(11)――「……今日は、何月何日?」

 目を覚ますと、私の身体は知らない場所にあった。

 少なくとも、家の私の部屋ではない。

 真っ白い天井、ベッドをぐるりと囲むクリーム色のカーテン、その外側から聞こえる慌ただしい人々の声。

 ゆっくりと自分の身体に目を遣ると、たくさんの管に繋がれていて。

 そこでようやく、ここは病院なのだと理解した。

「ひさぎ! ひさぎ、目が覚めたんだなっ?!」

 父の声がして、そちらを見る。どうやら、ベッドの近くに座っていたらしい。

 父はほんの数秒で大雨みたいな涙を零し、私の手を握った。そうして私の存在を確かめるように触れつつ、良かった、と繰り返す。

 こんな一日の始まりは、始めてだ。

 もしかして、繰り返される一日から脱出できたのだろうか。

 突然降って湧いた希望に、喉が熱くなったような気がした。

「……お父さん」

 私は蚊の鳴くような声しか出せなかったが、父はしっかり聞き取り、耳を近づけてくれた。

「……今日は、何月何日?」

 そうして必死に尋ねた私に、父は、私の記憶にある日付から一週間後の日付を口にしたのだった。

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