第3話 マリリンの初恋♡
――マリリンside――
その後――。
ピッチピチの20歳、彼氏募集中の我は鼻歌を歌いながらアイテムボックスから使い込まれた肉切り包丁を取り出し、庭で猪の解体を楽しんでいた。
元居た世界とは違う空気……違う空、目に映る全てが新しい。
異世界と簡単に行き来が出来ることも大きな収穫だった。きっと兄であるジャックと、その友人であるマイケルも喜び勇んで異世界を旅するだろう。
だがその為には、我はやるべきことがあった。
この異世界のルールを覚えると言う事だ。
我の住む世界でも、国境を渡って違う国に行けば、その国独自のルールと言うものは必ず存在する。
そのルールを破ることは決して許されない事なのだ。
それに、我がこの異世界にきてから得ることが出来たスキルは多くない。
故に、多くの事を理解することが肝心で、最も優先度が高い問題でもあった。
いや、違う――。
最も優先すべきことであり、最も知りたい情報……その人物を思い出しただけで、我の頬はポッと赤く染まった。
「……おぉ、愛しのカズマ。なんというベビーフェイス。そっと握るだけでポッキリ折れてしまいそうな細い身体に守りたくなるような小ささよ……。神秘的な黒い髪と黒い瞳、そして透き通るような白い肌……美の化身だ。
まさに私の夫に相応しい。いやいや、もう私の夫になるしかない。
その為に存在するような美しい青年だ。
まずは彼の心を握りつぶす為にも私に夢中になって貰わねば。
男は胃袋を掴めと兄さんは言っていたが、どうすればカズマの小さき口に拳をねじ込んで胃袋を掴めるだろうか? 部位的に中々難しいな。
寧ろ殺さない様に掴むというのがまた難易度の高い。
やはり男性の胃袋を掴むというのは、ある程度のスキルが無ければ難しいのだろうか? 兄さんやマイケルさんで練習しておけば良かったな。よし、今度慣れるまで練習させてもらおう」
マリリンの恐ろしい言葉に森にいた鳥は一斉に飛び立ち、異世界にいるジャックとマイケルは命の危機を察し旅に出ることを決意するのだが、この時のマリリンには知る由もなかった。
切り分けた猪を丁寧にアイテムボックスに入れた後は、愛しのカズマの生活する家に、ちゃんと靴を脱いで入った。
僅かな音すら聞き分ける我は難なくカズマ母のもとへと向かい、キッチンを見て驚く。
「おぉ……魔石もなしに色々なものが動いているとは……古代文明にはこのような仕掛けの物が多く存在したとは聞いたことがあるが、そうか、この異世界は古代か!」
「まぁ! 古代だったら素敵ね! だとしたらマリちゃんは、未来から来た女の子ね!」
『女の子』という言葉に、我は打ち震えた。
正にバイブレーション、マナーモード。
今まで兄とマイケルからは「可愛らしい女の子」だと言われたことはあったが、他の人からは一度たりとも言われたことがなかったのだ!!
やだ……義母様っ! 我を女の子として認めてくれているのだな!!
これはまさに嫁に来て欲しいと……つまりはそう言う事!!
色んな意味で我は男女のお付き合いという工程を我はすっ飛ばした。
「義母様!! 我は、良き妻になってカズマを物理的にも支えます!!」
「まぁ!! それはとても頼もしいわね!!」
「それだけではないぞ! 体の欠損も瞬時に治す秘薬、あらゆる病を浄化する秘薬、毛髪が気になり始めた男性に大人気! ハゲを治す秘薬もある!!」
トン・トン・タァ――ン! と三つの秘薬を並べたその時だった。
台所をコッソリとのぞき込むカズマ父と目が合った。
「……マリちゃん」
「なんでしょう」
「……ハゲを治す秘薬……貰える?」
小さい声を絞り出しながら、そして若干目をそらしながらも手を差し伸べてきたカズマ父に我は優しく微笑み、両手でそっと秘薬を渡した……。
「でもカズマとの結婚はまだ先になるわねぇ……。この不景気で就職活動に苦労しなければいいけれど」
「それこそ心配無用さ。我が働けばよい」
「そんな……ダメよマリちゃん。カズマが立派なヒモになってしまうわ」
「ノンノン! 義母様それは違う!! この我を愛してくれるカズマを養う為ならば、国の一つや二つ乗っ取ることも潰すことも簡単な事だ! 王の座すらカズマに喜んでプレゼントしようじゃないか!」
色々スケールが大きくなっているが、我は本気だった。
そして忘れてはならない。
この会話を、カズマ本人が知らない事も。
「おぉ……っ! こんなに血が滾り、心が騒ぐのは久しぶりだ。これが恋!? これが愛!? いいや、これこそが我が長年追い求めてきた、女の幸せと言う謎の解明か!! 異世界……なんと素晴らしい世界なんだ!! 我の求めていた男性はこの異世界にいたのだ!! 何という幸運! 何という幸福!!」
「次代も時空も色々捻じ曲げて、やっと得られた真実なのね!! 素敵!!」
――ただし、カズマは我との関係について同意は一切していないが。
そんな二人の様子を、寂しくなった頭から若々しく戻った頭になったカズマ父は恐怖を感じながら震えていたが、我は笑顔で親指を立てた。
女子の恋愛トークの恐怖、男子が踏み入ってはイケナイ危険領域。
「お義父様、可愛い女子トークに入ると火傷するぞ……?」
「そ、そうだね……」
カズマ父は震えながらその場を去っていったのであった……。
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