2国:第12話 我ら猫又三獣士!(四匹いる)

『ニャイニャイニャイ! そこのワー・キャットの娘を国の外側へ近づけるニャど、許さぬ! 猫又女王さまの命により、邪魔立てするぞっ、ニャーッ!』


「! んなっ……このアタシが、恐るべきハロウィン・タウンの魔女娘と知っての言葉かしら!? 一体、何者なのよ!?」


『ニャフッ。……ニャッフッフ、よくぞ聞いてくれたニャア……よかろうニャ、耳のあニャをかっぽじって、よ~く聞けニャ!』


 トゥーナの威勢良い問いかけに、けれど正体不明の何者かは、不敵な笑い声を漏らし――月の光の下に、そのニャンと凛々しき立ち姿を明かして名乗りを上げる!


『我らこそ猫又国が誇る最高戦力! まず我は、疾風しっぷーのニャトス!』

『熱き血潮のポルミャス! おトイレの後のハイテンションは語り草ニャー!』

『眠り猫のアラミャスですニャン。眠いニャン……ごろごろごろ』

『ダルイニャンだニャ。んにゃー、ダルイにゃ~……帰って寝たいニャー……』


『猫又国の守護者たる我ら猫又三獣士に、恐れおののけニャーーーン!!』


「くっ、なんて恐ろし………ちょちょちょ、待って、一回整理してイイ?」


『どうぞどうぞですニャ』


「ありがと。……ふう~~~っ……」


 ポーズまで決めて登場した猫又たちに、ひとまずトゥーナが深呼吸をし、改めて気になることを問いかける。


「まず、三獣士なのに四匹だし、ダルイニャンとか何かゆるキャラみたいな子がいるのも気になるけど……全部ツッコんでたらキリがないから、とにかく聞くわ。猫又女王の命でって、どういうコト!? 何でそんなに、ミーニャが飼い主と会うのを邪魔したいワケ!?」


『結構ツッコまれた気はするけど、キリがニャいから置いとくニャン。フッ、理由? 知れたこと……その辺のややこしーことは興味ニャいですニャ! 猫ニャので。でも女王さまの命令ですので、捕縛させて頂きますニャーン!』


「ええーい適当ねっ、もう! とにかく、そんな理由じゃ捕まってあげらんないわよっ。ミーニャを家族と会わせてあげるんだからっ……邪魔しないでよね!」


『ンニャ。ニャらば致し方ニャし……実力行使ですニャ。―――フッ』


「え。……消え、た? ……きゃ、きゃあっ!?」


 少なくともトゥーナは、ほんの一瞬も目を離していなかった。が、三獣士(四匹)の内の一匹は、言葉の直後には姿を消し――刹那、アイン達の周囲を旋風が襲う!


『これぞ疾風の異名を持つ、ニャトスのスピード! 真空波すら発生させる我が力、くと見よ! ニャーッ!!』


「きゃっ……きゃあっ!? 速ッ、ってか足を取られて、動きにくっ……ああもうっ、うろちょろしないでってばぁ!?」


「トゥトゥ、ニャにしてるニャ! ッ、猫又三獣士まで出張ってくるニャんて、女王は今度こそ本気ニャの……? でもスピードならミーニャだって――」


 トゥーナを助けに入ろうとするミーニャ、だがそれを遮るように、ひときわ巨大な猫又が飛び込んできた。


『ミャッス! 我は熱き血潮のポルミャス、猫又ニャ~珍しい武闘派だニャ! この大きい体はおデブにあらず、我が肉球パンチを受けよ! ミャーーーッス!!』


「ミャッ……ッ、地面を抉るニャんて、肉球でも鍛え上げるとこれほどまで……ってレベルじゃニャーぞ! 猫として尖りすぎニャろ、生き方が! フシャー!」


「ミーニャ、下がっていろ。相手がモンスターとして力を増幅しているとはいえ、パワーなら俺も……ほんのちょっぴり対抗できると思う。ただの人間だけども」


〝ただの人間〟と口にした巨大棺桶を軽々と担ぐ青年に、魔女娘トゥーナは何やらツッコみたそうな顔をしていたが――不意にアインの体が、ぐらりと揺らいだ。


「ん? ……ぅ……これは、急に眠気が……まさか……」


「!? ちょ、アイン、急にどうしたのよ!? いくらマイペースだからって、こんな状況で眠るとか……いえ、違う? 何だか、感じ慣れない魔力が……」


「っ……これは、恐らく……猫又の妖術……東方の妖怪が持つ、独自の魔法のようなものだ……俺は魔力とか持たない、ただの人間だから……こういう搦め手には、どうにも弱くてzzz」


