魔導書と巡る世界の探求

@nao74

第一章 世界樹の写し木

第一章 世界樹の写し木 第1話

「さっぱり道がわからない。」

 

 漠然と思考を支配する言葉を口から吐き出す。現在のソラの胸中を占めるのは大きな徒労感で、歩けど歩けど視界に映るのは日の光さえまともに通さない草木のみだった。


 魔導書院から帝国領土南方に位置する迷いの森の探索任務を言い渡され、現地入りして早三日。 まずは小手調べと魔術を使わずに探索を試みたが、コンパスは回転し続け、魔導書院肝いりの位置情報がついた地形図も一切の情報を書き示してくれない。


「もしかして道に迷ったか?」


 そんな心の声がソラの口から零れ落ちた。


「だから言っただろ相棒。そんな玩具使ってないで術式使おうって。こんな陰気臭い森さっさと抜けようぜ」


 酒焼けしたようなしゃがれた声が右手の甲に刻まれた六芒星から聞こえてくる。手の甲に刻まれた六芒星は魔道司書の証であり、魔道書そのものだ。

 通常の魔導書は普通の本と変わらない見かけをしているが、配架と呼ばれる収納技術を習得すると、利き手の甲に六芒星が刻まれ肉体に収納することができる。魔導書院における戦闘課や探求課においては必須機能である。


「まずは魔術に頼らない。これは人としての基本でしょ。」


「魔道司書が魔術に頼らなくて誰が頼るんだよ。」


 端から見ると一人ごとのような軽口の言い合いが続いていく。

 

 実のところ、魔術という超常現象が存在するこの世界においても話す魔導書というのは他に例がなく、なぜ話すことができるかソラ自身もさっぱり分からない。けれども下手に周囲に話すと自身が探求の対象になりそうなため、ソラは一部の人たちを除き秘密にしている。


「わかったわかった。さすがに残りの食料問題もあるし真面目に術式使って先に進むよ。」


 そういうとソラは右手を日差しから目を守るように掲げて呟く。


「権能移譲。フォラスの導き。」


 右手の六芒星が輝き、両目に幾何学模様が刻まれる。それと同時に視界に一筋の光の道が示され森の全体像と中心部までの情景が頭に浮かび上がる。


 魔道司書は魔導書に記述された術式に魔力を流し込むことで術式を発動する。基本的に魔導書にはテーマがあり、そのテーマにより記述される術式が決まっていく。

 例えば炎の魔導書なら炎に関する術式が記述されて、水を生み出す魔術などは使えない。

 ソラの魔導書ゴエティアはティアの愛称で呼ばれる召喚の魔導書で、契約した存在を召喚することができる。ただし強力な力を持った存在は召喚するのに莫大な魔力が求められるため、今回のように能力の一部分だけを使用することの方が多い。

 召喚できる存在がそのまま能力の幅につながるため非常に使い勝手がいいと評判だが、通常の召喚の魔導者とは運用が余りに異なるため、言葉を話すことと相まって謎が多い魔導書である。

 今回使用したフォラスの術式は目的までの道を示す他、解析の能力も付与するものだ。


「やっぱり中心部に行くまで迷いの術式が組まれているね。一度森に踏み込んだら外周をグルグルさせらせて出られなくなるようになっている。」


「その辺は予想通りだな。幸い道が見えている今の状態ならそこまで時間はかからなそうだし、中心部に行ってからが本番だな。」


 ゴエティアの言う通り、今回の探索は中心部に行ってからが本番となる。道中周辺に生えている植物などのサンプルを確保など寄り道もしたが、中心部にある遺跡の攻略が今回の目的となる。

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