第2話 自我の芽生えその2

「――捜索開始」


 創造主から外出禁止を告げられているため、探すといっても実際のところはただ家の中をウロウロしているだけだったりする。謎行動を開始してから数時間が経過した頃、探し人が大量の買い物袋を持って帰ってきた。買い物袋に入っている物の九割は娘の衣料品で、残り一割は食料品。


 戦利品を手にしてご満悦の創造主だったが、帰宅早々ある違和感を覚えた。メンテナンスポッドの上蓋が開き、中が空になっていたからだ。この家は真四角な上に部屋もこの一つしかないため、少女が装置から出ていたとしても、玄関からすぐに見つけられる。隠し部屋というか地下室がもう一つあるにはあるが、このことは少女には伝えていない。

 地下室には煙突を通して雨水を貯める濾過機能付き貯水槽、家の各装置にエネルギーを供給する動力源などがある。この家の心臓部とも呼べる場所こそが地下室。そこにはメンテナンスポッドの真下にある床下点検口からしか行けないのだが、そのメンテナンスポッドが移動した形跡もなかった。


 予想外の出来事に動転した彼女は、買い物袋をその場で投げ捨てるように手放すと、勢いそのままに靴を脱ぎ捨て「リアムー!」と少女の名前を叫びながら家の中に入った。すぐに「唯」と返事をする声は聞こえるが、一向に姿を見せないので次は「リアム姿を見せて!」と呼びかけた。すると、今度は「唯」と返事をしつつ作業机の下から四つん這いで出てきた。


 少女はその場で立ち上がると彼女に視線を向け、ただ一言「――創造主発見」と発した。自分のほうが先に発見したと言わんばかりの口ぶり。その愛らしい言動に耳を傾けながらも、リアムを聴覚、視覚だけじゃなく五感全てで確認するため近づき抱き寄せた。たった数十秒の出来事ではあったが、この手で我が子を抱擁することで彼女はやっと安堵した。心配事から解放されたこと、娘が自分のシャツを羽織っていたことで、スキンシップは加速度的に激しくなる。頬ずりをしつつ体中を触りまくり、髪を撫でては匂いを嗅ぐ。全てが終わった時には愛情の証として、リアムの額には唇のあとが付いていた。


 十二分にリアムを堪能したことで平常心を取り戻した彼女は、自分が外出時に起こった出来事について尋ねた。


「リアムそれで何があったん? ポッドは勝手に開いているし、あなたはいないしでうちマヂで焦ったんだけど?」 

「是――検査終了――創造主不在――屋内捜索」

「……なる。これはうちのミスやわ。お母さんのことを探してくれてありがとうね、リアム」


 彼女は上目遣いで説明をする娘の頭をぽんぽんと軽く触れながら感謝の言葉を述べた。いつもなら定期検査の終了時間は手動設定していたが、今回に限って自動設定になっていた。こうなった経緯は実に単純なもので、一歳になった娘に贈るプレゼントのことで頭がいっぱいになっていたからである。前回の定期検査によって、リアムの身体が正しく機能しているのはすでに確認済み。そのこともあって、少しだけ気が緩んでいたのかもしれない。

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