第23話 PKの日常

 「さて、行こうか」


 今日も今日とてリュティと二人でもはや日課になってきたPKの獲物探しを開始する。最近分かったのだが、どうやらPKしたときにドロップするアイテムは彼我のレベル差によってほんの少しだけ変わるらしい。変わるといっても本当に少しだが。例えば私がレベル3くらいの始めたての初心者を狩ったところで何も落ちないよーくらいのものである。それと、初めてこのゲームにログインしたときに倒した人が何も落とさなかったのは、レベル1のプレイヤーはアイテムをドロップしないかららしい。

 まあ、新しい知識を得たという点では当然歓迎すべきものなのだが正直役に立たない知識である。では、この知識はどこからもたらされたのかということだが、


 「今日も、フカセツテンは来ないの?」


 「うん、そうみたいだね。寂しい?」


 「ううん、二人きりで嬉しい」


 「あ、そっすか」


 フカセツさんである。彼女はこのゲームのシステムや設定について考えたり検証したりすることが大好きな変人であり、半分脅迫のようなもので私たちのギルド(笑)なパーティーに入りたがった変人でもある。

 にしても、最近いよいよリュティの好感度がカンストしてきている気がする。この前もツヴァイの町のホーム(仮)でくつろいでいると膝に座ってきたし。いやまあいいんだけど、可愛いし。少し前にリュティの中身がおばさんだったらちょっときついなーと思ってなんとなく聞いてみたらどうやらリアルでは学生であるらしかった。

 というか、さっきから(笑)とか(仮)とかばっかりだな……。




 今回狙うのは馬車の護衛任務を受けたプレイヤーたち。NPCを巻き込む可能性があるため本来ならこういうのは狙わないのだが、なんだか強そうな装備をつけていたので狙ってみることにした。

 馬車が通るルートの前方にある茂みで隠密を発動し、通り過ぎる瞬間にプレイヤーに攻撃を仕掛けさっさと離脱する作戦だ。うーん、頭の中でまとめてみて思ったけど傍迷惑極まりないな?我ながらやってること悪人すぎて良心が痛まないこともないのだが……うん!ゲームだし、いいよね!!


 そうそう、私はこっちに来てからレベルが1しか上がっていないのだが、リュティは「怠惰」の影響かレベルがどんどん上がっていたので、隠密のスキルをとらせておいた。ま、まぁほら、私はレベル高いし、うん。


 そんなことを考えるといよいよ馬車がすぐそばまでやってきた。ので、視線と手振りでリュティに合図を出す。3、2,1、GO───



 リュティよりもワンテンポ速く飛び出した私は「不意打ち」で私から一番近い位置にいた戦士風の男の首筋に岩竜のナイフを放つ。Lv.60の圧倒的ステータスから放たれるスキルを首に打ち込んだことでクリティカル判定になりさらに威力に補正がかかる。結果、相手は死ぬ。


 今回の相手は四人パーティーであり、剣士1人と戦士1人の前衛2枚に弓使い1人と魔法職1人の後衛2枚の構成だ。私の横ではちょうどリュティが相手の弓使いを奇襲で仕留めていたので、もう2対2だが。

 私が始めに仕留めた戦士が粒子になって消滅し、ドロップ品として市販のポーションを落とす。ふむ、ハズレだ。しょぼい。戦利品を確認していると私たちの存在に気が付いたらしい残り二人が襲い掛かってくるが、レベル差があるのに同数の対決で負ける道理はない。しかも相手は前衛が一人しかおらず、私たちはお互いに3メートル程度しか離れていない。


 「クソPKどもがッ!!」


 そんな断末魔を残してデスした剣士のドロップアイテムはこの辺りのモンスターの素材数点だった。うーん、まあまあ。リュティの方は、っと。


 「え、あたりじゃん」


 私が、誰目線かわからないほど図々しくドロップ品を採点しつつリュティの方に目をやると、リュティが魔法使いからドロップしたらしい宝石を得意げにこちらに見せびらかしていた。この宝石は別に特殊な効果などはないきれいなだけの石なのだが、店でやたら高く売れる売却専用のアイテムだ。その買取価格はすさまじく、一つ売るだけで今最前線の町らしいフュンフの町での最高額の装備一式が揃えられるほどだ。


 「いやー、すごいラッキーだねー」


 「むふふ……」


 そしてリュティはどや顔で私にひとしきり自慢をした後、馬車の御者らしき男に目を向けた。


 「で、こいつは生かしておくの?」


 「うん、そうだね。NPCはプレイヤーと違って一回死んだら終わりだからこっちに向かってこない限りは見逃したいかな」


 「相変わらず、アヤは変なこだわりがある」


 「ははは、まあいいじゃないか。それでこの後はどうする?」


 次のプレイヤーを探すかモンスターでも狩るか、という意味で聞いたのだが、リュティの答えはそのどちらでもなかった。


 「うぅ、ごめん。今日はもう落ちる」


 「え、もう?珍しいね何か用事?」


 「えっと、もうすぐテストだから勉強しないと」


 普段ならばもうあと数時間はゲームをしているリュティが珍しく落ちるようなので理由を聞くと、テストとかいう極めて現実的かつ苦しくトラウマを刺激するような響きの言葉が返ってきた。


 「おっけー、じゃあ町に戻ろうか」


 「ん」


 それにしてもテストか………そう言えば私の取っている講義の中でテストによって成績を決めるもがあったはず。それの中間テストがもうすぐだったな。うっ、いやなことを思い出してしまった………。

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