1街:第16話 フランケン・モンスター《殺戮人形》のアサルト・ダンス

 フランケン・モンスターと、そう呼ばれた、その存在。

 あでやかな銀髪の、無機質なまでに無表情な、それでもなお美しきメイドが。


「………………」


 裾にフリルのついた長スカートを、ドレスでもつまむようにして、まくっていくと。


 黒ストッキングに包まれた、細長い足が露になり――太ももまで、露出するや。


『オッ、へへへ、今度こそサービスして……へっ?』

『ありゃ、確か……弱っちい人間が、モンスターに対抗するため、開発した……』

『武器だか……兵器、だかっつう』


『――――銃?』


 太ももにくくりつけたレッグホルダーに、備えられていたハンドガンを、美しきメイドが抜き放った、その瞬間。


『え。……消え、た――』


舞踏ダンス開始スタート―――まず一匹目、でございます」


『えっ。……ゴエアッ!!?』


 人間よりよほど優れた動体視力を持つ、モンスターですら、その姿を見逃す。

 人間の限界を超えた、異常の敏捷性!


 盗賊団の一人に背後から銃弾を叩き込んだロゼは、けれど既に、その場にいない。

 仲間が成す術もなく倒れたところで、愚鈍ぐどんなまでに今さら、警戒を強める有象無象。


『っ、気をつけろオメェら! コイツ、タダモンじゃね――えばらッ!?』

『なっ、オイッ、どっから撃って……いたぞ、あそこ―――オガァッ!?』

『ンだよ、チョコマカと、このっ……ゴブハァッ!?』


 一か所に留まらず、移動しながら――というレベルでは、ない。

 酒場という広い空間を、それでも所詮は屋内だと、嘲笑あざわらうように。


 床を、壁を、天井すらも、蹴り上げて跳躍し―――目にも止まらぬ速さで、休むことなく高速移動を続ける!


 たった一人のメイドが、ハンドガン一つから放つ銃弾が、まるで全方位から叩き込まれる機関銃の如し!


 それでも、この状況はおかしいと、モンスターの一人が叫ぶのは。


『そっ、そんなわきゃ、ねぇだろっ……銃なんて、はッ! 大昔に人間共が開発してから、強いモンスターの皮膚は貫けねぇ、役立たずって結論が出たろうが……オークの鼻に当たってポトッと落ちたなんて、有名な笑い話だぞ! それが何で、おれらモンスターに……効くンだよッ――』


「大昔の話を持ち出すとは、笑わせてくれる。技術・革新は日進月歩にっしんげっぽ。特におまえらのような無法者が力に胡坐あぐらをかいている間に、いくらでも進化するものだ」


『! な、なんだ、テメッ……』


 いまだ入り口付近で棺桶を担いだままのアインが、挟んだ口そのままに続ける。


「特に、ロゼに使わせているのは、俺の特製銃弾――人間の持つ今の技術では、オーガなど重量級モンスターの皮膚を貫くには心許ない、というのも事実だろう。だが、衝撃は防げるかな――受け取れ、ロゼ」


