第70話 =小話=ミセス・マッチョスから届いた本で命の危機!①
マリリンの先輩にあたり、尚且つ『カズマリ』を愛してやまないミセス・マッチョスから本が届いた。
新作の本が3冊も。
毎度『カズマリ』を楽しみにしているマリリンは、ミセス・マッチョスから届く新刊を心待ちにしていたんだ。
「マリリン良かったね。今回はどんな『カズマリ』だろうね」
「『カズマリ』は純愛の筆頭だからな! なんとも読んでいて気恥ずかしくとも嬉しくなる小説だ!」
「ははは! 僕は執務室で仕事を片付けてくるから、マリリンは本を読んでていいよ」
「む、そうか? それなら紅茶と一緒に本を読んで居ようかな?」
「うん、と言っても執務室はこの部屋の隣だしね。行ってくるよ」
こうして僕は隣の執務室へと向かい、持ち帰りの仕事を進めていた。
普通ならば僕から一時たりとも離れたがらないマリリンだけど、ミセス・マッチョスから届く本相手だと、そっちを優先する。
マリリンは恋愛小説が兎に角好きだ。しかも自分たちが題材となっているともなれば、感動も一入だろう。
僕としては二次創作であっても恥ずかしい為、少し恥じらいのある話だと助かるなぁ……なんて思っていたのだが、暫くすると隣の部屋からマリリンの雄叫びが聞こえ、屋敷が震え、一体何事かと立ち上がった瞬間――隣の部屋にいた筈のマリリンが壁を突き破り部屋に転がり込んできた。
――それも、鼻血を噴き出しながら。
愛しい妻に何が起きたのか理解が出来ない。
寧ろ壁の修繕は直ぐできるのだろうか?
その前にマリリンの鼻血が飛び散って、散々たる悲劇の惨状の様になってしまっている。
後で壁紙も変えなくては……。
「マリリン! どうしたんだい!?」
「ううう……カズマ、カズマ!」
「落ち着いてマリリン、さぁ、僕を抱きしめて落ち着くんだ」
「嗚呼、嗚呼! 今カズマを抱きしめたら……抱きしめたら!」
「マリリン?」
「うっかりボッキリポッキリボッキボキに骨を粉砕してしまいそうだ!」
「愛が激しいなぁ……」
ウッカリ殺されるのは宜しくない。
だがマリリンがそこまで叫ぶなんて……質のいい大胸筋に包まれしミセス・マッチョスから届いた本の所為だろうか?
「もしかして、ミセス達から届いた本が面白くなったとかないよね?」
「面白く……ない訳ではない。フウ、フウ、フシュ――……そう、何といえばいいだろうな」
「うん、心を静めて……」
口から煙と言うべきか、気を吐き自分を落ち着かせるマリリンに寄り添い、全身から迸るオーラが湯気の様にモクモクと上がるのを見つめながら僕は言葉を待った。
すると――。
「今回は……『カズマリ』じゃないんだ」
「え、『カズマリ』じゃない? じゃあ一体なんだっていうんだ?」
「なんと……『マリカズ』だったんだ!」
「『マリカズ』!?」
「私がカズマを、カズマを! こう、こう、こうなんというかな! こうこうこう……ベッドの上で可愛がるというのかな!」
「マリリン鼻血が!」
「嗚呼! 嗚呼! こんな世界があるなんて! 女性の方から男性を……っ! 嗚呼! 新鮮! 新しい世界! おはよう世界! グッドモーニング!」
「マリリン落ち着いて!」
「これは是非とも実践せねばなるまい! 私がカズマの手を取り足を取り可愛がるというのは……一つ間違えれば大惨事! カズマの大事な部分を引きちぎってしまうかもしれない!」
「引きちぎらないで!?」
「だから慎重になろうと思う……。そう、これは……『マリカズ』に慣れる為にはかなりの練度が必要だ。不慣れな為にカズマの大事なモノを失う訳にはいかないからな……。そう、ウッカリ私の肺活量で引きちぎってしまわないようにしなくては」
