第28話 弟子(1)


綺華あやかなら、別にいいさ」


 俺はそう言って、再び彼女の手を取った。

 そして、目前まで来ていた猫カフェの店の前まで移動する。


 外観は白と黒が基調で、落ち着いた雰囲気ふんいきだ。

 むしろ、知らなければ「ここが猫カフェだ」とは誰も思わないだろう。


 住宅街であることを考慮してか、建物自体に高さはない。

 なので、周辺の建物と比べて、取り分け目立つ様子もなかった。


 正面にある両開きの扉がなければ「大きめの家だ」と言っても通用しそうだ。

 まあ、猫に対する活動内容は知って欲しいが――


(大勢の人に来られても対応できないので困る……)


 といった所だろうか? 保護猫カフェはボランティアの側面が強い。

 殺処分や虐待ぎゃくたいなどから、1匹でも多くの猫を救うことが目的である。


 カフェの営業よりも、行政(保健所や動物愛護センターなど)から猫を引き取って、飼育を希望する人たちへ譲渡することが、活動としては優先されるのだろう。


 そのためには希望者にも、猫の境遇きょうぐうを理解してもらう必要がある。譲渡条件は細かいようだが、猫の飼育方法や接し方などを丁寧に教えてくれるハズだ。


 店員にはカフェとしての接客術よりも、猫に対する専門知識が求められるのだろう。また、地域猫活動を円滑えんかつに行うことも重要だ。


 猫カフェというよりは、情報収集と提供の場としての存在意義が強い。

 最近では認知度が高まったのか「ペットショップでは購入しない」という人も増えているようだ。


 まあ、ペットショップの現状や問題点を知っていれば――


(そうなるか……)


 高まるペット需要で仔猫工場キトンミルの問題もあった。

 多頭飼育の崩壊など、保護を必要とする猫も多い。


 そもそも野良猫自体、無責任な飼い主によって捨てられた猫が繁殖はんしょくしたモノだ。

 勿論もちろん故意こいではなく逃げ出した猫もふくまれるだろうが――


(それでも……)


 飼い主が不妊や去勢手術をしていなかった事は問題である。

 当然、不妊去勢手術については賛否両論あるだろう。


 しかし、現代において猫の場合「不妊去勢手術をして、完全室内飼い」が基本だ。

 農家や牧場ならまだしも、都市化が進み、住宅事情は変化してしまった。


 以前は放し飼いが普通だったが、猫は一度、屋外へ出てしまうと「怪我けがや感染症、交通事故や糞尿ふんにょうなどのトラブル」とリスクが多い。


 また、不妊去勢手術をすることで「病気の予防や発情にともなうストレスの軽減、問題行動(マーキングなど)の抑制」といったメリットもある。


 結果として、猫の寿命も延びるそうだ。

 確かに人間の場合も、去勢された「宦官かんがん」は長生きしたと聞く。


 男性が40代後半から50代前半で亡くなることが多かった時代において、70歳まで生きたらしい。猫を家族の一員として考えるのなら――


(適切な飼育を心掛けて欲しい所だ……)


 もっと具体的な例を挙げるのであれば、猫の場合、殺処分よりも交通事故で亡くなる方が死因としては多い。それも1月から3月に集中している。


 時期的に「発情が原因だ」とみて良さそうだ。

 発情期のメスのフェロモンは「2Km先まで届く」と聞く。


 なので、未手術のオスは「メスを探して遠出をする」というワケだ。

 当然、不妊去勢手術をすることで、そのリスクを減らすことが出来る。


 生殖機能がなければ、仔猫工場キトンミルで利用されることもないだろう。

 確か、虐待ぎゃくたいは「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」――


(殺した場合は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」だったか……)


 カランコロン♪――とドアベルを鳴らし、俺たちは店内へと入る。

 涼しいと言うよりは、快適といった温度と湿度の設定だ。


 暑い中、歩いてきた俺からすると物足りない。

 汗が引くには、もう少し時間が掛かるだろう。


 内装は木のぬくもりを感じるデザインのため、店内は落ち着いた雰囲気だ。

 しかし、受付カウンターのそばには物販棚が並んでいる。


 そのため「商魂たくましい」といった気迫きはくを感じてしまう。

 まあ、本格的なカフェでかせぐよりも――


(こっちで稼ぐ方が手も掛からないだろうし、猫のためにもなるか……)


 マスターこだわりの一杯を飲むようなお店でもない。本来なら、猫への接し方のルールを説明されるのだが――春先にあった事件で――ここのスタッフとは顔見知りだ。


「お久し振りです」


 と軽く挨拶あいさつを済ませ、俺は受付で自分と綺華あやかの分の入店料を支払う。

 同時に手洗いと消毒も済ませる。


 衛生面や猫の健康のため、靴下は必須だ。

 ストッキングやタイツの場合は、靴下を持参して重ねきするといい。


 流石さすがにその辺は、綺華も心得ている。

 俺たちは靴を脱ぎ、スリッパへと履き替えた。


 今回、綺華へは伝えていないのだが「今日はお客で来た」というよりも、ちょっとした頼まれ事があった。


 まずはそちらを優先する必要がある。当然【呪い】に関係する内容なのだが――


(まあ、除霊じょれいをするワケではないので問題ないか……)


 状況を見て、必要があれば説明することにしよう。


犬飼いぬかいくんはますか?」


 俺の問いに対して、受付のお姉さんは「今来ると思います」と答えた。

 数少ない男手という事で、力仕事でも頼まれているのだろう。


 一方で綺華は、俺が口にした人物の名前を聞いた途端、表情が不機嫌になる。

 犬飼に対し、綺華はいい感情を持っていないようだ。


 春先に起こった「猫ぷたつ事件」で、俺が危険な目にあったのだが、その原因が犬飼にあると思っているらしい。


 誤解ごかいいておきたい所だが――


(完全に誤解というワケではないからな……)




============================

 ฅ•ω•ฅにぁ? 「猫まっしぐら」なら

 聞いたことはありますが「猫真っ二つ」

 とは? 怖い事件があったようですが、

 それはまた別のお話です。

============================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る