「イエス・マスター」


 どこから、いや、いつの間に取り出したのか――アインが放り投げたのは、ハンドガンよりロングバレル、更には大口径の銃。


 即ち、――美しきメイドがそれを構えると、アインが告げるのは。


「物足りない貫通力ではなく、重量による衝撃に特化した、徹甲弾てっこうだんならぬ鉄鋼弾てっこうだん―――反動が馬鹿げているので、ロゼくらいにしか扱えないが、まあ」


「アサルト・メイド・ショットガン……発射。―――んっ」


 ロゼがトリガーを引くや、ゴバッ、と銃声と呼ぶも躊躇ためらわれる、吐き出すような音が響き。

 散弾の如く飛翔する、鉄鋼弾の群れが、モンスター達を襲い―――


『ぇ。……グ、グヴォエェェェェッ!!?』

『ゲッエ……ンだ、この……ドラゴンの尻尾、叩きつけられたみてぇな威力……』

『――――――――(チーン)』


 射線に存在した者、全てがぎ倒され――アインは、簡潔に述べる。



「モンスターといえど―――充分、効くだろ?」



 効く、どころか戦闘不能に陥った、盗賊団の仲間を見かねてか。

 狼男ウルフマンが、ロゼへと迫る……が。


『っ、舐めんなよ、銃だのっつうオモチャでイキったって……おれさまの牙と爪で引き裂いちまえば、関係ねぇ! ウオォォォン!』


「ロゼ―――狼男はモンスターの中でも、反射速度が並外れていて、接近戦に強い。距離を取って遠くから射ち込んでやれ」


「イエス・マスター。ふっ――――」


『あれっ。……ちょ、えっ……ウォン……』


 取り残される形となった狼男に構わず、ロゼはメイド服の隙間から何やら取り出しつつ、身をひるがえして後方へ跳躍し。


「顔面、失礼いたします」

『あ? ……ぶべっ!?』『オゴッ!?』


 右足でオーガの顔面を、左足でオークの顔面を。

 重量級モンスターを踏みつけ、開脚した体勢で――それでも一切揺るがぬ、絶妙なバランス感覚!


 しかもそうしている内に、組み立てていた銃は、完成しており。


「アサルト・メイド・ライフル―――発射」


『ウ、ウオンッ……ウワォーンッ!? ほ、誇り高き狼男のおれさまがぁ――!?』


「ジョークが上手いな、盗賊団に身をやつしている分際で。本当に誇り高い狼男というのは、国の王として君臨していると聞くぞ」


『アォン……スンマセン、落ちぶれて……ガクッ』


 アインが容赦なく言葉で切り捨てると、そのまま倒れ伏す狼男。

 ……それにしても、だ。


 全く、これは一体、どうしたことか。


 つい先ほどまで、暴虐をふるい、無法の享楽きょうらくふけっていた、盗賊団たちが。


 有象無象のモンスター達が。


 踊るように、舞うように、殺戮舞踏アサルト・ダンスを繰り広げる、たった一人の銀髪メイドに。


 好き放題に蹂躙じゅうりんされている―――この現状は。


 この〝モンスターの世界〟で、信じられぬ光景に。

 盗賊団の一人が――思い出したように、叫ぶ。


『あ、あ、あ……あああああ!? 異常なデカさの棺桶を背負った人間の男と……異常な強さの銀髪メイド! お、思い出した、コイツら……十日くらい前から急に現れ始めたっつう、闇の世界のお尋ね者! 旅しながらモンスターの盗賊団を潰して回ってるってウワサの、自称・旅人!』


 事情通のゴブリン、かなり倒しているのでEくらいだろうか……そんなゴブリンEが無遠慮に、アインとロゼを指さし、声高に明かす正体とは!



『あの伝説の、人間の中に生まれた怪物――

 一族の末裔!

 アイン=!!


 そして、そいつの造り出した、

殺戮人形キリング・ドール》―――ロゼ=ザ・ゼロ―――!?』



 叫んだゴブリンEに―――瞬間、アインは睨みながら、平坦な声に威圧感を籠め。


「オイ、俺をフランケンなどと呼ぶな。

 その名は、――俺はただの旅人、アインだ」


『…………ヒッ』


「大体、盗賊団を潰して回っているつもりはない。おまえらのようなのが襲ってくるから、返り討ちにしているだけだ。全く、ただの人間には、世知辛い世の中だ」


 フンッ、とアインが吐き捨てる、その間にも。


「アサルト・メイド・ブレイドダンス」


『いやさっきから技名みたいなの、テキトーに言ってるだけじゃ――ギョエェェェ』


 モンスターの盗賊団は、美しきメイドによって、またたく間に打ち倒されていく――

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