第19話 女子校生ゾンビと友人の男
「ねえねえ、名前教えてよ!あ、俺はね~……」
「待てって!」
シンイチが友人の男を連れ戻そうとしたその瞬間である。
友人の男がびゅんと走り出してしまったのだ。シンイチは驚いてしまう。優ちゃんほどではないが、それでも人間離れした素早さだった。
(は、速ぇえ!!?)
シンイチも心の中で叫びながら後を追ったが、どんどん引き離されてしまう。
「……」
そして女子校生ゾンビは自分を追ってくる友人の男を、どこかへと誘い込むように飛ぶような速さで逃げていく。
時折彼女は後ろを振り返り、まるで獲物を狙うような目でこちらを見ては何かをシンイチたちに訴えかけようとしているようだ。
「ひょぉお!!待ってぇええ!!」
雰囲気こそ和やかだが、追いかけっこの速度はさらに加速するばかりだ。
シンイチは必死に追いかけるが、やはり引き離されてしまう。
二人ともでたらめなフォームだったが全力疾走でもまったく追いつけない。
(くそっ!あの女どこに向かってんだ!?)
女子校生ゾンビも友人の男の姿もまたどんどん小さくなっていく。このままではあいつをどこかに連れ去られて、二度と会えなくなってしまうかもしれない。
「ゆ、優ちゃんごめん!あのあほを捕まえてくれ!」
「うん!」
優ちゃんは元気よく返事するとまるで瞬間移動のように一気に加速!
そのまま友人の男に追いつくと後ろから襟をむんずと掴み、ぐきりという深刻な音と共に廊下に引きずり倒した。
「うごお!」
「ねー、待ってよー」
「な、何すんだよ優ちゃん!」
「一人で行っちゃダメー!」
「で、でも俺、あの子と二人きりになりたくて……あっ、あの子が行っちゃう!」
シンイチが見てみると、女子校生ゾンビが開いた窓から身を乗り出し、壁を掴んでするすると昇っていくところが見えた。
まるで忍者か蜘蛛のように身軽な動きだ。
やはりあの女子校生ゾンビも教頭先生と同じく普通のゾンビにはない妙な力を持っているのだろう。
「ああっ!待ってー!」
友人の男の呼びかけもむなしく。彼女はすぐに見えなくなってしまった。
一体どこに行ったのだろうか?
シンイチが注意深く窓から顔を出すと、屋上の柵を乗り越えていく彼女の長い黒髪が目に入った。
(屋上で待つつもりか……?)
シンイチは少し考える。
このままあの子を追いかけてもいいのか?
どう考えても女子校生ゾンビはこちらを誘い込もうとしているようにしか思えないのだ。
だけど……。
シンイチは友人の男を見た。
(こいつはやめろっつっても大人しくやめるタイプじゃねーからな……)
そもそも俺は事の顛末を見届けると決めたはずだ。
それに、ここで下手に友人の男を止めようものなら後々で恨まれかねない。
……後はそう、アレだ。
どうせうまくいきっこないんだから、このままあの女子校生ゾンビにこっぴどくふられてもらおうじゃないか。
そうすれば頭を冷やすなりして、あいつも今後の旅に集中してくれるだろう。
……そうだな。
それが一番手っ取り早いのではないか?
シンイチはそう考えた。
「おい!さっさと起きろ、あの子を追いかけるぞ!」
「シンイチ、いいのか?!」
「当ったり前だろ?俺たちはお前の恋を本気で応援してるんだからな!」
「……!!あ、ありがとう!!」
「だから勝手に行動したりすんなよ、感動はみんなでわかち合うもんだ!」
「ああ、お前の言う通りだ!本当にすまん!!」
友人の男は謝罪するとにこやかに笑った。優ちゃんもにっこにこだ。
思惑はばらばらだが、チームの目的地は一つ。シンイチたちは屋上を目指し、再び歩き始める。
そして今、衝撃の実話を基に予期せぬ恐怖に襲われるサバイバル・ヒューマンドラマがついに始まった!
「……なんか変なニオイしねーか?」
非常階段の先にある扉の前でシンイチは鼻をならす。
色々あったが、今はようやく屋上に出る扉の前まで来ていた。ここは先に進みたいところだが……やはりどうにも何かがおかしいのだ。
「うん、なんか臭い」
「きっとあの子の匂いだ!俺のセンサーが反応している!」
「だといいんだがな……」
ゾンビの腐臭とはまた異なる、なんとも形容しがたい悪臭。
シンイチは嫌な予感がしてならなかった。
「よし、じゃあ行くぞ。みんな気をつけろよ」
シンイチは屋上への扉を開くと一気に飛び出した!
だがその瞬間、シンイチたちは信じられない光景を目にすることになる。
「な……嘘だろ、なんでこんなにおっさんたちが……!」
「うわー!さっきの教頭みたいなおじさんがたくさんいるー!」
なんと屋上にはゾンビと化したおっさんたちが大集結していたのだ!
しかも皆一様にずんぐりむっくりした体型か、あるいはぽっちゃりした体つきばかりでなんだか気持ち悪いことこの上ない。
(どっからこんなに湧き出てきたんだよ!?)
悪臭を放ちながら女子校の屋上を埋め尽くす数百体のおっさんゾンビ……なんというおぞましい光景であろうか、まるでゾンビ映画でも見ているかのようだ。
「おお!あっ、あの子がいるぞ!」
友人の男はそんなおっさんたちには目もくれず、屋上の一点を見据える。見れば屋上によくあるタイプのタンク上で女子校生ゾンビが風に黒髪をなびかせながら、腕を組んでこちらを見下ろしているではないか。
なんとも挑発的な目つきだ、まるで「ここまで来られるもんなら来てみなさい」と言わんばかり……しかも今にもスカートが風でめくれ上がりそうだ。
おっさんたちはそんな彼女を少しでも間近で見たいのか、タンクによじ上ろうとしている。だが指の機能が低下しているせいで握力が足りないのだろう。しがみつく側からへたり込むようにずるずるとタンクから落ちていく。
「おーい!俺もそっちに行っていいー?ちょっとだけでも話をさせてくれー!」
「あっ、おいバカやめろ!」
シンイチの制止もむなしく友人の男が大声を出すと、おっさんたちが一斉にこちらを振り向いてしまった。
「ほらあ!先におっさんゾンビどもを駆除するぞ!」
「シンイチ!あの子、俺を見て笑ってたんだよ!ちょっと話くらいさせてくれよ!」
「落ち着け。こんなおっさんだらけじゃムードもへったくれもないだろ!」
「それもそうだな!死ねや、このクソ雑魚ゾンビどもがぁあ!うぅるぁああ!!」
我を忘れた友人の男がデブのおっさんゾンビの脳天をショットガンでずばんずばんと吹き飛ばすと、それを皮切りに他のおっさんゾンビたちがどたどたとこちらへ向かってきた。
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