結
1998年、3月下旬
WFE候補者第五次選抜結果について(通知)
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申 し上げます。
さて、今般の第五次選抜の結果、合格とな
りましたのでお知らせいたします。
敬具
「合格、合格だ!」
マンションの郵便ポストの前、1人の女性が歓喜に酔いしれている。
赤い髪にトンボの髪飾り、右目は赤、左目は灰色のオッドアイ。女性の名はシェリル・ル・フェイ。ちょうど今WFE選抜試験を合格になったところだ。
次の日
高層ビルの一室でシェリルは大量の書類にサインを書いている。シェリルの座る席の反対に男が浅く座っている。
「これで書類は以上になります。ところでマネージャーは決めておられますか?」
男は滑舌よく話す。
「マネージャー?」
「あなたのサポートをしていただく者です。あなたの1番信用する人に担わせて下さい。」
「それなら1人ふさわしい人がいます。」
「私にできるかな?そんな重大な役割」
マンションでシェリルと共同で住む女性が不安そうに話す。女性の名はオリオ・リゲル。
「オリオなら絶対できるって!」
シェリルが自信満々に話す。
「シェリルが言うならやってみようかな」
「よし、これでマネージャーは見つかった」
後日 WFE管理下の運動場
「今日から3ヶ月後のルルさんの本務開始に向けて身体の調整をさせていただくトレーナーのノアです。
よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「さっそくトレーニングをはじめましょう。マネージャーさんはシェリルさんがトレーニングをする間、シェリルさんのサポートのための勉学に励んでいただきます」
「え」
「それでは筋トレからはじめましょう」
2時間後
「はぁ、はぁ、し、死ぬ」
シェリルは顔を真っ青にして倒れる。
「このくらいは余裕だと思ったんですがね〜」
ノアは残念そうに話す。それもそのはず、シェリルは魔法魔術学校の名門、アルベルト高等学校を首席で卒業。大学での部活の成績はテレビに報道されるほどだった。ノアのシェリルへの期待は凄まじいものだったのだろう。
「この前のWFE選抜の対人戦見ましたよ。すごかったです。まさかロードマジックのオーバーヒートを相手の攻撃の隙にいれるとは、どうしてあれができたんですか?」
ノアは楽しそうに話す。今回のWFE選抜第4次試験では対人戦が行われ、シェリルはWFEのOBを倒して突破している。
「今日のトレーニングはここまでにしましょう。お疲れ様です。」
(オリオまだかな)
「シェリル〜」
「あ、来た。」
オリオはだいぶ疲れてるようだ。
「ほんと大変だった。身体のこととか心理学とかハイスピードで教えられて、頭割れそう」
「お疲れ様、大変だったね」
「シェリルはどうだった?」
「うわ〜それはキツいね」
オリオはシェリルに同情する。シェリルの右目はより深い赤色になった気がする。
「今からシェリルの住む家に行くよ」
シェリル宅到着
「着いたよシェリル」
車からおりたシェリルの目の前には豪邸があった。
「すごっ、ここに住むの?」
「そうだよ。シェリルと私と、あと料理人」
「え〜、独り占めできないの?」
「当たり前でしょ。他にもボディガードが交代で住むから」
「え〜」
3週間後
「今から会うのはWFEの1人、Lの担当のシャルロット・ローレン。魔法使いの名家ローレン家の次女。言葉使いにはなるべく気をつけるように」
オリオはシェリルに今日の予定を淡々と言う。
ここはシャルロットの大邸宅。
「今日久しぶりの完全オフでしっかり休みたいのに」
「相手も同じだよ」
シェリルは家に入りたくなさそうだ。
「ほら、頑張って。シェリルがシャルさんと話してる間私はいっぱい寝る!」
「君、シェリルって子?」
「そうです」
「シャルロットのマネージャーのステリアです。今回はシャルロットがシェリルさんとイチャイチャしたいとのことで来てもらいました」
(やっぱり行きたくないな〜)
「それであの人の病気なんですけど……」
シェリルはやっと家に入る気になったようだ。
扉を開け部屋に入るとそこには美しい女性がソファに座っていた。女性はラフな服装だ。
瞳は青色で左目の方が深い色、黒色の髪に少し小さい左耳。
この女性こそがシャルロット・ローレンである。
「シェリルちゃん!久しぶり」
(え?久しぶり?)
