025.人形は喋らないんですよ
──■■さん、もう一度言います。よく聞いてください。人形はね、喋らないんですよ。その人形は喋ってなんていません。
「いいえ、先生。この人形は──娘は確かに喋っています。私にはちゃんと聞こえてるんです。『お母さん』って……」
『お母さん──ねえ、お母さん──』
──■■さん、その声は私達には聞こえておりません。
「そんな……だってこんなに……こんなにはっきりと聞こえてるじゃないですか!」
『お母さん──お母さんってば──』
──今はまだ我々が言っていることをご理解いただくのは難しいかも知れませんが、■■さんを傷つけるつもりは全くありません。なのでどうか、今はただ我々を信じていただいて、処方されたお薬をしっかりと飲んでいただいて──。
「私は病気じゃありません! ああ……どうして……どうして信じていただけないのですか? この子は……死んだ娘は……この中にいるんです……」
『お母さん──私はここにいるよ! ねえ──お母さん!!』
*****
「ずっとこんな様子ですか?」
動画を見終えた医者が彼女へと訊ねた。
「はい……」
「何か思い当たるきっかけや、原因はありますか?」
「……父が、その、知らない女性と、駆け落ちっていうんですかね。そういうことが1年ほど前にありましたが……父はもともと女性に対してだらしないところがあったので、母は、そこまでショックを受けていなかったように見えていたのですが……」
「うーん、まあその時は大丈夫でも、徐々にストレスが蓄積されて、ということもありますからね」
「はあ……」
医者がスマートフォンをタップし、再び動画を再生する。
部屋の中で、ぬいぐるみに向かって話しかける女性と、その女性に必死に語りかける彼女──娘の姿がそこにはあった。
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