第7話 告知
地響きとともに巨大なイノシシが複数体迫ってきているのを確認すると私は隠密を発動する。ドーラと一緒に正面から戦ったところで私だけすりつぶされる事は分かっているのだ。というのも、この大イノシシどもレベル90くらいあるのだ。レベル90が群れて行動するんじゃねぇと怒り出したいところだが、大声を出すと隠密が解けてしまうのでそんなことはしない。
ひとまず初撃を食らわせて適当にヘイトを取るために隠れながら位置を調整する。一緒に行動してわかったのだが、このドーラなるNPCは相当レベルが高い。故にドーラ一人でもこの程度のイノシシの群れは何とかなるのだが、それでは私に経験値が入らないのだ。せっかく楽に大量に経験値が稼げる環境がそろっているのに活用しないのは失礼にあたるというものだろう。
「不意打ち!」
ガリッという音とともに一体の大イノシシの皮膚を小さく傷つける。とても生物の皮膚をナイフで切りつけた時に鳴る音だとは思えないが今は考えないようにしよう。「憤怒」も使用すればもう少しマシなダメージが出るのだが、それはこの後に戦うロックドラゴン戦にとっておく。これは別にロックドラゴンに多くダメージを与えるためとかいうわけではなく、単純にロックドラゴンの攻撃は憤怒を使っていないと安定して避けられないのだ。これは決して私のプレイヤースキルが低いのではなく、ロックドラゴンさんが強いだけなので間違えないように。そして、これはテキストに書いていなかったことなのだが、なんとこの「憤怒」とかいうユニークスキル、リキャストタイムが丸一日もあり、連発などとてもできないのだ。まあこのスキルちょっと強すぎると思うし、むしろこれくらいの制限があってくれて安心したほどなのだが。
そして、私が少しヘイトを稼いだ隙に横から大イノシシを蹂躙したこのドーラの村は案の定というべきか、そりゃそうだというべきか、竜人の住む小さな村であり、その中に真竜人なる上位種族がドーラ含め十人ほどいるそうなのだ。この上位種族というのがどうやってなるのか、そもそもプレイヤーになれるのかはわからないが、とりあえずわかるのは真竜人はロックドラゴンの肉を主食にしてるやばい奴らってことだ。凄いね。
『レベルが上昇しました Lv.46→48』
「まだ結構上がるな……というか、このゲームってレベルの上限とかあるのかな………?」
「ほら、ぼーっとしてないでいくよー」
私が自らの成長について思案しているとせっかちなドーラさんに急かされる。まあ金魚の糞の分際で何かを言えるわけがないので今日も今日とて可哀そうなロックドラゴン君を経験値の足しにするのだ。そうだ、せっかくだし日ごろの感謝を態度に表してみようじゃないか。
「わかりやした!姉貴!!」
「……は?あんた何言ってんの?」
「……ちょっとボケても乗ってきてくれないところはドーラの悪いところだと思う。」
「え?今の私が悪いの?」
「うんそうだよ、「金魚の糞ムーブ日ごろの感謝を添えて」だよ伝わらなかった?」
「えぇ……」
「まったく、これくらい軽く返してくれないと私の相棒は務まらないよ?」
「相棒って……さっき自分のこと金魚の糞とか言ってなかったっけ?」
「相棒兼金魚の糞なんだよ」
細かいことは気にしないでほしいものである。
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