第4話 御神刀は通りすがりのお姉さんにもらった

 トリガーを引くだけで、弾丸を発射する武器。

 火薬による銃は、人類の大きな進歩であり、同時に大量殺戮の始まりだった。


 俺は、自分の席で授業を受けつつ、ぼんやりと考えている。


(弾丸すら躱し、それより速く動けるなら、刀のほうがいい、か……)


 壇上の教師が、ちょうど御刀おかたなの説明をしている。


「理由はまだ不明であるものの、御刀と契約した者は超常的なパワーを発揮する! 防人さきもりと言われていても、一般人と同じ権利というのは不思議な話だ。ウチの中だから、言える話だけどな?」


 拳や蹴りだけで、一般人の体が吹き飛ぶわけだしなあ……。


「これには、いくつか理由がある!」


 第一に、定期的に発生する荒神を倒すための戦力だから。

 もっと言えば、外国から防衛する役目もある。


 第二に、この御刀がファンタジーだから。

 

「刀を失えば、その力が大きく下がることは、判明しているんだけどな?」


 人知を超えた由来となれば、政治的に叩くことにリスクが大きい。


 襲撃を防ぐことは不可能。


 おまけに、パフォーマンスで貶したら、御刀が消え失せましたとなれば――


(その党が丸ごと潰れるどころか、背信で命を奪われても、おかしくない)


 買収や誘惑もできず。


 それこそ、相手は天にいる神々だ。


「引退した防人は、その経験と残った力を活かして警察官や警備をするパターンが多い。お前らも、他人事じゃないぞ? 人生長いのだから、よーく考えておけ!」


 むろん、防人の側も、政治的に動いている。


 自分たちの権益を守りつつ、スクラムを組んでいるのだ。


 その1つが、俺の許嫁いいなずけとなった香奈葉かなはの実家である、天賀原あまがはら家だ。


 ちなみに、俺が選ばれた理由は――


「御刀を解放できれば、それぞれに特殊スキルを使える! これも、原理は不明だ。魔法のような物理的な干渉だけではなく、五感に働きかける場合も……。それとな? 御刀の中でも御神刀と呼ばれている、特別なものがある」


 教師が、俺のほうを見る。


 しかし、すぐに視線を外した。


(俺をつつけば、天賀原家が出てくるからなあ……)


 気を取り直した教師は、説明に戻る。


「そういうわけで……。正当な理由がない抜刀は、重大な処罰になりかねない! 質問は?」


「刀の解放条件と、その時の強さって?」

「個人差がある! 人によるんだ……」


「御神刀は、どこで手に入るんですか?」

「分からん! 氷室ひむろはどうだった?」


 全員の視線が、俺に集まった。


 つーか、結局は振るんかい!


「小学生の時に、通りすがりのお姉さんにもらいました」


 香奈葉が許嫁になった理由は、この御神刀があるから。


「友達がいなくなって、大変でした。ハハハ……」


 教師が、かろうじて答える。


「そ、そうか……。悪かったな?」


「解放したけど、刀身が伸びるだけでした。高枝切りバサミと呼ばれていましたよ」


 脇差から普通の刀ぐらいに伸びる。


 そ・れ・だ・け♪


 たぶん、本物の高枝切りバサミのほうがリーチ長いわ。



 ◇



 学校の裏サイトを見ることなく、1週間ほどが過ぎた。


 どうせ、俺の高枝切りバサミの話題だ。

 いずれはバレるし、先に言った。


(エゴサしても、仕方ねえや……)


 授業が全て終わり、生徒会に連れて行こうとする西園寺さいおんじ睦実むつみに捕まる前に――


 スマホの振動。


“体育館の裏にある倉庫前へ来てください”


 メッセージアプリで、学校の関係から……。


(発信者は、女子っぽい名前だが)


 タタタと足音がして、やっぱり睦実の姿。


 そちらに、スクールバッグを投げつけた。


 反射的に受け取る睦実。


「ちょっ、ちょっと!?」


「女子に呼ばれた! お前は来るなよ?」


「は?」


 目のハイライトをなくした睦実を置き去りに。



 ――倉庫前


 不自然に人がいない、空白地帯。


 まだ日は高く、立ち止まって見回す。


 死角から複数の足音。


 上の学年の男子が、俺を半包囲した。


 見えているだけで、5人……。


「何の用で?」


「お前、調子に乗っているんじゃねえぞ?」

「天賀原家の女子が許嫁で、御神刀を持っているだあ? 吹かすんじゃねえよ」


 ガラが悪い。


 抜刀の動きは、流石にないか。


「だいたい、高枝切りバサミって何だよwww」

「それ、ぜってーに御神刀じゃねえぞ!」


「1年主席の西園寺とベタベタしすぎ――」


 身体強化による踏み込みで、そいつの正面から近づき、驚いている奴に背中からぶつかりつつ、上半身を前へ折り畳む。


 宙を飛んだ奴は、投げっぱなしで、地面に叩きつけられた。


「ゴチャゴチャと五月蠅いんだよ、先輩たち? 陰口しか言えない女子か?」


「てめえっ!」


 殴りかかってきた奴をかわし、横をすれ違いつつ、足を払う。


 その後にも、常に一対一を心がけて、捌いていく。


(囲んだわりには、喧嘩慣れしていないな、こいつら?)


 不思議に思っていたら、1人がついに左手でさやを握る形を作り、右手を動かした。


 何もない空間から、刀が出現する。


 釣られて、全員が抜刀。


「そうか……。なら、こっちも抜くしかないな?」

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