「あっ久しぶり…です…ね」
「ん〜………」
シャルロットはシェリルの身体のすみずみを見る。
「私のこと覚えてないでしょ」
「えっ……はい、覚えてないです」
「やっぱり(笑)そりゃそっか。会ったの12年前だし」
「さ、座って」
シェリルはシャルロットの座っているソファに腰かける。
「初めて会った時のこと話すね」
シェリルがシャルロットと会ったのは12年前、場所は小学校の帰り道だった。
「君、名前は?」
「シェリル・ル・フェイ」
「小学生だね」
シェリルは小学校の制服を着ている。
「君、住ませてるね」
「?」
「魔神だよ。それと神様」
シェリルは何を言われているのかわからない。
「ベルベットって神様と魔神バルデラが君の中に住んでいるんだよ」
「???」
シェリルはさらに言われていることがわからなくなった。
「(笑)ま、いっか。君頭良いでしょ」
「君には才能がある。世界最強の魔法使いになれる才能が」
シェリルは神と魔神両方の力を持ち、頭も良く、運動神経が良い。才能だけなら最強の存在へとなるのは確実だった。
「それにしても君可愛いね。大人になったらキスさせて」
現在
「今日は私とデートしてもらうよ」
「え、嫌です」
1時間後
(結局付き合わされてる)
「カフェ寄ろ〜」
シェリルは大量の荷物を持たされている。シャルロットは注文をしてシェリルと椅子に座る。
「トレーニングは今どんな感じ?」
「最近は人間の生活をしてないです」
「(笑)、そうだよね」
「山とか海で1週間生きろとか言われたりして」
「うわ〜私もやったわ。懐かしい」
「山はやばい生物がたくさんいるし海は水中だしでほんと大変でした」
「トレーナーのこと大っ嫌いでしょ」
「マジ○ねって思います」
「相当恨んでるね(笑)」
シャルロットは紅茶をのみながら話す。
「高校ってアルベルトだよね」
「そうです」
「私も。あそこ自称進みたいでやだよね」
「入って2日で後悔しました」
「だよね!先生の質も悪いし」
「トイレ超キタナイですし」
「年々進学実績落ちてるし」
「男子チンパンジーだし」
「それはない」
シェリルとシャルロットはウマが合うようだ。
「シェリルの人生の目標?みたいなのって何?」
「世界最強の魔法使いになることです」
「ってことはアルカナくんを超えるんだね」
「そうですね」
アルカナとは。本名アルカナ・ディ・カリオストロ。名家カリオストロ家の長男。大戦後最強と言われた無限の魔力、どんな苦境も乗り越える頭脳、自由自在に魔法を操る技を合わせ持っていた元WFEの魔法使いだ。テロ組織の襲撃で命を落とした。
「あれは全盛期のWFE4人全員で戦っても勝てないよ」
「え?」
「そのくらい、戦いの天才だったんだよ」
「なんで殺られたんですか?」
「私は知らない。多分何か闇があるんだろうね」
アルカナはそう簡単には死なない。襲撃時になにかトリックがあったのだろう。
「シャルロットさんってどんな人生を送ってきたんですか?」
「聞きたい?じゃあ話してあげる」
30年前 私の人生は悲劇の連続だった。
私が生まれた日、お母さんが死んだ。
私が生まれた時、お父さんは泣きながら私を抱いた。
魔法4大名家、カリオストロ家、メイジ家、ローレン家、マーリン家。
カリオストロ家とローレン家は仲がいい。
「この子の結婚相手など産まれたときから決まっている」
そう、決まっている。はずだった。
カリオストロ家の子とローレン家の子を結婚させて史上最強の魔法使いをつくる計画がWFEから提案された。
その子が私とアルカナくんだった。
アルカナくんとはよく遊んだ。
庭で駆けたり、積み木をしたり。
けど、アルカナくんは私を好きにはならなかった。
私はアルカナくんと同じ高校に入った。
私が高校生になった時、1人の男子が私に話しかけてきた。名前はオルカ・シェバ。どこの名家でもない普通の人だ。
「俺と勉強しない?」
断れない私は「うん。どこでする?」と応えてしまう。
4時間後
「あ〜疲れた。よく4時間ぶっ通しで勉強できるね」
「このくらいは普通じゃね?」
普通、か
「さっきから俺の頭の声聞いてるよね」
「え?」
私は産まれたときから人の頭の声が聞こえる。
ただそれを知られたのは後にも先にもオルカくんだけだった
「私先帰るね」
「あのさ」
「ん?」
「俺たち付き合わない?」
はぁ〜、ズルい、ズルいズルいズルい。私が断れないこと知ってて言ってる。
断れ!断れ私!
