第12話 海外投資の思わぬ壁
### 1965年の海外投資計画
現代日本において海外投資をする場合、上場株式等であれば証券口座を通じて投資することができただろう。しかしながら、1965年の日本においては、外為法でまだ外貨流出を規制する過渡期にあり、一定額以上の海外投資には許可が必要であった。
具体的には、十万ドル以下、当時の為替レートで三千六百万円の比較的小規模な海外への株式投資や資産運用であれば簡単に認められたが、数十万ドル以上の大規模な投資には政府の経済企画庁への詳細な審査と許可が必要だった。これは日本政府が外貨準備の流出を防ぐための措置であり、企業や個人の海外投資に対して厳しい制約が課されていたのである。
### 証券不況の利用と海外法人の購入
今回は証券不況の現在を利用し、既存の海外法人を比較的安価に購入することにした。響は、転生時にもらったアイテムボックス機能を活用し、アメリカ本土へ渡る計画を立てた。このアイテムボックス機能により、日本で購入した分の千万ドル金貨を密かにアメリカへ運ぶことが可能だった。
響はまず、東京の金市場で千万ドル分の金貨を購入した。金市場は賑やかで、金貨の光が室内の薄暗い照明に反射して輝いていた。金貨は一枚一枚丁寧に包装され、重厚な木箱に収められた。その木箱はアイテムボックスに収納された。この時代における金の価格は安定しており、響は金貨の売却で得られる資金に対して確固たる信頼を持っていた。
「これでアメリカでの資金調達は万全だ。さあ、いよいよ始まるぞ。」
### 綿密な市場調査
次に、響は信頼できるブローカーを通じて、アメリカの不動産と企業情報を収集した。ブローカーは詳細な市場レポートを提供し、各企業の財務状況や将来の成長予測を分析した。響はその情報を基に、未来知識を駆使して証券不況で価値が下がっている優良企業を見つけ出し、その中から最も見込みのある企業を選定した。選定基準には、過去の業績、技術革新の有無、経営陣の質などが含まれていた。
「ブローカーの遠藤さん、現地の状況はどうですか?」響は電話越しに尋ねた。遠藤は資料を広げながら答えた。「響さん、今がチャンスです。多くの企業が価格を下げており、優良物件も手頃な価格で手に入ります。ただし、競争も激しいので、迅速な決断が求められます。」遠藤は自信を持って答えたが、その声には慎重さも滲んでいた。
### 渡航の準備
準備が整うと、響はアメリカへ渡航するためのビザとフライトを手配した。羽田空港からニューヨークへと飛び立つ機内で、彼はこれからの計画を再確認し、成功への意欲を新たにした。渡航前には、必要な書類やビジネスプランをまとめ、アメリカでの活動に備えていた。
「彩花、渡航の準備は整ったかい?」響は不安を隠しながら尋ねた。「はい、おぼっちゃま。必要な書類や資料もすべて揃っています。」彩花は丁寧に答えたが、その声には響への信頼と自分自身の覚悟が込められていた。彼女は幼い頃から響の側で育ち、その支えとなることを誓っていた。
### アメリカ到着と金貨の売却
アメリカ到着後、響はすぐにブローカーと合流し、金貨の売却を開始した。ニューヨークの金市場で金貨を売却すると、彼の手元には巨額のドル資産が残った。響はブローカーの助けを借りて、安全かつ効率的に金貨を売却し、ドル資産を手に入れた。
「ミスタージョン、予定通り金貨を売却してくれ。」「了解しました、響さん。この取引で巨額のドル資産を得られるでしょう。」ジョンは笑顔で答えた。
IB●Mの株を4月末に購入し、11月末に売却することで、響は一千万ドルの運用資金から二百万ドルの利益を得た。株価の上昇を予測しての投資だったが、途中で経済政策の変動や市場の揺れ動きに対応しなければならず、ブローカーとの密な連絡と迅速な判断が求められた。響は日々の市場分析と情報収集に追われながらも、見事にその局面を乗り越えた。
「これでアメリカでの資金調達は万全だ。さあ、いよいよ始まるぞ。」響は決意を新たにしたが、その背後には政府の外貨規制という大きな壁が立ちはだかっていた。これを突破するためには、あらゆる手段を講じなければならなかった。響はそのことを胸に刻み、次の一手を考えた。
こうして、響は1965年という外貨規制が厳しい時代においても、自身の知識と特殊な能力を駆使し、大規模な海外投資を成功させた。
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