【第4話】

6月29日に、ひろつぐは保護観察士さんの男性の知人の紹介で守山区内にあるビール製造工場の運送会社に再就職した。


ひろつぐは、保護観察士の男性に対して『ご期待に添えるようにがんばります。』と言うたが、うそつきだから信用できない…


ひろつぐがアホンダラなら父親もまたアホンダラであった。


ひろつぐの父親が経営している縫製工場が少しずつかたむき出した。


信用金庫しんきんにユウシの申込みをしたけど断られてばかりいる…つらい…』とひろつぐの父親は言うたが、ユウシが下りない原因が自分自身にあることを理解していなかった。


工場の従業員さんたちの不満が日ましに高まった。


工場は、暴動が発生する一歩手前の危機にひんした。


工場で働いている女性従業員さんたちは、主に中国・韓国・東南アジア方面からの出稼ぎの従業員さんたちであった。


毎年出るボーナスは、本国で暮らしている家族のもとに全額送金していた。


ボーナスが支給される見込みがなくなった…


これから先どうしたらいいのよ…


アタシはだまされたわ…


どうして豚小屋同然の工場に就職したのか…


ボーナスを支給してよ…


本国に残っている家族を養いたいから、ボーナスを支給してよ…


6月30日の朝9時頃であった。


従業員さんたちは、ガマンの限度を大きく超えた。


工場は、より危険な状態におちいった。


この時、中国雲南省から出稼ぎに来ていた女性従業員さんが自己の都合でやめると言うたあと、スーツケースを持って出て行こうとした。


ひろつぐの父親が女性従業員さんの前で土下座したあと、必死になって引き止めた。


『もうすぐユウシが下りるから待ってくれ…』

『帰りの飛行機の予約は取っているのか?』

『あさってはみんなでコーチンを食べに行くのだよ…』


ひろつぐの父親の声は、女性従業員さんの耳に届いていなかった。


女性従業員さんは、スーツケースの金具の部分でひろつぐの父親の頭を激しく殴りつけた。


その後、工場から出ていった。


この時、ひろつぐの父親に従業員さんたちを引き留める余力はなかった。


ヒヘイしたひろつぐの父親が事務所へ戻った時であった。


この時、事務所に竹宮と竹宮が出入りしているヤクザの事務所の田嶋組長くみちょう貸金業者マチキンヤの社長・小林順慶こばやしじゅんけい山岡重秀やまおかしげひでの4人がいた。


ひろつぐの父親は、怒った声で言うた。


「おいお前ら!!なにしにここに来た!?」


この時、応接用のソファに座っている竹宮がふざけた声で言うた。


「まあまあ、そないに怒らんでもええやん…」


ひろつぐの父親は、怒った声で竹宮に言うた。


「おい、帰れよ!!帰れと言うのが分からないのか!?」


竹宮は、怒った声でひろつぐの父親に言うた。


「帰れだと!?おいジジイ!!ワテらは手ぶらで帰るわけにはいかんのや!!」


田嶋くみちょうは、不気味な声でひろつぐの父親に言うた。


「オドレは借金を踏み倒して逃げる気か!?」

「借金を踏み倒すだと…」


竹宮は、ひろつぐの父親のえりくびをつかみながら言うた。


「おいクソジジイ!!うちの貸金業者マチキンヤから借り入れた5000万円をなにに使った!?」

「いたいいたいいたいいたいいたい!!」

「おい、答えないのか!?」

「5000万円の約束手形は…従業員さんたちのボーナスを支給するための…」


(ドカッ!!…ドスン!!)