「うん」
あ〜あ、言っちゃった。私にはアルカナくんがいるのに。
「まじ?!よっしゃ〜!」
わかりやすい喜び方。こうなることはわかってたくせに。
こうして私はオルカくんの彼女になった。
「テストの点数見せ合いしようぜ」
「「せーのっ」」
「なんでそんな高いの?!」
「なんでそんな低いの?!」
オルカくんは優秀な生徒だった。それに比べて私は
「私、バカ?」
「バカだね」
「正直に言うんだね(笑)」
「俺正直なことしか言えないから」
この学校の生徒会に入るには成績上位である必要がある。私はお父さんの期待に応えるため絶対に生徒会に入る必要があった。
勉強して勉強して勉強して、私の学校生活のほとんどを勉強に注ぎ込んだ。
だけど、私は
生徒会に入れなかった。
ああ、お父さんの失望の声が聞こえる。友達の罵倒の声が聞こえる。
つらい。くるしい。耳鳴りが止まない。
そうだ、耳なんかなくなってしまえば。
「何やってんだ!」
「え、ここ女子トイレだよ」
「うるさい!なんで自分のことを傷つけるんだ?!」
オルカくんが助けてくれた。
「……」
「私、醜い?」
「そんなことないよ」
左耳がなくなった私を抱きしめてくれた。
「はい、医療魔法で耳はなんとかくっついた。あんまり触ったりするととれちゃうからね」
幸いこの学校の保健室の先生は優秀で耳が少し小さくなるだけで済んだ。
学校生活はつらいけどオルカくんといる時だけは現実を忘れられた。
オルカくんだけが私を見てくれた。私と同じ世界に入ってくれた。
なのに
「ごめん。もう会えない」
こうなることはわかってた。大丈夫。大丈夫なんだから。
もう止まってよ、涙。
悲劇はまだ続いた。
アルカナくんがいろんな人の反対を振り切って私の姉と結婚したらしい。
アルカナくんにもオルカくんにもお父さんにも友達にも好かれない。
私、ってなんなの?
