第22話 酷い探偵(1)


(それにしても、口調から察するに……)


 茶々ちゃちゃは脱走の常習犯かもしれない。

 そもそも、猫はねずみから穀物を守る倉庫番として飼われていた。


 害虫も捕獲してくれるので身体能力は高い。果南かなんちゃんが知らないだけで、彼女が学校へ行っている間、家の周りを散歩していそうだ。


 バッタの件に関して、俺は「遠慮します」と断る。


(持って来られても迷惑だしな……)


 確か、野良猫はバッタやコオロギをよく食べるらしい。

 猫が捕まえやすく、大きさも丁度いいのだろう。昆虫はタンパク質も豊富だ。


 愛猫が蜘蛛くもを食べてしまった――という話もよく聞く。基本的には「安全だ」と考えていいが、毒蜘蛛である場合や有害な寄生虫を運んでいる可能性もある。


 また、他の昆虫にも該当する事だが、殺虫剤などの「化学薬品に触れていない」とは言い切れない。


 猫にき気や下痢げりなどの症状が現れた場合は、すぐに獣医師へ連絡した方がいいだろう。


 ただ、小さくてちょこまか動くモノを追い掛けるのは、猫の持つ狩猟本能だ。

 「捕まえたい!」「追い掛けたい!」となるのは仕方がない。


 窓の外を見て、猫がクラッキング(音を出さずにあごの動きだけで「カカカッ」という音を出す行動)をしているようなら、ちゃんと飼い主が相手をしてあげて欲しい。


 反応がいいのはレーザーポインターだろうか?

 赤色の点が――猫の目には――昆虫に似ているらしく、追い掛けるようだ。


 壁や床などに光を当て、運動不足を解消する分には問題ないだろう。

 ただ、光は捕まえることが出来ない。


 そのため、猫にストレスがまってしまう。レーザーポインターで猫の大好きな玩具おもちゃへと誘導するなど、目に見える獲物へとみちびくことが推奨されている。


 ここまでやっても猫が昆虫を食べ続けるようであれば「栄養不足だ」と感じている可能性が高い。総合栄養食のキャットフードを与えてみるのも手だろう。


 ちなみに昆虫食だが、人間の場合、成人男性に必要な1日のタンパク質の推奨は60gなので『コオロギ』だと100匹から200匹は食べる必要があるようだ。


 特に美味おいしいとされているのは『トノサマバッタ』らしい。

 1日絶食させ、ふんを出してから調理する。


 一度、でた後に数日天日干しにすることで、パリパリとした食感(スナック風)にすることも出来るようだが、素人しろうとは高温の油で揚げた調理法の方が簡単でいいだろう。


 以前放送していた岐阜を舞台にしたアニメでも、女性陣がバッタの天麩羅てんぷらを食べていたが、羽と頸節けいせつ(後脚のトゲが生えた部分)は外した方がいい。


 また、岐阜市内には昆虫食の自動販売機があるようだ。コガネムシ、タランチュラ、タガメ、キイロスズメバチが食べられるとニュースで観た記憶がある。


 昆虫食に関しては、専門のサイトがあるようなので、興味があるのなら通販で購入するのも手だろう。一時期、動画配信者もよく食べていた。


 しかし、日本なら『トノサマバッタの素揚げ』よりも『ハチの子』や『イナゴの佃煮つくだに』の方が有名だろう。


 大抵の日本人は食文化の違いから敬遠けいえんするだろうが、世界的に昆虫食は珍しいことではない。


 蝗害こうがいが度々起こるアフリカや中東の地域では、古くから食用とされている。

 預言者が『バッタを食べた』という記録もあるので、ハラール食として許容されているようだ。


(まあ、俺は食べたいとは思わないが……)


「ミャミャー」(美味しいのに)


 と茶々。そんな顔されても、無理なモノは無理である。

 一方で涼しくなってくる時間帯なのか、人通りも戻ってきたようだ。


 騒がしくなる前に、この場から撤退てったいした方がいい。

 俺としては帰るよりも事務所の方が近い。


 報告もあるので、この場で別れることにした。

 問題ないとは思うが、念のため、果南ちゃんを送るように『呪い屋』へ頼んだ。


 探偵事務所には白鷺しらさぎ女史がいる。真面目な彼女と自由人な『呪い屋』とでは相性が悪いらしく、互いに距離を置いているふしがあった。


 それが理由なのだろう。『呪い屋』は俺の提案を受け入れ、果南ちゃんを家まで送ることを引き受けてくれた。


 また『亀の甲より年の功』という言葉もある。

 踏切の【呪い】についても、上手く説明するように頼んだ。


「分かってるって……」


 任せておきな――と『呪い屋』。彼女にそういう態度を取られると、逆に不安になるのは何故なぜだろうか? 俺は2人と1匹を見送る。


 最後に霊のいなくなった踏切の写真を撮って、事件解決のメッセージと一緒に事務所へと送信。さて、俺もエアコンの効いた涼しい事務所へ――


(ではなく……)


 忘れない内に、事務所で今回の事件を報告書へとまとめなくてはいけない。

 依頼主である塾長の方へは所長から連絡してもらおう。


 汗をきながらも、俺が探偵事務所へ戻ると――学校帰りだろうか?――制服姿の綺華あやかがいた。


「真実はいつもひとつ♪」


 そう言って右手で俺を指差し、左手で指メガネを作って微笑ほほえむ。

 いつもながら、反応に困る振りはめて欲しい。


(「かみなり斬り」と言って、手刀でも返せばいいのだろうか?)


 作者が同じ人だから、勇気があれば分かるハズだ。

 まあ、そんなリアクションを考える俺も俺である。


「ボク、ちょっとトイレ」


 俺はそう言って、方向転換する。


「ちょっと待ってください! さては博士に電話する気ですね……」


 そうはさせません!――と言って、綺華に腕をつかまれてしまった。

 事件解決の邪魔をするとは、ひどい探偵もいたモノだ。




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 ฅ^>ω<^ฅ 名探偵AYAKA参上!

 今日もフルスロットルです。

 あれれー? おかしいぞー?

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