2国:第8話 この……泥棒猫!

 猫又女王のおわす城のように巨大な猫御殿ねこごてんから、退出したアイン達。

 これまた建物の如く巨大な棺桶を担いで歩くアインに、トゥーナは小走りで並びながら尋ねる。


「ちょちょっ……待ちなさいよっ。とにかく、えーと……あのワー・キャットの子、ミーニャを家に帰してあげる、ってのが今後の方針でイイのよね?」


「ん。ああ、その認識で構わない」


「そうよね、それはイイんだけど……そもそも、そのミーニャはどこにいるのよ? この猫又国、国っていうだけあって、ハロウィン・タウンよりずっと広いくらいよ? アタシが空から探しても、かなり骨が折れそうっていうか……物陰にでも隠れてたら、見つけ出すのなんて不可能じゃない?」


「おお、さすがトゥーナ、鋭い着眼点だな。ミーニャをどうやって見つけ出すか、か……うん、それは……考えもしなかったな」


「考えなさいよ少しは。行き当たりばったりかっての。まあアンタの場合、って感じだけど」


「ンフフフッ!」


「笑いごとじゃないのよホント。パンプキンぶつけるわよ」


 ややウケてしまうアインに、ややキレ気味のトゥーナ。実際どうするべきか、とアインが(トゥーナの機嫌を損ねないよう)真剣に考える。


「ふむ。うーむ……また食べ歩きでもして、誘い出すか。俺一人なら、狙われる可能性も更に高くなりそうだ。俺は〝ただの人間〟だし、自慢ではないがナメられているだろうからな」


「ホントに自慢じゃないわね……そんな異様な大きさの棺桶とか担いで、〝ただの人間〟ってのもどうかと思うし。そもそも同じターゲットをまた狙うかしら――」


「マスター・アイン、ロゼ様。あちらをご覧ください」


「「??」」


 銀髪をなびかせて首を傾け、何かを見つめるロゼ。彼女が言う通りにアインとトゥーナが、視線を向けると。


『ニャーン! おさかニャが……おさかニャが、盗まれてしまったニャーン!?』

『あっ、あれは……ワー・キャットのミーニャにゃ! お、おのれ~』


「……いたわね」

「いたな」


 御殿を出て最寄もよりの市場から、猫又たちのニャンと高い悲鳴のような声が響く。急いで騒ぎの元へ向かうと、猫又は更に悲痛な声を上げた。


『この、このっ……泥棒猫~~~!! ……ふう、スッキリしたニャ』

『宴に戻るニャ~』『おいニンゲン、おさかニャを焼けニャ~』『ニャーニャー』


 泥棒騒ぎは即座に、宴もたけなわの騒ぎに切り替わる。猫又も、それに尽くす人間たちも、それぞれがそれぞれに充実して、幸せな様子だ。


 めでたし、めでたし――というところで、魔女娘トゥーナが発するのは――!


「――いや追わんのか~~~い! 盗まれちゃったんでしょ、放っといてイイわけ!?」


『そうは言うてもニャ。〝この泥棒猫〟というあまりにもド定番の文句を大声で叫べたことで、しかも猫のわがはいが、叫べたことで! ニャんだかスッキリしちゃったニャン……むしろ叫ばせてくれて、感謝してーくれーニャン。大体おさかニャ、箱一杯にあるくれーだから、一匹くらいどってことニャいし』


「ええーい猫めっ、このっ……気まぐれな猫めっ! ああもー、じゃあアタシ達が追うわよ、ちょうど探してたコトだし!」


『オウ、頑張れニャン(他人事)……ああでも、猫又の警邏隊けいらたいも追っかけてるはずだし、心配ないと思うけどニャア……今まで散々逃げられてたけど、今回は国中の猫又兵が総出で出動してるし、さすがに今度こそ捕まるんじゃないかニャ』


「! そう……アイン、聞いた?」


「ああ、頑張れと応援してもらって嬉しいな。頑張らないとな」


「そこじゃねーわよ。このままじゃミーニャ、猫又の警邏隊に捕まえられちゃうかもしんないでしょ。そしたらおうちに帰れなくなるかもしんないでしょ。だから先にアタシ達がミーニャを見つけないと、なのよ。理解した?」


「なるほど、確かに家に帰せなくなっては大変だ……さすがトゥーナ、冷静で的確な判断力だな……!」


「ありがとう。ぜんぜん褒められるほどでもないから、あんまり嬉しくないわ。だから呑気に喋ってないで、行くわよ!」


「承知した。いやあ、トゥーナはしっかりしていて、頼りになるな……ではロゼ、先行して、ミーニャの行き先を捕捉してくれ。あと必要なら、手助けするように」


「イエス、マスター・アイン。命令オーダー、受諾しました。では、お先に参ります。メイド・ダッシュ――」


 非常に抑揚に乏しい声を残し、ロゼは――その場から、一瞬で駆け去って姿を消す。物静かさと行動とのギャップが激しい。


 そんなロゼを見送り、トゥーナは愛用の箒の底で地面を衝き、堂々たる声で言い放った。


「それじゃあ――ワー・キャット、ミーニャ捕獲&おうち帰還作戦、開始よ! さあ、気合い入れていくわよ、アイン!」


「おぉ……分かりやすい目的提示、感謝する。では、頑張ろう」


 勢いに押されているのか、それとも性格か、妙にハイテンションなトゥーナと――マイペースにも程がある、アイン。

 二人もまた、ロゼにはかなり遅れて、ミーニャを追いかけるのだった。

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