「何を!? 恐怖しか今の僕にはないんだけど!?」
鼻血を床にドバドバと流しながら強敵と戦った後の様に震えるマリリンに対し、僕は身の危険しか感じていない……。
バタバタとやってきたマイケルさんとジャックさんは、その惨劇たる部屋をみて一瞬呆然とし、僕とマリリンに駆け寄った。
「マリリン落ち着け……一体何があったんだ」
「取り敢えず鼻血をお止め……。床が血まみれだ」
「おお、兄さんたち。すまない、つい滾ってしまった」
「滾るのは良いが、カズマ殿も悲惨な状態になっているぞ」
「鼻血と言う名の血しぶきを浴びたんだな……」
「ええ、ジャックさんは今回のミセス・マッチョスからの本は読まれましたか?」
「いや、俺もさっき届いてまだ読んでいないが。読んだ結果が此れか?」
「はい」
「兄さん……『カズマリ』じゃない。『マリカズ』なんだ」
「『マリカズ』……んん? なんだって?」
「私が、マリリンが、カズマをベッドの上で好きにこう、アレしてコレしてあーしてこう! ズキューン! と言う感じなんだ!」
「何だって!? それはマリリンには刺激が強すぎる!」
うん、僕には伝わらない。
だが兄ジャックには伝わったらしい。
流石兄妹。
「そこで、私も今夜は『マリカズ』を試してみようかと」
「止めるんだマリリン! カズマ様が女の子になっちゃうぞ!」
「むお! それは困る! だが試したい気持ちを抑える事は出来ないんだ!」
「今、サラッと僕の色々な危機を察しました」
「ああ、俺もそれは嫌と言う程感じたよ」
「嗚呼マリリン……君にはまだ早すぎる」
「嗚呼兄さん……だが少しずつ慣れなくてはならない手管と言うものがあるだろう?」
「「手管……」」
つまりだ。
つまり、僕は今、夜の生活において危機に瀕している……と言う事だな?
ふむふむ、なるほど?
しかも、割と深刻に僕は性転換を物理的にされる可能性が高いと。
なるほど?
「マリリン」
「カズマッ」
「その小説の様に、一気にしてはマリリンも精神的にいっぱいになるだろう? だから、まずは僕の方から僕がどうすれば気持ちが良くなるのかを知るべきじゃないかな?」
「ハッ! 確かに……」
「だから、まずは僕が手管を教えるから……。1つずつクリアして、慣れて行ったらその小説の様に……と言うのはどうだろうか?」
「カズマ……ッ! そんな……私の為にっ!」
「お互いの為だよ。夜の生活は夫婦にとって必要不可欠。お互い良くないと片方だけ満足じゃ駄目だろう?」
「おおおおおお! カズマよ! 私は、私は一度に色々考えすぎていたのだな! 危うく大事な事を忘れる所だった! 流石我が夫だ! 流石私が惚れに惚れ込んだ男!」
どうやら危機は脱した様だ。
冷や汗が流れたが、散々たるこの惨状を綺麗にしなくては。
直ぐに家令を呼び、修繕と壁紙の取り換えと床の掃除などを頼み、家令は「奥様またですか?」と額を抑えつつも手配をしてくれた。
そうマリリンを注意しつつも慣れた手つきで手配してくれる家令には感謝だ。
「取り敢えず、僕も勉強したいから本を借りても?」
「あ、ああ。是非読んでみてくれ」
「分かった。夜の部分なんかは特に読み込んでおくよ」
「ウホッ! 新しい扉が、新世界がオハヨウしそうだぞ!」
「うん、新しい世界にマリリンはオハヨウしちゃったんだね」
頭を撫でつつ僕はその後、執務が出来る状態ではない為隣の部屋に移動してマリリンには本を読ませずジャックさん達と三人でミセス・マッチョスから届いた本を読んだ。
確かにこれは――。
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