「このままじゃWFEにもなれないぞ。試験官に多額の裏金を支払うから頑張ってきなさい」
お父さんがWFEに入れてくれるらしい。
もういいよ。殺して。消えたいよ、オルカくん。
1年後
お父さんが死んだらしい。私は仕事で葬式には行けなかった。
そして私の周りには誰もいなくなった。
あるのはWFEという称号だけ
「今年のWFE選抜はすごかったらしいよ」
マネージャーから動画を見せられる。
「新しくWFEに入った人の試験映像だよ」
「!、この子見たことある」
「シェリルって言う受験者だね」
「へ〜、シェリルちゃんか」
「君、名前は?」
「シェリル・ル・フェイ」
シェリルちゃん、大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き
シャルロットがシェリルの首を絞める
「ちょ、落ち着いて下さい」
「ごめんごめん」
夜、シェリルとシャルロットは一緒に風呂に入っている。
「ねぇ、キスさせてよ」
「嫌です」
「お願い、お金あげるから」
「……しょうがないですね」
「やった〜」
トレーニング最終日
「今日はシャルロットさんに来てもらいました」
最後のトレーニングはシャルロットとの対人戦。シェリルの専門魔法は風(空気)。シャルロットの専門魔法は大地。
シェリルたちは戦闘用の建物に入る。
「じゃ、始めよっか」
「いつでもOKですよ」
両者は魔法陣を出す
「よーい、始め」
「アバラン・オーバー」「テムパリス・オーバー」
オーバーヒートとは。魔法陣を割ることで魔法の出力や威力を無理やりあげる練度無視の危険な魔法の使い方である。これは魔法が魔法陣にヒビが入るほど威力が大きくなる性質を利用している。
魔法陣が割れるとその魔法はしばらく使えなくなる。
WFEの魔法使いのレベルになるとオーバーヒートを使いこなし使用時の危険を最小限に抑えることができる。
シェリルが倒れる。シャルロットは膝をつく。
(やっぱり最初はオーバーヒート使うよな。後隙にロード入れるしかないか)
「ゲノ・イグニス」
シェリルは風の魔法で空間を刻む。
シャルロットは軽くいなす。
「カンガラルド」
大地の魔法は極めれば自在に土をつくり、草木を育て、生命をつくることができる。大地の可能性は無限なのだ。
しかし
(ここでロード入れるか)
大きな力ゆえ反動や隙が大きくなってしまう。
これは神々の魔法、ロードマジック
「アブソリュート・ゲノ・ラトス」
(!)
「フフ、甘いね」
(なんでこれをくらってまだ意識があるんだ?!)
シャルロットはシェリルの腹に手をあてる。
「イベレイク」
シェリルは一瞬意識が飛ぶ。
「そこまで。やりすぎですよ」
「このくらい大丈夫だと思ってたけどね。まだまだアルカナくんにはほど遠いよ、シェリル」
まだシェリルは魔法の理解が浅かった。
(なんだ、強いじゃん)
次の日
「今日のスケジュールはWFEの皆さんと顔合わせ、その後写真撮影」
「わかった」
すっかりマネージャーが板に着いたオリオはWFEのメンバーがいる会議室の扉を開ける。
「俺ってやっぱバカかっこいい」
「会議の資料行間詰めんなって言ったよな」
「この前ソルからもらった電子レンジ爆発しちゃったんだよね(?)」
((なんだこの空間))
「え〜っと、一人ひとり紹介するね」
オリオが戸惑いながら説明する。
「まず自分大好きなソルさん」
ソル・ファデラ・メイジ。名家メイジ家の長男。
黒人。赤色の瞳をしている。
「説教してるのがオルカさん」
オルカ・シェバ。シェバ家の1人息子。魔法使いの中では無名の一家出身である。左目が黒色、右目が白色の瞳がある。
「で、前会ったシャルロットさん」
シャルロットは左目が青緑になっている
「来たか、シェリル」
「来たぜ、ソル」
シェリルとソルは昔からよく交流があった。シェリルはソルの両目が赤い理由をよく知っている。
「そろそろ時間だね」
「行くか」
「どうやってここまで来たんだ?なんにも出来ねぇじゃんお前」
(まだ説教してる)
会議室を出て廊下を歩き、扉を開けた先には4つの
玉座と大勢の記者がいた。
「シェリル、初めて会った日のこと覚えてる?」
オリオが懐かしそうに話す。
「私が亡くなったお姉ちゃんのところに行こうとして飛び降りしようとして、シェリルが止めてくれて。」
シェリルは思い出す。満月の日だった。
「シェリルがいるから私がいるんだよ。ありがとう」
「何急に(照)どういたしまして」
「それでは撮影します」
パシャッ
(あぁ、私今、世界を手に入れたんだ)
4つの玉座に4人の世界の頂点。
ここから彼女の伝説が始まる。
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