第7話 頑張って貰いたい気持ちを込めて……

 ――明日マリリンが一度異世界に戻ると言う事で、僕はマリリンにちょっとした物をプレゼントしようと大型ショッピングセンターに来ていた。

 この田舎では、バイクや車で来ることが出来る数少ないお店だったりもする。

 僕は気にする様子もなく女性が好みそうな店に入ってはプレゼントになりそうなものを探していた。



「プレゼントには胃袋に消えるものが良い……って母さん言ってたけど」



 最初のプレゼントに形に残るものはあまり宜しくないらしい。

 それらを踏まえ、マリリンの好きなものを購入するとしたらコレとコレだろうか?

 自分の財布でも買える可愛らしいソレ等にカズマは満足して頷いたその時だった。



「あら、斎藤君じゃない」

「あぁ……立花さん」



 近所ではある種有名なお宅の一人娘――立花リツコが長い髪を靡かせ歩み寄ってきた。立花の実家は近所でも有名な大地主であり、彼女はその家の跡取り娘。

 その上、見た目も華やかで美しい女性ではあったが、僕的にはどうにも苦手なタイプだった。



「あら? そんな可愛らしい趣味があったなんて……斎藤君はそっちの趣味でもあるの?」



 クスクスと笑う彼女に僕は小さく溜息を吐くと「いや、プレゼント」と小さく返した。

 だが、その一言は立花リツカにとって青天の霹靂であったようだ。



「え? は? プレゼント? それってお母さんへのよね? 絶対そうよね???」

「そうじゃないんだけど、暫く実家に帰るらしくってね。砂糖菓子が好きらしいからお土産にと思って」

「あぁ、もしかして従姉妹でも遊びにきてるとか?」

「まぁ、そんなところかな?」



 ――従姉妹でもなんでもないんだが。

 だが、立花的には相手が実家に帰ると言うワードで安心したようで、いつもの調子を取り戻した。



「相手の好きなものをチョイスするなんて、男としてはある程度の合格ラインかしら?」

「あ――……そうだといいんだけどね」

「それで? その従姉妹さんの見た目はどんな感じ? 年齢は? 女性らしいとかあるでしょ? 好みとか?」

「年齢は確か20歳だったかな。見た目は背が高くて綺麗なショートカットで……性格は大らかで明るいかな」



 確かにマリリンは2メートル有にある高身長であり綺麗な角刈りのようなショートヘアーである。そして性格は大体あっている。



「と言う事は……お母さんの家系の従姉妹さん?」

「遠い親戚なのかなぁ……」

「性格は好ましいとか?」

「確かに可愛いとは思うよ」

「恋愛に発展する可能性は?」

「何で立花さんがそこまで心配するのさ」



 プレゼントするのならシッカリと選びたいのに、選んでいる最中にアレコレ質問されると少しだけムッとする。

 それを察したのか立花は「まぁまぁ」と笑顔で流し、その後も買い物についてきた。



「だって斎藤君って女性と全く接点がないのに、こういう店で女性用にプレゼント買ってるのとか見るとついね」

「ふーん」

「それに、こういう店に入るなら女の子と一緒の方が場に浮かないっていうか?」

「あぁ、それはあるかも」

「でしょ? 見つけてあげた私に感謝してよね」

「それとこれとは話は別かな」



 僕は、一般的な女性が少し苦手だった。

 それも仕方ないのである。

 一番身近にいる母親が、所謂オタクなのだから。

 しかも二次元の方でのオタクな為、世間で言われている芸能人等の会話は皆無である。



「取り敢えず、可愛いプレゼントが選べて良かったよ。絶対気に入ると思う」

「良かったわね」

「後は渡した後に、絞殺されないかを祈るだけかな」

「え?」

「家に帰って生き残れるあらゆるシュミレーションしたいから帰るよ。またね」

「え? 生き残るって何?」



 困惑する立花をそのままに、僕はバイクに乗って走り出した。

 どの角度からどう避けるかを脳内で何度も再生しつつ、あらゆる対策を練りながら帰宅すると、庭ではマリリンが両手剣だと思われる剣を二刀流し、何度も素振りをしていた。


 飛び散る汗が凄い。ついでに風圧も凄い。

 バイクを止めマリリンに声を掛けると、両手剣を二本とも収納し、滝のように流れる汗をタオルで乱暴に拭いながら歩み寄ってきた。



「無事に帰ってこれてホッとしたぞ!」

「ああ、心配かけてすまない。本当はもう少し早く帰ってこれる予定だったんだけどね」

「ほう……んん!?」

「なに?」



 マリリンは険しい表情を浮かべると僕の体を念入りに嗅ぎだした。

 それは最早、獰猛なクマに臭われているかのような、鬼気迫るライオンに臭われているかのような恐怖を感じたが、僕は心を無にして耐えきった。



「カズマァ……貴様……どこの女にマウンティングされてきたのだ!!」

「マウンティング……?」

「そう、マウンティングだ! 動物で言うと自分のものだと周囲に解らせるために臭いをつけるあのマウンティングだ!! あぁ……我と言う者がありながらっ!! 何て不埒な!! この浮気者!! 乙女心を踏みにじって……うぅぅううう!」



 行き成り座り込んで号泣し始めたマリリンに僕はショックを受けた。

 マリリンが泣いていることに関してもだが、何時何処で自分はマウンティングされたのか全く見当がつかない。



「ちょっと待ってマリリン、僕の体から女性の香りでもしてるの?」

「そこまでハッキリとマウンティングされて起きながら何と図々しい!!」

「いや、僕としてもショックだよ……。そもそも僕はマリリンの為に出かけてたんだから」

「……えっ!?」

「マウンティングの臭いってお風呂で落ちるのかなぁ。お風呂に入っても臭いが取れないのは嫌だけど、とりあえず先に風呂に入って臭い落してくるよ」



 それだけを言うとさっさと家に入り、念入りに身体を隅々まで洗った。

 きっと女性に人気のお店に入った事でキツイ香水がついてしまったのだろう。異世界人にとってそういう匂いは嫌なものに違いない。

 明日の朝にはマリリンは異世界へと一旦戻る。

 その時には、またこっちの世界に来たいと思えるように、僕なりに気を使ったつもりだ。


 長めのお風呂に入りパジャマに着替えて出てくると、マリリンは居間で正座し僕に何かを言いたそうにモジモジしていた。

 きっと悪い事を言ってしまったと思っているのだろう。

 そんなマリリンに僕は笑顔で「お風呂あいてるから入っておいで」と優しく告げると、マリリンは少しだけ頬を染めて恥ずかし気に風呂場へと消えていった。


 見た目はゴッツイ筋肉の覇王。

 けれど、性別的にもマリリンは女性だ。

 これまで一緒に生活してきて分かった事だが、マリリンは豪快だけど傷つきやすい繊細な女性であることも分かってきた。

 故に、見た目に惑わされず、ちゃんと一人の女性として扱う事を決めた僕だったが――。



「はぁ! はぁ!! カズマの入った風呂の水!! これは最早聖水に違いない!!」



 風呂場にて、湯気とは違う別の熱を発しながら僕の入った風呂を仁王立ちで見つめるマリリンが居たことに……幸いにして僕が気づくことは無かった。






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