第29話 聖女戦 其の四
猫耳騎士との距離を詰める。正直こいつ単体では大した脅威ではなく、片付けるのは簡単なのだが、聖女と戦いながらとなると話は別だ。
だがまあ、やれる。特に理由や根拠はないがやれる気がする。
視界の端で聖女が動くのが見えたので、猫耳騎士がちょうど私と聖女の対角線上に来るように移動する。これで多少は聖女の動きを制限できるかな?
距離を詰めてきた私に猫耳騎士が振り下ろした剣を回避し、スキルを叩きこむ。
「スラッシュ!」
クリーンヒットしたスキルにやはり護衛の方はそこまで強くないと安堵する。なんというか、ステータスの差を感じるね、うん。剣技も実直でカウンターのしやすいことこの上ない。攻撃を受けた猫耳騎士の陰から聖女が錫杖を振りかぶりながら現れるが、私の攻撃によりひるんでいる護衛騎士の鎧をつかみ、無理やり聖女と私の間に持ってくる。一瞬攻撃をためらった聖女。しかしその隙に私は護衛騎士を一刺し、二刺し。
「ダニエラ!!!」
聖女の悲痛な叫びが響く中、念のため猫耳騎士の首にもう一刺しした後力なく倒れかかってきた猫耳騎士を聖女の方に投げる。このゲームは敵の体力がわからないのでこれで猫耳を倒せたかはわからないが、恐らく倒せただろう。
涙目になりながら慌てて猫耳騎士を受け止め、両手がふさがっている聖女に攻撃を仕掛けようと踏み込んだ瞬間、体が凄まじく重くなった。
踏み込みに力が入らない。ナイフを構えるのがすごく遅く感じる。デバフか?この聖女デバフも使うのか?だが両手がふさがっている状態でどうやって………と、そこまで考えて思いいたる。
「憤怒」の効果が切れたのだ。
思えば、「憤怒」の効果時間フルに戦闘を行ったことは初めてだった。いつもは一瞬で戦闘が終わっていつの間にか切れていたり、使っても負けてリスポーンしたので切れていたりだったのだが、限りなく集中してる戦闘の中で効果が切れるとこうも混乱するものなのか。
そして、没入していた戦闘における自身の動きと思考速度の乖離によって引き延ばされた時間の中で私は聖女がこれ以上ないほどブチ切れているのが分かった。
「うわっ」
そう、それは思わず声が漏れてしまうほどに。
「十四の技・縄縛」
聖女がそう呟き、錫杖の石突を地面に叩きつけると私の足元からやたらと神聖そうに輝く縄が出現し、私を拘束する。いや、それはいいのだが、いやよくないのだが、何よりも技名を呟いた聖女の声が冷たすぎて怖い。
そして縄だ。これの耐久力がどの程度かはわからないが少なくとも今の私には引きちぎれそうにない。さっきまで使わなかったということはもしかすれば「憤怒」ありならば引きちぎれたりするのだろうか。しかし、うーむ、詰みだな。動けない。面白いほど全く動けない。そして、そんな私にツカツカと近づいてきた聖女が告げる。
「私は主に代わり、今からあなたを処します。なにか、言い残すことは?」
言いながら錫杖を掲げる聖女。その頭上に現れた大きな魔方陣からまばゆい光が漏れだす。ちょっとオーバーキルな気もするが、それだけお冠であるということなのだろう。
「くっそ、負けた」
私は聖女の頭上の魔法陣から放たれた眩い光に包まれ、死んだ。
リスポーンしますか?
はい
→いいえ
ゲームを終了します。
VR用の幅の広いゴーグルのような機器を頭から外し、チェアー型のVR機から立ち上がった私は感情のままに近くにあったベッドに飛び込み、ゴロゴロと転がる。
「ああ~……負けたぁぁぁぁぁぁ……まじかよぉ…………」
そう、ちょっと萎えたのである。というか、冷静に考えて理不尽じゃないかな?なんで急にあんなに強いNPCが喧嘩売ってくるんだよおかしいだろ!!
ゲームバランスどうなってんだよ、バグか?デバックちゃんとしろよ運営ぃぃぃいい…………。
そしてたっぷり十分ほどゴロンゴロンと転げまわった後、そういえば他のメンツはどんな感じだったのだろう。特にリュティ。と思い、携帯端末を取りチャットアプリを起動する。
フカセツテン
すみません!負けてしまいました!
アヤさんかリュティちゃんのところに護衛騎士が一人行くかもです!!
忠実な奴隷
申し訳ない……この罰は如何様にも。踏んだり罵倒したりしてくれていいっす。
フカセツテン
それは性癖さんがしてほしいだけなのでは……?
アヤ
負けたぁ!!ごめぇん!!
忠実な奴隷
うおっ
フカセツテン
アヤさんが負けるとは……聖女はそんなに強かったのですか?
アヤ
頭おかしいんじゃないかってぐらい強かったね。もはや理不尽だよ
リュティは?まさかまだ戦闘中?
リュティ
ん、ついさっき終わった。護衛騎士は倒せたからアヤの助太刀に行こうと思ったんだけど、アヤ居なくて聖女にボコボコにされて死んだ
忠実な奴隷
これでめでたく全滅っすね
アヤ
護衛騎士は全員倒せたってことだから……うん。
フカセツテン
?
忠実な奴隷
どうしました?
リュティ
これは多分、すごく悔しいけど無理やり自分を納得させてるんだと思う
フカセツテン
なるほど
忠実な奴隷
把握
アヤ
黙りなさい
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