ひろつぐの父親は、竹宮に右足でけとばされたはずみでたおれた。


このあと、小林が金具のついたくつのかかとでひろつぐの頭をふみつけながら言うた。


「おいコラ!!ウソつくな!!」

「いたいいたいいたいいたいいたい〜」

「5000万の約束手形をどうする気だ!?」

「返す…返す…いたいいたいいたいいたい…」

「ほんなら今すぐにゲンシを出せ!!」

「ゲンシはここにないのだよ〜…いたいいたいいたいいたいいたい…」

「ほんならオドレの頭をつぶすぞ!!」

「いたいいたいいたいいたいいたい…」


田嶋くみちょうは、不気味な声で言うた。


「多川さん、これ以上テイコウをしない方がいいですよ…」


ひろつぐの父親は、必死になって許し乞いをした。


「返します…返しますから許してください…」


竹宮は、デスクの上に置いていたファイルを見ながら言うた。


「あんたのオイゴの娘さんは、いつからホストクラブに出入りするようになったのかな?」

「やめろ!!勝手にファイルを見るな!!」


出納帳チョウボにホストクラブのつけ払いの項目が書かれていたのを竹宮に見られた。


必死に許し乞いをしているひろつぐの父親を竹宮がおどした。


「従業員さんのボーナスが出ない原因がジジイのオイゴの長女コムスメのホストクラブ通いに使われていた…どう言うことゾ?」


小林は、ひろつぐの父親の頭をふみつけながら怒った声で言うた。


「オラクソジジイ!!答えろ!!」

「いたいいたいいたいいたいいたい…」


竹宮は、ひろつぐの父親の背中をふみつけながら言うた。


「あんたは従業員さんたちにさられた原因がまだ分からないようだな〜」

「やめてくれ〜…」

「ほんなら5000万円を今すぐに返せ!!」

「返すよ…だけど…」

「今すぐにゲンシをチョウタツしろ!!」

「許してくれ…この会社の開業資金は、妻の兄…義兄夫婦が出資してくださったのだよ…義兄夫婦は…子供たちの学資保険を解約して…工場の経営資金を出してくださった…」

「ほんならてめえの義兄に用意してもらえ!!」

「できない…義兄夫婦に負担をかけたくない…」

「あっそうでおますか…返せないのですね…それならしかたがありまへんな〜」


このあと、外に待機していたヤクザの男たち8人が事務所に入った。


竹宮は、8人のヤクザの男たちに言うた。


「おい、このクソジジイを半殺しにしろ!!」

「へえ。」

「立てコラ!!」


(ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!)


ヤクザの男たち8人は、ひろつぐの父親をボコボコに殴りつけた。


時は、夕方4時過ぎであった。


ところ変わって、日泰寺参道沿いの商店街にある八百屋の前にて…


あずさは、夕食の買い出しに来た。


この時あずさのガラホに電話がかかってきた。


電話は、ひでのりからであった。


電話に出たあずさは、めんどくさい声で言うた。


「もしもし…また残業…あなた!!今夜は、あなたの大好物のグラタンを作るからまっすぐに帰って来てと言うたのよ!!…そんなに家で晩ごはんを食べることがイヤなのね!!わかったわ!!今夜からは宅配のお弁当に変えるわよ!!」


思い切りブチ切れたあずさは、ガラホの電話をブチッと切った。


ガラホをバッグの中にしまった時であった。


となり近所の家の奧さまがあずさに声をかけた。


「ちょいと奧さま。」

「あら、おとなりの奧さま。」

「あんたー、どうしたの?さっき怒った口調で電話してたけど…」

「ああ…ダンナからでした…」

「ダンナ…」

「ええ…残業と言うたので『いいわけばかりを言わないで!!』とたしなめただけよ。」


あずさが言うた言葉に対して、となり近所の奧さまは『そんなふうには見ええないわよ。』とイヤミを言うた。


あずさは、怒った声で言うた。


「奧さま!!奧さまはうちにケチをつける気ですか!?」

「なんでそんなに怒るのよ?」

「怒りたくなるわよ!!」

「あんたー、さっき電話で今夜から宅配のお弁当に変えると言うたわね。」

「あれはダンナをたしなめただけよ!!」

「あんたーはいつからダンナに暴力をふるうようになったのよ?」

「奧さまは毎晩の晩ごはんの献立おこんだてを考えている人の気持ちが分からないと言うのですね!!」

「そんなことは言うてないわよ〜」

「言うたわよ!!もう許さないわよ!!」


あずさは近所の家の奧さまに対してかごに入れていたりんごをぶつけたあと走って逃げた。


この時、ひでのりあずさ夫婦の家族たちはひろつぐの実家で暮らすこと自体が苦痛になった。


家庭内の人間関係が極力悪化した…


これにより、家庭崩壊が発生するリスクが高くなった。

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