同僚・近原依莉の証言

「……。

 …………。

 ………………。

 ……その、うう、ぐすっ……本当に、申し訳ありませんでした。

 ……え? なにに対して謝っているのかって、その、それは、私の末継先輩への態度が悪くて、それが自殺に繋がったことについて、追求しにいらっしゃったのではないのですか……? 違う、とは……?

 ……。先輩のご友人の証言は、正しいです。確かに私は三ヶ月前、先輩に対してそういった発言をいたしました。……いや、ええと、本当に不快に思われたりしませんか? 本当に? それなら喋りますけど……。

 先輩は元々思慮深くて、普段からよくいろんなことに気づく人でした。それは業務上のミスだったり、職場の人間関係の機微だったり。本当に、どうやったらそこまでアンテナを広く張りながら仕事ができるんだろうって不思議に思うくらい、よく気のつく人でした。私自身、それで何度も助けられたこともあって、とても感謝しています。

 ……だけど、それが毎日のように積み重なっていったらどうなると思います? 例えるなら、小学生が毎日親から早く宿題やりなさいって言われてるような気分になるんです。私が動くよりも先に先輩は私の動きを予想し、失敗する可能性を危惧して声をかけてくるんです。その所為で、私はだんだんと自信がなくなっていきました。常に正解がわかっている人の隣で仕事をするのって、だんだん精神が擦り減っていくんですよ。先の失言は、その思いが我慢しきれなくて、口をついて出てしまったものです。改めて、誠に申しわけありませんでした。深く反省しております。

 ……普段の先輩の様子、ですか。さきほども申し上げた通り、仕事はとてもできるかたです。それこそ、異常なくらいミスをしない人でした。だけど、先回りが過ぎて、周囲からやんわり避けられていたと思います。理由は、たぶん、私と同じかと。そんな調子だったので、先輩とは仕事の話はしても、プライベートなことはなにも話したことがありません。休憩時間中も、一人で何処かへ行って食事をしていたみたいですし。

 先輩が亡くなった日も、いつも通り出勤されて、いつも通り定時で退勤されました。ただ、ここ一ヶ月ほどはなんだかいやに疲れているようにも見えまして……。業務が立て込んでいるわけではない時期だったので、体調が悪いのだろうと、うちの課長が有給取得を勧めてたみたいなんですけど、大丈夫だって言って断ってたみたいです。

 あの……先輩って、自分が犠牲になれば良いと思ってる節があった感じがするんですが、お姉様から見てもそうですか? 昔からああいう感じだったんでしょうか? いえ、その、なんとなく、訊いておきたくて。先輩、自分はミスをしませんけど、他人のミスはしれっと被る傾向にあったので。私にはそれが、自己犠牲の精神というよりかは、そうすれば一番簡単に場が収まると思ってるみたいな振る舞いに見えて……いえ、今のも失言でした。忘れてください」

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