2国:第3話 恐るべき苦役を強いられる……ニンゲンは、猫さまの奴隷――!
『ハア、ハアッ……ウ、ウウッ、こんな……こんなァァァ……!』
そこは一軒の開放された茶屋、
それも、当然であろう。何しろ、嗚呼、何しろ、彼の強いられている苦役とは。
そのお膝の上に、お猫さまを乗せ――延々とブラッシングをさせられているのだから――!
『クックック、ニャン。どうしたニンゲン、手が止まっているニャンよ……? たとえ
『ウッ、ウウッ、そんなっ……あ、あんまりッスよぅ! もう一時間もずっとこの体勢でブラッシングさせられて、膝の上にモフモフが幸せオット膝が痺れて限界で……す、少し休ませてくだせぇ……具体的には一時間くらいこのままで』
『フンッ、そんな長々と付き合ってられんニャ! フニャア……よく確認してみたらブラッシングもそろそろ充分ニャし、飽きてきたし、そろそろ行くニャ。じゃーニャ、ニンゲン。てしてし(※毛づくろい)』
『ウッウワアァァァッ! そんな、そんな殺生なァァァ! おれは、おれは膝の上のこの喪失感を、どう補えばいいってんだァァァ! このっ、この人でなしっ……アッ猫だった。このっ……このっ、恐るべきモンスターめぇぇぇ!!』
「………………」
人間が強いられている苦役を見ているトゥーナは、何も言わない、考えない、ツッコまない。
ただ、確かに良く見れば、猫又以外にも人間は各所に姿が窺えて、それぞれに苦役(?)を強いられているようだ。
『ウッ、ウウッ、なんて辛い仕事なんだ……大盛りごはんをねだってくるお猫さまの要求を拒否して、健康バランスを考え尽くしたメニューを提供しなきゃならねぇなんて……おねだりポーズされるたび、涙が出ちまうよ!』
『あっ、ああっ! わたし今から仕事しなきゃなのに……お膝の上に、お膝の上に猫さまがァ! こ、これじゃ身動きが取れないッ……くっ今日は有休とりま~す! こういうケースにおける有休は奨励されてるのが国是なので~♡』
『ハアッ、ハアッ、もう、もう勘弁してくだせぇっ……これ以上は猫じゃらしを振れやせん! 限界でっ……えっ? あ、ああ、あっ……こ、子猫さまの団体、追加オーダーだとぉぉぉ!? できらぁ! この腕がもげても構わねぇ……今おれはおれの限界を超える――!』
『ニャフフフ……働け働けニンゲン共~! われら猫又のため、食事を用意せよ、毛玉を取れっ、死ぬまで猫じゃらしを振り回せッ! われらは恐るべき猫又、そして此処なるは猫又国! ニンゲンのためならざる、猫のための国ぞ――!
あっでも放っといて欲しい時は構うニャよ。ひとりでノンビリしたい時もあるニャン。察せニャ。それが猫っちゅーもんだニャン』
ふんぞり返ってニャンと胸を張る猫又の、一目と見ればもはや目も離せぬ恐るべき光景に――看板猫娘は
『ニャフフン……驚くのは、まだ早いですニャンよ……? この国を支配する猫又は、当然の如く働きなどしませんニャ……苦役・労役の全ては、ニンゲン共が行うもの……その労働時間、述べ十時間以上――恐れに震えますニャーン!』
と、その堂々たる言葉を聞き、問い返したのはアイン。
「ふむ。……ちなみに実働10時間以上というのは、一日の話で?」
『へ? ンなわけニャいですニャ。十日くらいの話ですニャよ?』
「ふむ。つまり実質、休日を考えないとしても一日一時間労働。……ちなみに人間の支配する数少ない国では、一日平均で実働6時間、中には実質8時間以上も働いている場合もある、という歴史があってだな……」
『えっ。何ですニャそれ、こわっ……16時間くらい寝られちゃうあちしらにしてみれば、ホラーみてぇな話ですニャン……ぷるぷる』
ぷるぷる震えるの可愛い(余談)
さて、人間側の割とありそうな就業事情に怯えさせられた看板猫娘が、早々に気を取り直して背筋を伸ばした。
『まあでも、こんな恐ろしい猫又国ニャのに……謎ニャことに、不思議と移民希望者は多いんですニャンよね~』
「だろうな、としか言えない」
『そんな移民希望者の中でも最大のビッグネームは、戦いに明け暮れる数十年に及ぶ生涯を経て、過酷なる戦いの果てに心まで失くしてしまった悲しき
看板猫娘の更なるご紹介に
『ニャーン、コイツあったけーニャー』
『重心が安定してて、寝やすくて居心地いいニャー』
『筋肉量が多いので常に一定の熱を放出し、体温が高いんでしょうニャ。わがはいは最良の寝心地を研究せし猫。眠りの追求のためなら容赦せんニャン! プスー』
『あっ、ああ~っもっ、全身モフモフ、最ッ高すぎるゥ……狂戦士、この感動を誰かに語りたい、共有したい次第ィ……♡』
「なんか順調に癒されて、心が回復してそうだな……ならばヨシ!」
『普段あんニャ感じニャけど歴戦っちゃ歴戦ニャから、有事の際は大暴れしてくれますニャン。この猫又国を守るために』
なるほど、とアインが頷くと、ムフーン、と看板猫娘は満足そうに胸を張る。
いくらアインが経験豊富な旅人(数十日の経験)といえど、このような国は今まで見たことがないだろう。
確かにこれでは、人間は成す術もない。猫又の、いやさ全ての猫に支配され、尽くすばかりが生きる術。
恐るべきモンスター、猫又妖怪に支配され、抗う意志をも奪い尽くされる!
これが、嗚呼、これこそが。
――― 恐るべき猫又国の実態! ―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます