ペアガ

佑佳

 🖤 🤍

 いま、六年生の好き同士の中で『ペアガ』が流行っている。

 無料通話アプリのアイコンを一定期間お揃いにする――それが『ペアガペアの画像』。まったく同じじゃなくても、たとえば色だけ変化させたり、半分ずつだったり。ペアガにしていれば、チャットグループ内で自然と暗黙の了解になるワケ。

 正直ちょっとうらやましい。私だって好きなひとがいないわけじゃないけれど、気がつくと違うひとを目で追っていて、結局コロコロ変わっている状態。きっと、ペア画勢の好きと私の好きは度合いが違うのかもしれない。

 誰かとペアガにしたら、私もなにか変わるかな。ペアガにするだけで、他のペアガ勢と同じように一人だけを好きになるのかな。

「どした?」

 同じマンション、同じ階。私の家から三戸さんこ向こうに同じクラスのリューヤが住んでいる。年少組からの幼馴染みだから、姉弟とか親戚みたいな関係に近い。

 だからリューヤが塾から帰ってくる時間くらい知っているし、廊下で待ち伏せしてたって変ではない。適当なペアガ相手に目星をつけてすぐだった、ってのもあるけれど。

「頼みごと、がある」

 エレベーターを降りてすぐの共用簡易ベンチに座って待っていた私。塾の重たいリュックを前へ持ってきたリューヤは左隣に腰を下ろした。

「告白の手伝いならゴメンけど無理よ。苦手だから」

「わかってるよ。ていうか違うし」

 そうなんだ、にハテナをつけてリューヤは水筒をグビグビ飲む。

「ペアガ、わかる?」

「あー、ヤマやんとシオリンがやってるやつね」

「うん。それで、あの」

 どきん、どきん。

 なんか、無駄に緊張しているし、やけに心臓が跳ねている。なんで? なんでリューヤに緊張する? バカらしい、ガツッといけよ私!

「う、ウチらも、やんない? 一週間だけ」

 言っちゃった、と肩を縮めて俯いた。

 うわあ、なんかやっぱり恥ずかしかったかも。リューヤの返事は想像できるけど『違ったらどうしよう』がぐるぐるしている。

「えー、モモとぉ?」

 ずきん。ウソ、『違ったらどうしよう』だ。

 縮めた肩が居心地悪く変わっていく。私とは嫌だったか。でもなんか、リューヤにそう想われるのは、悲しい……かも。

「あ……や、やっぱいいや。リューヤそういうの興味な――」

「――いいよ別に。モモとなら」

 わざわざ被せてきた言葉にびっくりして顔を上げる。

 ジィと私を見ているリューヤの目。あれ、リューヤってこんなにキラキラしてたっけ?

「は……え、えーってなに? いいならなんで一回えーって言うの?」

「え? 特に意味はないけど?」

「なんかむかついた」

「えー、ゴメン」

「ほらまた。リューヤのそういうのむかつく」

「じゃ、ペアガやめとく?」

「は? するよ。画像これにしよ」

「モモは『は?』って言うのやめたほうがいいと思う」

「は? 言ってな……あ」

 指摘し合って自覚して。するとリューヤはアハハと笑った。ていうか、笑うの見るの久しぶりかも。

「つ、付き合ってるって勘違いされる、かもだけど、ほんとにいいの?」

「えー? 『モモと仲いいよ』のしるしみたいでいいかなって」

「み、みんなわかってるよ」

「いや、再認識?」

 うわあ、なんだそりゃ。やめてよ、顔が熱くなる。「なに言ってんのっ」と慌てて顔を逸らした。

 今までずっと近くにいたのに、私、リューヤのこと全然見えていなかったみたい。なぜか急にリューヤが無駄にキラキラして見える。他の男子とは違うと思ってたけど、なにが違うのかわからなかったけど……もしかして私、リューヤのこと――

「てか一週間だけかぁ。別にずっとでもいいけどなー」

「えっ」

「モモはやだ?」

 覗き込まれて、リューヤの真顔があって。「は?」と赤い顔で小さく言うと、リューヤは嬉しそうに「えー?」と笑った。


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