久遠の月──Kaleido of moon──

龍ヶ崎蓮斗

プロローグ

プロローグ

────ふと、目が醒めた。

誰もいない部屋の中、外の喧騒で目を開ける。

いつもは酷く静かなのに、今夜はやけに騒がしい。

なぜだろう、と思って扉に向かう。

けれど。じゃら、と鳴った鎖に止められて、足は動かなくなった。

───そういえば、そうだった。

僕はここに閉じ込められていたんだ。少年は、冷めた心で思い出す。

理由はわからない。けど、大人たちは少年を特別なナニカにしたいらしかった。

だから、閉じ込められている。こうして一人、昔テレビで見た映画に出てきた牢獄のような場所に。

外は相変わらず騒がしい。パーティーでもしているみたいだ。

けれど───急に、静かになった。

代わりに、こつんと足音のような音が近づいてくる。

コツコツと、足音は大きくなって、部屋の前で止まった。

そうして。

がしゃんと音を立てて、扉が抉じ開けられる。

少年は無感情な瞳で、扉を抉じ開けた侵入者───真っ赤な髪が良く似合う強気な美女を見上げた。


「やあ。初めましてかな?私は・・・そうだな。うん、私は───通りすがりの魔術師さ」


◆◆◆


赤い、紅い道を歩く。

久しぶりに出た外の景色は、目も眩むような赤に満たされていた。

床も、壁も、天井も。紅い絵具が飛び散っている。

いつもいた黒い服を着た男たちはいなくて、代わりにいるのは、少年を外に出した魔術師と名乗る女だけ。

少年と彼女の間に会話はない。

あるのは静寂だけ。

けれど、それが心地良い。


いつの間にか、出口まで来ていた。

だが、少年は外に出ることを禁じられている。

ちらり、と背後の魔術師へと視線を向ける。

すると、苦笑しながら紅い魔術師は言った。


「君はもう自由だ。外に出ても、誰も咎めない」


なぜだかわからないけど、少年はその言葉を信じることにした。

一歩、踏み出す。

外の空気を吸い込む。外の暗さに眼を凝らす。

そして───空を見上げた。

真っ暗な空には、ただひとりきりの月が在る。

ああ───気付かなかった。

今夜は、こんなにも────月が、綺麗だ。


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