「スルメとザリガニ」

第3話

ある日、古びた漁港の端に小さな船が停泊していた。その船の上で、老漁師のジロウが一人、静かに海を眺めていた。

ある時、漁師のジロウの船に大量のスルメが漂着した。彼は驚きながらも、そのスルメを船に積み込んだ。しかし、その日から彼の運勢は急激に変わった。彼の漁は大成功を収め、彼は豊かな暮らしを手に入れた。

しかし、ある夜、ジロウの船が再び何かを漂着させた。船の上には小さなザリガニが一匹、吊り下げられていた。その姿は儚く、彼の心を打った。

ジロウは慎重にザリガニを吊り上げた。その小さな体が揺れ動くたびに、彼の心も揺れた。何故この小さな生き物が彼の船に来たのか。何故このザリガニが吊るされているのか。その答えは分からなかったが、その瞬間、ジロウの胸には奇妙な感情が芽生えた。

ザリガニを手に取ると、その冷たく滑らかな殻が手のひらに触れた。ジロウはその小さな目を見つめた。そこには恐怖や悲しみのようなものが映っているように感じられた。ジロウはその目から目を離せなかった。

「お前も俺のように、この海で生きているんだな…」

ジロウはその小さな生き物に向かって呟いた。彼の声はかすれていたが、心からの言葉だった。

ザリガニを再び海に放そうとした瞬間、ジロウは自分の過去を振り返った。彼もまた、この海で生きるために必死だった。海の恵みに感謝しながらも、時にその恩恵に酔いしれ、自然の厳しさを忘れてしまっていたのだ。

ジロウはザリガニを海に帰すと、謙虚さと感謝の心を取り戻した。彼は再び漁に出るが、今度は自然と調和し、豊かな海の贈り物に感謝しながら暮らした。

そして、ジロウはある日、老いて天寿を全うした。人々は彼の墓に「吊られるザリガニ」という言葉を刻んだ。その言葉は、命の儚さと貴重さ、そして自然との謙虚な関係を象徴していた。