第5話 ヒモにしたいマリリンと、ヒモになりたくないカズマの攻防戦
そして僕とマリリンは、一応最後となる、魔物素材の換金へと移行した。
この際に僕が指示を出した事は幾つかある。
まず、ドラゴン系の素材を換金しない事。絶対にとんでもない金額になるのが分かっているからだ。次に精霊系や妖精系に関するアイテムも禁止した。
僕が求める魔物系のアイテムは、マリリンのような異世界最強冒険者が倒せるような魔物ではなく、低ランクの冒険者でも倒して異世界で換金しているようなアイテムに限定したのだ。
「低ランク冒険者が倒すような魔物か……そう言った弱い魔物は我を見ると瞬時に逃げてしまうから、アイテムボックスに素材が入っているかどうか……」
「それもそうか……。もし仮に、僕が異世界に行ったとき倒すことが可能な魔物の素材が良かったんだけれど、中々手に入れることは難しそうだな。そもそも僕は異世界の通貨を持っていないから装備を整えるのも難しいか」
「何を言うんだカズマ! 君の装備品から生活用品から衣食住の全てを我のポケットマネーと権力で何とでも揃えることは簡単な事なのに!」
「僕は絶対に屈しないぞ……僕を意地でもヒモにしたがるマリリンには屈しないからな!」
異世界でも日本でも独り立ちしたい僕と、異世界と日本の両方でヒモにしたいマリリンとの間で火花が散っているが、両者にとって譲れない線引きと言う物があるのだ。
結局、低レベルの冒険者が生活するために稼ぐ魔物関連のアイテムをマリリンは持っておらず、機会があれば換金してみようと言う事で落ち着いた。
こうなると、今度は僕の世界のアイテムが、マリリンの住む異世界で換金した場合、金額がどう変化するのかという問題になる。
僕なりに母のおススメ作品である異世界系の本は読み漁っていた事もあり、大体の目星は付いていた。
消耗品から日用品、スパイスから酒類……。
そもそも、異世界とこちらとの嗜好品なんかの価値が違う事を、一週間の間にカズマは観察しきっていた。
「僕がマリリンに頼んで異世界で換金を頼みたいアイテムは、幾つかあるんだ」
「カズマが我を頼ってくれるとは……。もう死んでもいい……」
「いや、死なれたら困るから聞いて欲しい。僕の好奇心が満たされないままになるじゃないか」
「その知的な学者的考えが大好物です!」
「ありがとう。さて、マリリンの反応を観察するに、異世界では綺麗な砂糖や塩といった物が余り見ることが出来ないんじゃないかな? あるにはあっても一般的に異世界中に広がっているというモノでもなさそうだ」
「その通りだな!」
「そして、嗜好品としては珈琲や紅茶といったものに関して、異世界最高峰であるマリリンは驚いていた……。つまり、こちらで一般的にどこにでも売られている珈琲や紅茶と言うのは贅沢品に違いないと推測する」
「ご名答!!」
無論それだけではない。
チョコレートや飴といった甘いものも異世界では中々手に入らない物なのだろう。マリリンは家にいる際、よく飴玉を母から貰っては喜んでいた。
しかし、休職中のカズマ僕で買えるものなど知れている。ここは家族の助けを求めるしかないだろうと判断した。
それに、偏った異世界小説知識では、何が一番高そうなのか想像がつかなかったのだ……。
そこで――斎藤家の家族会議を開く事にした。
「マリリンに持って行って換金してもらうアイテムを選抜する相談をしたいと思います。お金の出資も求めます」
「こちらのアイテムが異世界で幾らになるのか調べるのは楽しそうだな。父さんも協力しよう」
「お母さんも協力するわ~!」
「ちなみに、マリリンが異世界から持ち込んでいたオリハルコンは、1つ30億となりまして、家の大広間にて30億が鎮座しています。そのお金の管理方法などのご相談もお願いします」
夕食も終わり、両親とマリリンとで珈琲タイムを過ごしている時に相談すると、父はお気に入りだといって大事にし続けてきたコーヒーカップを床に落として割り、母は「オリハルコン……流石レア素材ね」と滅多に見せない真剣な表情をしていた。
「お金の管理は、お母さんと二人で話し合って決めよう」
「ありがとう父さん」
「それで、マリちゃんに異世界で換金して貰うアイテムね?」
「僕の持ちうる知識では、何が高そうなのか把握しきれなくて」
「そうねぇ……単純にドンと稼ぐなら車かしら? けど、それだとこちらの世界でも色々と不便が生じるから、車以外の物がいいわよね……? となると……」
そう口にすると母はノートを取り出し、一心不乱に思いつく限りの異世界で通用しそうなアイテムを書きだし始めた。
ちょいちょい父も口をはさみつつ、ザッと書き上げたものを読ませてもらうと、やはり砂糖や塩と言った調味料は無論のこと、飲み物や食べ物に関する嗜好品、更にはキャンプ用品の下には防災グッズが冒険者にはオススメではないかと言うコメントも書いてある。
しかし、両親が目指すのはオリハルコンと同等の値段価値を持つ商品だ。
「こうして文字に起こして調べてみると……オリハルコンの強さが計り知れないわね」
「そもそもの基準が違いますからねぇ……」
「安く多く仕入れて、異世界で高く売れるアイテムと言うのも、世界観が違えば変わりますし」
「かといって、技術の安売りは出来ないわ」
「そこですよねぇ」
「絶対にハズレないものは調味料や嗜好品……。女性を手玉にとるのなら化粧品にシャンプー系統は外せないけれど、どれもオリハルコンと比べると見劣りが激しいわね」
「そもそも、オリハルコンと同レベルの物って……こちらの世界にあるんですかね?」
言われてみればそうである。
車やバイクならば可能性はあるが、こちらで用意して持っていくにしても色々面倒な物ばかりだった。辛うじて可能性があるのは楽器だが、楽器も種類がとても多い。
ピアノは鉄板商品だとは思うものの、オリハルコンと同レベルかと言われると難しい気もする。
「一撃必殺になりそうな商品って……中々思いつかないものね」
「あの……カメラって駄目かな?」
白熱する両親を見つめていた僕は、前に女子がカメラを手に遊んでいた事を思い出し口にした。
今のカメラの中には、シャッターを切れば直ぐに現像して出てくるものもある。
両親は乗り気ではなかったが、カメラと言う物を理解できていないマリリンはソワソワし始めた。
だが僕の狙いに、一応間違いは無かったのだ。
何故ならば――。
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