第53話 16分前
そして今更、今いる場所は宇宙空間であることに気が付く。
爆弾は、作動したはず。
一体、何が起こったのか。
時間は星乃が飛び降りた直後……爆発の、16分前に遡る。
「今さら戻ったら、爆発に間に合わなくなる。全員死ぬぞ……!」
「っ……!!」
船を戻すように訴えようとした叶瀬を止めた千帆だったが、叶瀬は諦め切れなかった。
彼は大きく息を吸い込むと、黙って千帆に手を差し出す。
「では、千帆さんの戦闘機体を貸して頂けませんか」
「はぁ!?」
何か良からぬ考えを持っていることは、一発で分かった。
叶瀬はまくし立てるように、その"良からぬ考え"を話す。
「星乃さんを捕まえ、ジェット機能でできる限り遠くへ逃げます! 大型戦闘機体の電源を借りれば、それができるスピードを維持できるかもしれません!」
予想通りの突飛で無謀な考えに、千帆は反対の姿勢を取ろうとした。
失敗すれば、叶瀬まで犠牲になってしまうのだから。
「お前まで死んだら……!」
そこまで言いかけた千帆だったが、思わず声を止めてしまった。
叶瀬の無表情に、「決して”NO”とは言わせない」と言わんばかりの迫力を感じたからである。
「確かに僕も死ぬかもしれません。でも僕は……星乃さんと生き残れる方に、賭けたいんです!!」
彼の言葉を聞いた千帆は、一瞬だけ強く目を瞑った。
そして大きく息を吐くと、手早く手首のデバイスを外して投げ渡す。
「絶対死ぬな。約束だかんな」
「っ……はい! ありがとうございます!」
千帆のデバイスを受け取った叶瀬は、踵を返して強く踏み込んだ。
「あー叶瀬くん! 待って!」
今にも走り出そうとした彼を、美優が呼び止める。
振り返ると、彼女もまた何かを投げ渡してきた。
手のひらサイズで筒状の、発煙弾のような形をした機械である。
「対レギニカ用に試作されてた、睡眠ガス装置よ! あの子、きっと迷ってグダグダするはずだから。無理矢理連れてきなさい!」
「ありがとうございます!」
美優からも応援を受け、叶瀬はいよいよ走り出した。
千帆や、美優だけではない。
「いけーっ!」
「絶対、帰ってこいよー!」
居合わせた隊員達の激励に背中を押され、叶瀬は船から勢いよく飛び降りた。
空中で千帆のデバイスを装着し、戦闘機体を展開する。
「さっきまで着てた戦闘機体を使われるの、すっげー嫌だったんすけど……」
「あっはは。まあでも、星乃に生きて欲しいから、託したんでしょ?」
「……そうっすね」
ジェット機能によって一瞬で飛び去った叶瀬を、千帆と美優はそんな会話をしながら見送った。
ただひたすら、加速し続ける。
設定してあるタイマーを見ると、もう残り10分を切っている。
急げ。
急げ。
音を裂く勢いで、叶瀬はひたすら加速し続けた。
「!」
突如、急停止。
星乃のデバイスが付けっぱなしにしている、音声通信を拾ったのだ。
着地してジャングルを進み、カブラギと星乃を発見する。
「それも分からない。けど……もしかしたら、そうなのかも」
叶瀬はそこで、星乃の抱えていた暗い感情の吐露を聞いた。
星乃さんは弟の死によって後悔を恐れるようになり、人助けがやめられない。
だが人助けをすればするほど疲労は増え、人助けをしない他者が嫌になる。
板挟みなのだ。
だから星乃さんは、船から降りたのか。
……。
……でも、それでも。
叶瀬は睡眠ガス装置のピンを抜き、気付かれないように背後からゆっくりと転がした。
試作とはいえ睡眠ガスの効果は絶大で、星乃は一瞬にして眠気に支配される。
倒れかけた彼女を急接近して抱きかかえると、その勢いのまま思い切り飛び立った。
一瞬だけカブラギを見たが、彼はほんの少しだけ。
気のせいかもしれないが……笑っているように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます