ゲーム世界で未来の大魔王の叔父に悪役転生したんだが、大魔王になるはずの姪っ子が中二病すぎてつらい件。

羽黒 楓

第1話 ゲーム世界に転生してた!

「くっくっく……ついにこの日が来たな……」


 ふわっふわっにカールした長い金髪の少女が口角を吊り上げて笑っている。

 こいつは俺の姪、メロルラーナ・コラトピ・ダイバクローナ。

 まだ十一歳、そして将来俺の君主になるべき女の子でもある。


「わが祖父の養子であるところの、つまり我がダイバクローナ族の族長である父の義理の弟! つまり我が叔父よ!」


 大げさにそう言うメロルラーナ。

 俺たちは彼女のことを親しみをこめてメロと呼んでいる。


「いいよ、俺のことは普通にカルートって呼んでくれよ……」


 俺はそう言うが、メロは引かない。


「私は族長の娘! 言うことを聞いてってば! じゃなかった、聞くが良い! うわっはっはっ」

 

 そうは言ってもたかだが二千人ほどの種族の族長ってだけなんだけどさ。


 俺たちは暖炉のあるリビングルームでテーブルを囲んで座っていた。

 ま、暖炉とはいっても今は暑い季節だから使わないけどね。

 日は暮れて窓の外は暗くなりかけている。


「我が叔父よ、ついに十五歳の誕生日を迎えたな! 我がダークネスドラゴンファイヤーデストロイヤー騎士団の副団長に任命してやる!」

「あのなあ、いっとくけど俺らただの田舎農耕魔族だから。ダークネス……なんだって? もうお前も十一歳なんだからそういうのやめろよ」


 そこに、族長である俺のおじさん(名義上は兄さんになるけど年も20歳以上離れてるしこう呼んでる)が、たはは、と笑って俺に言った。 


「いやあすまないねえ、カルート。うちの娘、こういうのにはまってしまってねえ。学校が休みの日には本屋に行ってはあやしげな魔導書を一日眺めてるんだよ」

「眺めてるだけ?」

「うん、メロはまだ難しい字は読めないし、お小遣いもそんなにあげてないからねえ。魔導書なんて買えないよ」


 そこに、おじさんの隣に座っていたおばさんが優しい笑顔で言う。


「ふふふ、メロは本当にまだ子供ね。カルート、うちの娘にこれからもいろいろ教えてやってちょうだいね。十一歳にもなって戦争だ征服だなんて物騒なことばっかり言ってるんだから……」


 まあ実際この世界は人間と魔族が共存し、魔物と呼ばれるモンスターも跋扈している。

 剣と魔法が支配する弱肉強食の世界なのだ。

 でもさー。


「俺たち、魔族といってもただの農耕魔族だし……見た目だって人間とそんな変わらんし……」


 見た目で人間と違うところといえば、十センチほどの角が二本、頭から突き出ていることくらいだ。

 あと無駄に美形な一族で有名かな。

 メロは超絶美少女だし、伯父さんだって伯母さんだってイケオジと美女だ。

 俺もまあ、そこそこだと思う。


「ふふふ、それは仮の姿! 我が怒りによって我ら一族は恐ろしい巨大デーモンに変身するのだ! その姿は醜く、おぞましく、見る者を恐怖で嘔吐させる!」


 冗談じゃない、そんなことになってたまるか。


「くっくっくっ、これから我ら一族が世界を支配するのだ! 我がダークネスドラゴンファイヤーデストロイヤー騎士団が全部こう、うまいこと征服して、なんか、こう、あたしが支配者になるのっ! わっはっはっは!」


 ま、十一歳の子供のたわごとだと思って聞いてりゃいいか。

 そのうち大人になったらこんなのも治るだろ。


「そんなことよりカルート君……じゃなかった我が叔父よ! 今日は親愛なる我が叔父の誕生日! あたしが、じゃない、われがオオカミの血から生成した、魔なる聖餐せいさんがあるぞ! 叔父の成人のイニシエーションに必要なのだ! ちょっと待ってるがよい、わっはっはっは!」


 そう言ってトテトテとキッチンの方へ走っていくメロ。

 

「魔なのか聖なのかどっちかにしろよ……」


 聖餐って人間たちの宗教で使われる言葉だろ……。

 ま、俺たちは魔族といっても、今は人間たちとも友好関係にある。

 それに、今は別に人間たちが信仰している神とも敵対しているわけじゃない。

 千年前は魔族と人間とで大戦争やってたらしいけど、そんなのは大昔の話だ。


 現代というのはそれぞれの種族が交流しながらそこそこうまくやっている時代なのだ。

 そこに、メロがでっかいデコレーションケーキをトレーに乗せてやってきた。


「ふふふ! さあ食え、成人のイニシエーションであるぞ! オオカミの血から……」

「メロ、やめなさい、オオカミの血なんて入ってないだろ。カルート、これはね、メロがうちの妻と一緒に町で買ってきた材料で朝から作っていたものなんだ。今日は君の十五歳の誕生日、君が成人になる日。みんなでお祝いさせてもらうよ」


 テーブルの真ん中に置かれる生クリームたっぷりのケーキ。

 メロは凍結魔法が使えるから、生クリームを冷やすのに便利だっただろう。

 15本のロウソクが立てられる。

 なーんかこういう文化、地球そっくりだよな、この世界。


 ……ん?

 地球?

 地球って、なんだっけ……?


「さあ親愛なる我が叔父よ! このロウソクの火を吹き消すのだ!」


 メロやおじさんやおばさんが、俺の事を笑顔で見ている。


「よーし、じゃあ……」


 俺は大きく息を吸って、一気に火を吹き消した。


 その瞬間だった。


 頭の中でなにかバチバチと爆ぜた。


 そして、俺は思い出したのだった。


 俺は、俺は……2020年代の日本からやってきた、転生者だってことを。

 今俺がいるこの世界は、2000年代半ばごろに爆発的にヒットしたTPS(FPSモードも可)アクションオフラインRPG、【The New Ela Warsザ・ニュー・エラ・ウォーズ Ⅳ Killing Occupationキリング オキュペーション】の舞台だってことを。




 

 

 

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