「喋りながら寝ちゃった!? いくら何でもこんな大事な場面でなんて、危機感が足りないんじゃないの!? なんかこのツッコミ、気のせいかアタシ自身にも刺さる気もしたけど! 前にこんなコトあったかしら……?」


『ごろごろごろ……これぞ眠り猫のアラミャスの妖術。ニャンコ的、喉のごろごろ音に妖力を乗せ、強制的に眠気を誘いますニャン……そして自分自身も眠いですニャン。ふにゃ~、ごろごろごろ……すぴよすぴよ』


「くっ、冗談っぽいのに、特に厄介な能力ねっ……アイン、起きなさいッ! アタシの魔力で防いであげるから! オラッ、パンプキン★びんた――!」


「zzz……んぐっ! おぉ……何やら強烈なインパクトが頬に。バッチリ覚めた目の前にカボチャが飛んでいるのが見えるようだ……!」


「つまり完全に目が覚めたってコトね……なら、とにかくヨシ!」


 アインの意識が無事かどうか、議論の余地はありそうだが、この窮状にトゥーナが改めて焦りを見せる。


「な、何だか、ぽや~っとした感じだから油断してたけど……マトモに戦ったら、充分に厄介じゃない! さすが一国を統べる猫又の、しかも最高戦力ね……はっ!? そういえば、もう一匹いたはず……ウソでしょ、完全に姿を隠してる、アタシの魔力探知にも引っかからない……まさか潜伏の達人ってワケ!? っ、この団体戦で、完全に身を隠した敵がいるなんて、一番厄介じゃ――!」


『あ、ダルイニャンでしたら、さっき早退しましたニャ。なんかお気に入りのニンゲンのレディの膝でブラッシングされるんニャとかで』


「なんかな~やっぱな~、ぽや~っとしてんのよねえ微妙に! ああもうっ、猫チャン相手に戦うのも気が引けるしっ……アイン、どうするの!?」


「ん。そうだな……そもそも俺たちの目的はミーニャを飼い主に会わせることで、戦闘じゃない。一時撤退だ、まずは壁を超えて、この袋小路を抜けるぞ」


「そうねっ、了解! 急ぐわよ!」

「わ、わかったニャ!」

「イエス、マスター・アイン」


 言うが早いか、トゥーナは箒に乗って空を飛び、ミーニャは猫の身体能力で壁を駆け上がり――アインはロゼと共に、巨大棺桶を階段のような足場に使って壁を越える。


 アイン達の判断は、間違っていない。が、誤算があるとすれば、ここは猫又の国。旅人にはなく、支配するモンスターにはある、地の利というもの。


『ニャン。……来たニャ、来たニャ、まんまと来たニャ』

『逃げられるニャんて、思うニャよ~?』

『おとニャしく、おニャわにつけ! ニャーンっ!』



 大路に飛び出したアイン達を待ち受けていたのは、武装した猫又の兵隊たち――道を埋め尽くすほどの猫の群れを前にしては、たとえ猫好きであろうと、さすがに圧倒されてしまうはずだ。


 まさにトゥーナも焦り、箒に跨ったままアインに問いかける。


「か、完全に、囲まれちゃったじゃない……どうすんのよ、アイン!」


「トゥーナ。ピンチの時こそ、慌てるな。落ち着いて、状況を見るんだ」


「! アイン、その冷静さ……まさか、何か手でもあるの!?」


「ん。……そうだな」


 期待に目を輝かせるトゥーナに、壁の向こう側から巨大棺桶を引き上げたアインが――腕を組みつつ、一言。


「……さて、どうしようか?」


「ノープランかいっ! マイペースも大概にしなさいよね~~~っ!?」


「ンニャ……そういうトゥトゥも、大概だと思うけどニャア……」


 この追い詰められた状況でも、珍妙な旅人たちは何とも賑やかで――ミーニャなどは、呆れるしかないようだった。

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