第25話 スーパーGT 鈴鹿 最終戦
※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。
夏に開催予定だった鈴鹿戦が台風の影響で延期になり、初の12月開催となった。天候はいいが、気温は低いし、風が冷たい。
朱里は今季ラストのレースということで気合いがはいっている。今回のレースはサクセスウェイトがないし、山木からも
「今回はスタートドライバーを任せる。おそらく多くの女性ドライバーがスタートででてくる。まずは3分の1の17周を思いっきり走ってみろ」
と言われているので、耐久レースとはいえ、スプリントレースなみの気持ちでのぞんでいる。
予選Q1。気温が低いせいか、タイヤのグリップを感じない。なんか氷の上を滑っている感じだ。思うようにタイムが伸びない。チャンピオン候補の36番だけがやたら速い。同じ性能のはずなのだが・・・。結局1分44秒973で12位のタイムしかだせなかった。Q1のトップはリリアがとった。1分43秒670なので、1秒以上離されている。
Q2では山木ががんばって1分43秒921を出し、ポジションを10位にあげてくれた。チャンピオン候補の坪江がトップタイムをだし、予選ポイント3点を勝ち取り、この時点で年間チャンピオンを決めた。スーパーフォーミュラとのダブルタイトルだ。T社陣営はお祭り騒ぎとなった。
その夜のミーティングで山木が戦略を話した。
「朝も言ったとおり、今季最終戦だから思い切っていけ。基本は3分の1の17周で交代だ。状況が変わったら無線で連絡する。何も考えずに朱里のレース魂を見せてみろ。ただマシンを壊すなよ」
「はい、わかりました」
「それに明日も寒い予報がでている。タイヤには厳しい。最初の2~3周はあったまってないから無理するなよ」
その夜、ベッドでレースのシミュレーションをしているうちに寝てしまった。
決勝が始まった。天気はいいが、やはり寒い。10度をきっている。予報では雨が降るかもしれないということだ。
少し緊張しながらもステアリングを握る。ローリングスタートで隣にいたT社の37番に先行される。1コーナーでアウトのラインをとらざるをえず、少しふくらんだところで、後ろにいた14番の庄野にインをさされた。順位をひとつ下げてしまった。だが、3周はがまんの走りだ。無理はしない。
4周目、いよいよアタック開始だ。庄野の走りをじっくり見ることができた。堅実な走りをしている。ストレートでスリップストリームにつき、S字で間合いを詰める。庄野はプレッシャーを感じているはずだ。そして勝負のデグナーカーブ。デグナーのアウトでインをさした。庄野のマシンが左に流れる。接触ぎりぎりで曲がることができた。そしてヘアピンでは先行。順位をとりもどした。
5周目、今度は37号車ねらいだ。スプーンコーナーでやっと追いついた。性能は同じだからスピードの差はない。シケインの入り方をチェックする。ブレーキングポイントがやや早いことがわかる。
6周目、バックストレッチでスリップストリームにつき、130Rで間を詰め、シケインでのブレーキ競争だ。37番はインをおさえている。アウトで先行し、かぶせるような状態でシケインにはいった。37番はタイヤスモークをあげている。もしかしたら朱里の悪口を言っているかもしれない。これで9位にポジションアップ。
7周目、今度はN社の23番がターゲットだ。なかなか抜くスキを見せない。
10周目、デグナーカーブでGT300のマシンがコースアウト。タイヤバリアーに激突した。フルコースイエロー(FCY)である。時速80km走行だ。
12周目、S字を走っていた時に、FCY解除となった。そして、デグナーのアウトで23番がリアを滑らした。タイヤが冷えていたのに、アクセルをかけすぎてしまったのだ。後ろを走っていた朱里は巻き込まれそうになったが、インをさして無事に抜けた。23番もうまくカウンターをあててコースにもどっていた。これで8位にアップ。
15周目、GT300のマシンを抜きながらも、やっと前のマシンが見えてきた。H社のリリアだ。予選では1秒以上離されていたので、そのリベンジだ。ストレートではやはり敵わない。どうしても離されてしまう。
17周目、S字でくっついた。プレッシャーをかける。デグナーでしかけようかとも思ったが、リリアはレコードラインをしっかり走り、スキを見せない。だが、次のヘアピンでオーバースピードで入っていた。明らかにブレーキングミスだ。インががらあきになった。すかさずそこに飛び込む。リリアは強いブレーキをかけたので、立ち上がりも遅い。朱里先行でスプーンコーナーにはいる。その後のバックストレッチで追い詰められたが、何とか抜かれずにすんだ。そしてピットイン。7位で山木にチェンジできた。そこで、山木はバクチをうった。なんとタイヤ無交換作戦にでたのだ。
山木は果敢に攻めたが、やはりタイヤ無交換は無謀だった。後半は伸びずに順位を落とし、結局8位でレースを終えた。
「朱里ごめんな。せっかくがんばって順位を上げてくれたのに、うまくいかんかった。朱里はよくやったよ」
という言葉に朱里は救われた感がした。
父のキャンピングカーで自宅にもどる。母親が
「朱里おつかれさま。しばらくお休みだね」
「うん、疲れた1年だった。やっぱり3つ掛け持ちは大変だったわね」
「よくやったわ。チャンピオンにはなれなかったけれど、いい経験にはなったんじゃない。来年はどうするの?」
「まだ何も決まっていない。マネージャーからの連絡待ち」
「そう、じゃレースのことは忘れて温泉にでも行こうか」
「そうね。秘湯めぐりやってみたいわね」
ということで、しばらく親子水いらずの時を過ごす朱里であった。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。朱里のレースはここで一旦お休みです。来年はまた別な小説で朱里が登場するかもしれません。その時はまた読んでいただければと思います。 飛鳥竜二
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