、王城の床から聖剣が発見されたが、誰にも使えなかったために不思議な剣として放置され、そして歴史の中に消えていった。


*----------


 


なんだこれ。



なんか意味があるのだろうか?

もしこれが実際にあったことだとしたら、あいつらアホすぎるだろう……。


なんでこんな夢を見るんだ?

何か関係してくるのか?あの3バカが転生しているとか?


しかし、妙に頭に残ったのは聖剣だった。

そういえばあれはこちらの知識にはない素材で作られていたな……。



あの剣を包んでいた不思議な淡い光が懐かしい。


とても落ち着くものだったから……。



*--

ここまでお読みいただきありがとうございます!

しれっとmogemushi様が27話のコメントで書いてくれた『エロゼリア』を使用させていただいております。ありがとうございますm(_ _)m

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