第9話 狩りに出よう

 「……ふむ。」


 第一回イベントとやらの案内に一通り目を通した紋はそう呟いた。この内容を簡単にまとめるとこうだ。


・イベントは明後日から!


・特設フィールドで魔物を倒すよ!魔物を倒したらポイントがもらえるけど、得られるポイントはもちろんモンスターの強さによって変わるよ!


・参加は1~15人でできるよ!でも複数人で参加すると、モンスターを倒した時のポイントは戦闘に貢献した割合で分配されて個人に付与されるよ!


・倒したモンスターの経験値は通常時のように入るけど、ポイントはとどめを刺したプレイヤー個人もしくはそのプレイヤーが所属しているグループにしか付与されないよ!


 こんな感じである。




 いやもちろん参加はする。せっかくのイベントであるし参加はするのだが……


 「これ、私不利じゃない?」


 このイベントは参加人数が1~15人とある。これはおそらく普段パーティーを組んで活動しているようなプレイヤーのためのものなのだろうが、パーティーを組むも何もそもそもプレイヤーらしき人物にエンカウントしていないのだ。であるならば必然参加はソロでということになるのだが、アヤにはこのゲームのモンスターをソロでまともに倒せた記憶がない。というか最近は「これパーティー推奨ゲームなのでは?」なんて説がアヤの中では有力なのである。


 「不安だ……」


 モンスターにボコボコにされた挙句一ポイントも獲得できずに終わるなんてことが無いとも言い切れない……。しかし、同時にアヤの楽観的かつラノベ脳の部分がささやくのだ。


 『序盤からこんなクソ難易度がデフォルトなわけないじゃん。私は初期スポーンの運が悪かったんだよ。むしろ生き残った私のレベルは割と高い方なのでは?』


 「ふふふ……。」


 自分で考えた妄想に口角を吊り上げて少し笑う。そして一瞬にして我に返り、そんな都合のいいことはそうそうあり得ないと言い聞かせ、一人でこんな風に笑っているからいつまでたっても友達が少ないのだと自嘲し、いやいや私は友達少なくないし、そもそも友達の多い少ないで何かを測ろうとする行為そのものが愚かであると自分のメンタルをケアする。うーん、プラスマイナスは少々マイナス。『アヤのメンタルにほんのりダメージ!』


 「さて!」


 パンッと自分の頬を叩き、ドゥルグ村の外に出る準備をする。いつもはドーラの寄生虫だが今日は一人で出てみよう。せめてイベントまでに大イノシシの一体くらいは自力で仕留めておかないと安心できない。


 「あれ、アヤ?今日は狩りに行かないよ?」


 「アヤお姉ちゃんどこかに行くの?」


 私が村の外に出ようとしていると、ドーラとラコに話しかけられる。まあ、今の私はドーラの家に住んでいる、というかドーラの家にある客人用の寝床をセーブポイントにしているためこの二人と会うことは当たり前といえば当たり前だ。ちなみにこの二人の父と母は他界してしまっているらしい。

 ところで、このゲームはベッドや布団で眠ることでリスポーン地点を固定できる。町や村の中では戦闘中でもない限りは基本的に自由にログアウトできるのだが、定期的にリスポーン地点を固定しておかないといざデスしたときに遥か過去にいた場所まで飛ばされる可能性もあるから気を付けよう!




 「ああ、ちょっと一人で狩りに行こうと思ってね。そろそろ大イノシシくらいは一人で倒してみたいんだ」


 トテトテと近づいてきたラコを撫でまわしながらドーラに言葉を返す。この数日でラコには随分と懐かれたものだが、可愛い女の子に懐かれて嫌がる人類は恐らくこの世にいないのでこの権限をフルに使って全力で撫でまわしておく。くっ……そんなにうれしそうな顔をされると私の撫でる手が加速してしまうッ……!!


 「え……一人で狩りって………アヤが?………大丈夫?危ないんじゃ………」


 「いやいや、大丈夫だよ。多分。まあ最悪死んでも生き返ることはできるんだし、気楽にやるよ」


 「うぅん………まあ、アヤがいいならいいけど。あと、大イノシシじゃなくてワイルドファングね?」


 「おーけー大イノシシ」


 まだ少し心配そうなドーラを置いて村から出る。プレイヤーは死んでも生き返れるというのに、なぜか心配してくるのだ。まあ死んでいることには間違いがないのだし、NPCであるドーラが心配する気持ちもわかるのだが、普段の態度と違い本気で心配されると何とも言えない気持ちになる。


 っは!これがギャップ萌えというやつか………?


 まあ、根はいい人なのだろう。つくづく、私が最初に出会った人が彼女らでよかったと思う。

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