アクビをしてる最中に殴られ、敵を全滅させたら2000年後に伝説になっていた件

時計屋

第0章「人魔戦争」

第1話「争う事に、何の意味があるのか。」

魔王が滅びたあの日から数日後………

王が失なわれ狂暴化、そして異常なまでに強化された魔族の手によって、戦う力を持たない者達のほぼ全ては殺され、村や町も消失し、残っている人間は最早、城壁の中で死を待つ人々と……戦場で戦っている者達だけという状態になってしまった。




◆◆◆


場所はルーリア平原。

本来であれば、何もないという程に静かなその場所も、今は耳を塞ぎたくなるような恐ろしいいくつもの音に包まれていた。


自我を失った魔物達の咆哮と断末魔。

それに抗う騎士や魔導師、剣士達の戦う声、指揮を取る声、そして多くの悲鳴と泣き声。


何処までも続くのではないかと思える程の美しい平原も、今や血と火炎に染まった、何処までも続く地獄と化している。


声を発する暇もなく頭が吹き飛ぶ巨体、ゴリッ、ゴリッ、と何かを咀嚼する音、怒りのままに細切れにされる異形の者、槍のような尾で敵対者を貫く魔人……


どちら側であろうと、生命の存在を許さないその場所に、俺は立っていた。

名はアルシア・ラグド。

王と勇者共の尻拭いに駆り出された哀れな魔導師、それが俺だ。

消えゆく命を悲しむような表情で、俺は呟く。


「どうして…俺達はこうまで殺し合うのだろうか……。」


……いや、考えるまでも、悲しむフリをするまでもない。

全ては俺達の話を一っっっつも聞かなかったあのバカな国王とカッコつけたがりな勇者一行が魔王を殺したからだ。

魔族と人間が殺し合うしかない中で、それでも人間を滅ぼす意志をこれっぽっちも示さなかった彼を殺せば、それはこうなるだろう。


三界条約を読まなかったのか?いや、読んでないのだろうな、アレは。

死んでいった者達には悪いが、人類は一度滅亡一歩手前か、もしくは本当に滅亡する方がいいのかもしれない。

都合が悪くなければ、こうやって動ける者達に丸投げした挙げ句、ろくすっぽ対策らしい対策も出来やしない。

俺はそもそも、必要があれば戦うだけで、別に殺し合いなんてしたくない。

寧ろ大嫌いなのだ。


「……アホらし。長い昼寝でもするか。」


愛剣を地面に突き刺し、手に持った鎖の先を宙に放り投げて魔法の準備をする。

「ふわぁ…」と大きなアクビをして、起動の為の術式を次々解凍していくのだが……


「ガアァァァァアアアアッ!!!!」

「ぐっ!?」


凄まじい咆哮が背後から聞こえ、常人なら粉々になりかねない膂力で後頭部を殴られた。

鎖を巻いた手で後頭部を擦りつつ、俺は背後を見やる。

そこには、地平線の彼方まで埋め尽くす程の数の魔族が立っていた。

主戦場がこのルーリア平原というだけで、魔族の大規模侵攻は各地で起きている。

千なんて単位では利かないだろう。恐らく、万……いや、それ以上はいるのではないか。


「コルルルルルルルルルルルル………」


俺を殴ったであろう大型の魔物は、涙目の俺を嘲笑うように唸りながら見下ろしていた。


そうして、それを見た俺の口の端は段々と引き攣っていき………


「畜生テメェ!この野郎っ!!!!」


恐ろしい程短気な俺は、地面に突き刺した剣を片手に、寝るのを邪魔しに来た愚か者共に罵声を浴びせながら売られたケンカを買うのだった。



―――――――――――――――――――――


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時計屋

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