第20話 挟山越海の痛み
昔の記憶、我ら蛇族の頂点蛇の王バジリスク様…ベルディグリの鱗には光沢があり、虹色に光る美しい鱗からなる羽…まさに王
そして、私は2番目…一番になれない、私には上がいる…何に対しても…だけど、私はどうだっていい、この世には二番にもなれない者がいるんだ
『お呼びでしょうか』
『うん』
バジリスク様の直属の部下として蛇族をいつものように統制していた時、バジリスク様に大事な話があると呼ばれた。
『お前を今から蛇の王に任ずる』
呼ばれて、言われた言葉。理解が出来なかった。
『俺は降りんぞ』
『?』
続けられた言葉に私の頭の中は本当にごちゃごちゃで理解が出来なかった。
『あー、つまりな?
『それでは何故、私を王になど』
『お前は俺より優れたところがある、それと今までの行動を評価したら妥当しょ?どっちかってと、お前の方が王としての素質がある』
『それなら譲ってください』
『それはヤー♡とりあえず、会ってこい』
言うだけ言ってバジリスク様はさっさと行け、と命令してきた。内心苛立ちながらも壁や蔦を使って、その御方が待っている蛇族の草原へと向かう。
(王とか、そういったことに興味はないのですよね)
サラサラと心地好い風が吹く草原を蛇行しなから進む。そうすると、1つの影が見えた。それは振り返って私を見つめる。
その瞬間から心を奪われた…
「やっぱさ、殺るんなら強い奴がいいじゃん?俺っち、興奮しちゃう」
「変態野郎」
白練にしては乱暴な言葉にカデナはニヤリと嗤う。そして、カデナが構えると白練は地面を拳で割って、振動で攻撃する。体勢が崩されるもカデナにとっては想定内の行動
(確かロワは蛇の王様は2匹、片方は毒をもって、片方は毒をもってない…なんて教えてくれたな~、毒をもってない蛇は絞め技で殺してくる、それなら近づかれなきゃよくね?)
カデナがそう考えていても白練は距離を積めてくる。手を掴まれたが振り払う。
(ま、距離つめられても蛇の姿で触れられなきゃいいか)
カデナの腕をまた掴む白練は、今度は振り払われないように拳に力を込める。離れられないとカデナと白練は同時に感じとる。
「”万物”」
カデナがそう言うとカデナと白練の間に水中生物が現れた。そして驚く白練に対して容赦なく突っ込む。ドンッ!
鈍い音がする。
「筋肉膠化」
白練の腹を突こうとした箇所を見ると、服が破けて、シュゥゥと煙が小さくたっているが、白練自身に目立った外傷がない。それとは反対に水中生物が意識を失って崩れ去って消えた。
蛇の筋肉は全身筋肉と称されるほど、強靭なもの、《筋肉膠化》は筋肉を凝固させて、より強健なものへと昇華させる。それにより今の白練の筋肉密度は通常の3.14倍、そして肉体から成される攻撃も通常の3.14倍
白練は一歩も引くことなく掴んでいるカデナの腕に軽く力をいれる。ミシミシとカデナの腕から軋む音が聞こえる。カデナも同様に引くことなく、片手に水中生物の鱗をまとわせて殴る。白練は右にそれて躱して掴んでいた腕を離す。急に力が抜かれた箇所は青いアザになっていて、急な痛みにカデナは怯む。それを意図していたかのように白練は回し蹴りをしてカデナをぶっ飛ばす。
すでに崩壊した建物の残骸のある範囲は半径10km、カデナの体がその端まで飛ばされた。白練は足に力を込めて猛スピードで走り出す。踏み込んだ地面にはクレーターに近しいものが出来ている程の衝撃だ。体勢を整えたカデナは高速で移動することで出されるパンチを受け止めると、その衝撃から片足が崩れ落ちる。渋い顔をするカデナと違って白練は、何かに満ち溢れたような顔をしている。
―こんなことでも私は2番、どんなにいいものを造り出しても2番…どうだっていい、そんなものは2番でいい
カデナがもう片方のピアスを取り外して小さなナイフに変形させて体ではなく目を狙う。それを察知して咄嗟に目を腕で覆いガードする。ナイフの刃は砕け散ったが、一瞬でも白練の視界がなくなったことでカデナが追随する。
―1番になりたいだなんて欲はいらない、私の欲はただ1つ!
ナイフの刺さっている腕の拳が蛇の牙へと変化する。それから触れずとも分かる猛毒にカデナは冷や汗をかく。白練はカデナの足に牙を立てて、毒で痙攣させて動けないようにした。しかし、カデナはこんなものでは止まらない。”万物”で生み出した水中生物で無理矢理体を押して攻撃を繰り出す。
―あの御方の1番近くで、あの御方の勇姿を、私は目に焼き付けたい
そして…
正面からの水中生物を白練は殴って迎え入れる。しかし、直撃しても血が流れる程度で消えない。真っ正面からの打撃を受け、よろめく白練にカデナは勝利を確信する。
万物漣の海市蜃楼
“万物”でつくられた水中生物の津波が白練を襲う。逃げることができず、白練はその場を動けなかった。止まることのない津波の中からカデナが槍を持って身動きのとれない白練にトドメを刺そうとする。直後、白練の顔には鱗が現れて、白いオーラが纏う。
白妙の皚皚
白練から放たれた拳からは、白く瞬く稲光が纏われ、水中生物の津波が一瞬で消え去った。直撃したカデナは地面にめり込んで気絶している。白練は幾千振の感情の昂りを感じ、息をきらす。そして、天を仰ぐ。
―私はあの御方の
(…思ったよりも被害が出てしまいましたね、ギルドに報告を)
白練は辺りを見回して、ギルドへと向かおうと一歩踏み出す。
「すっっごいいねぇ………ッ」
「…はあ、そのまま寝ていてくださればよろしかったのでは?」
白練がめんどくさそうに返事する。それは気絶していたはずのカデナが頭から大量の血を流して立っていたのだ。
(様子が変ですね…)
白練はカデナの様子に疑問を浮かべ、攻撃の体勢をとる。
「いたいねぇ、いたいよぉ…でも、気持ちいぃ」
(うわぁぁ……)
カデナは白練の拳から生じた痛みに興奮していた。その原因となった当の白練はドン引きしている。
「ノーヴァ兄ちゃんはね、痛みを感じることは大切なんだって教えてくれたんだよ…俺っちに痛みを与えてくれたんだ、それならさ」
パン、と大きく手を叩くと水中生物が出現する。しかし、それは集まり長く強固な背骨から何本もの骨が生え、頭以外が骨の古代魚
「シファクティヌス、時速60kmにも及ぶ最強の古代魚の一角だよ~」
「ッ…」
「まっさかとは思うけどさー、”万物”が水中生物を生み出すだけの能力だなんて、思ってないよね?元祖の才がそんな阿満ちゃんなわけなくない?…”万物”は」
―原始生物の生成
地上宇宙”バース”にノーヴァ達人類が降りたつ前に頂点に君臨していたのは古代魚、原始の生物である
「”万物”は古代魚の生成だけだよ、普通なら…でも、才の拡張により水中生物の生成も可能になった…」
カデナは腕を上げる。鋭利な骨と牙を持ったシファクティヌスの周りにはシーラカンスやシャチなどの古代魚と水中生物が空を覆う程出現していた。
「噓でしょ」
信じられないという反応の白練に、カデナは柔和な微笑みを浮かべる。
「もっと…
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