第44話 猫は家に憑く(1)


「すみません、トイレお借りしますね」


 そう言って、俺はリビングを後にする。正直に「幽霊がいたのでつかまえてきますね」と言っても、キョトンとされるだけだろう。


 白鷺しらさぎ女史の様子から見ても、無害な浮遊霊ふゆうれい程度にしか認識されていないようだ。

 捕まえた所で意味はないのかもしれないが、なにもしないよりはマシだろう。


 母親の方は白鷺女史が相手をしてくれている。

 状況的に俺が離れても問題ないハズだ。


 また、祖父母が居ない今の状況は好都合である。

 幽霊は普通の人には見えない。


 そんなモノを相手に捕り物をしていては、それこそ通報されてしまう。

 俺は廊下を出ると、家の奥へと進んだ。


 幽霊が入っていった奥の部屋は仏間ぶつまだろうか?

 ドアは開いていて、線香せんこうにおいがする。


 この部屋だけ和室のようで、緑のたたみかれていた。中央には頑丈そうな木製のテーブルが配置され、その上に幽霊がチョコンと座っている。


(猫の幽霊?)


 幽霊なだけあって体が透けている。

 そのためか、分かりにくいのだが『茶トラ』のようだ。


 日本猫の中でも、よく見掛ける品種なので珍しくはない。

 一応「男の子が多い」「他の猫と比べて体が大きい」といった特徴が有名である。


 正式な柄の名称は『マッカレル・タビー』(トラ柄)。

 マッカレルは『さば』で、タビーは『しま模様』という意味だ。


 確か『レッド・マッカレル・タビー』とも呼ばれ、色が薄い場合は『クリーム・マッカレル・タビー』となる。


 その他にも、毛色のバランスによって「まるどら」「茶白」「白茶」と呼び名があるらしい。お腹側の毛が白いので「茶白」のようだ。


 額にはM字のような模様が出ている。まるまると太っているので――


(『茶』というより『茶』だな……)


 生前はオヤツをもらい、甘やかされて育ったのだろうか?

 どちらにせよ、ハッキリと姿が見える幽霊はめずらしい。


 うらみやねたみをいだいたまま死んだ怨霊とは違うようだ。

 むしろ、その逆で死んだ後も「この家を守っている」といった所だろう。


「ほほう、そこの御仁ごじんわしが見えているようですな」


 ニャホホ――と目の前の『茶トラ』は笑った。

 相手が幽霊でも、猫なら会話ができるようだ。


 いや、そもそも猫は言葉を話さない。

 幽霊と意思の疎通が出来たとしても、不思議ではないだろう。


 恐らく、今のような状況の方が――


(本来の【呪い】の在り方なのかもしれないな……)


 どうやら友好的なタイプらしい。

 まあ、茶トラ猫は警戒心が少なく、甘えん坊でおおらかな性格の子が多いと聞く。


 起源はキジトラ猫で、毛の色は突然変異とされている。

 本来、明るい色は目立ちやすいため、自然界で生存することは難しいだろう。


 しかし、人間のそばで暮らすことによって、生き残ることに成功したようだ。

 外敵にねらわれることも少なくなり、狩りをしなくてもエサに有り付ける。


 人懐ひとなつっこい性格なのは、その方が「食事をもらいやすいから」なのだろう。

 そう考えると「自然と甘えん坊な子が多くなった」というのもうなずける。


 甘えられると、ついついオヤツをあげてしまうのが『猫好きのさが』というモノだ。

 結果、家に可愛がる人間がいた場合、太りやすくなるのだろう。


 見た所、この家にはキャットウォークやキャットタワーなどを設置していた形跡けいせきはない。高い場所へ上るためのステップもないので、明らかに運動不足が原因である。


(まあ、高齢の夫婦なら仕方がないか……)


 野良猫が居付いたので「飼うことにした」といった所だろうか?

 猫が成長期を過ぎても、変わらない量の食事を与えていた可能性もある。


 俺がこの家に来た目的を簡単に説明すると、


「なるほど、猫神様の御使みつかいであったか」


 目の前の『茶トラ』はあっさりと受け入れた。

 話が早くて助かるが、あまり人間ヒトを信用するモノではない。


 今までにも何匹なんびきかの猫と話したことはあるが、珍しい反応だ。

 猫社会というよりも、一部の猫たちに猫神の存在がとうとばれているのだろう。


 有難ありがたや有難や――といった感じで、前足の肉球を合掌がっしょうする。


随分ずいぶんと人間っぽい猫だな……)


 幽霊だからだろうか? 『猫又ねこまた』とは違うようだ。通常の幽霊は心残りがあるなど、強い思念の塊でしかないのだが、自我じがを確立している。


 猫の妖精である『ケット・シー』に近いのかもしれない。


「申し遅れました。儂の名前は『八月朔日ほずみ』と申します」


 と言って『茶トラ』は頭を下げる。

 体が丸いので、そのままテーブルの上から転がり落ちてしまいそうだ。


(『フク』や『トラ』じゃないのか……)


 8月1日にでも拾われたのだろう。

 正確には『八月朔日』というのは、旧暦の8月1日を指す言葉のようだ。


 丁度、稲が実り収穫を迎える時期で、現在では9月上旬に当たる。


(田の神様に豊作祈願をする日だったか……)


 茶色と白なので米を連想できないこともない――などと考えつつ、俺も自己紹介をすることにした。


「俺は『猫森ねこもり甘五あまい』。探偵にして、猫と話せる呪詛師じゅそし……」


 何処どこにでもいる普通の高校生だ――と告げる。


「それは素晴らしい!」


 と八月朔日。「普通じゃない!」というツッコミを期待したのだが、猫には通じなかったようだ。なんだか、俺の方がずかしくなる。




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 ニャーヽ(•̀ω•́ )ゝ✧ 真実はいつもひとつ!

 雑学豊富、悪霊退散!

 お人好し探偵、猫森参上!

 猫に頼まれ、捜査開始です!


 (」・ω・)」ウー!(/・ω・)/ニャー!

 どうやら、今度は東京に台風が直撃

 するようです。関東にお住いの方は

 注意してください。

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 ※土日は投稿をお休みします。

  次の投稿は8/19(月)を予定しています。

  🐟 ฅ(^ω^ฅ) ニャ~ ᗦ↞◃ ᗦ↞◃ ᗦ↞◃

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