10 心おける人

千聖にチョーカーを付けた翌日、


「仕事の時は付けなくていい。その代わり俺があげたネックレス付けて。いい?」

「なんで?」

「……。」


アラームがなる10分前。ベッドの中で千聖と話してた。


「なんで?」

「引かねーんだな」

「知りたい。」

「お前は俺のもの。だからその証拠となるものつけてて欲しい。いつだってお前は俺のものなんだから。」


そう答えると、千聖は僕を引き寄せてキスした。


「可愛いやつ。ようは、ヤキモチ妬いてたのか。色んな人に。」

「……お前が他の人に笑うのが気に食わない。なんで笑うの?…なんで俺だけ見ててくれないの?…」


僕は直後、両耳を閉じて塞ぎ込んだ。

すると、千聖は冷静に僕に言った。


「私はあんた以外に誰にも気持ちはないよ。仕事だから、円滑にするためにそうしてるだけ。」


そんなの分かってる。やっぱり…伝わらない。。違う。そんなことが言いたいんじゃない。



―――――――――――――――。


出社後、外回りをしている時に城田に着信だけ入れた。すると、すぐに折り返しが来た。


「どした?」


できる女って感じの人。


「もうわかんなくなっちゃったや。俺どうしたいかわかんない。」

「今どこ?」

「駅前。」

「あのお店の依頼は?」

「して来たよ。快諾してくれた。」

「あたしも今終わったとこ。そっち向かうわ。5分以内で着く。変な事考えないでよ?いい?」


この人は気持ち悪いくらい僕の奥底を見抜いてくる。エスパーみたいな人。

そう。入社当時からこうやって叱ったり、褒めたりしててくれた。



そして本当に3分ほどで姿を見せて駆け寄ってきた。


僕が駅のベンチに座ってると、横に座ったわ。

水色のブラウスに茶色のズボン。それにパンプス。カツカツいいながら普段から歩く人。

僕はこの音が…好き。


「……。」

「何考えてんの。そんなにカカト気になる?」

「なんでもない。」

「どうせ、踏まれたいとか考えてるんでしょ?」

「…気持ち悪い。見透かし過ぎ。」

「気持ち悪いでしょ?でもそれに助けられてんのは誰?」

「僕です。」


城田は人目も気にせず僕を包み込んだ。


「ちょっと汗臭いかも。…でも好きだからいいか。」

「好き。」


僕はこの人の汗の匂いが好き。

というか…この人の匂いが好き。


「会社帰りたくない。」

「見たくないよね。」

「うん。」

「あたしと付き合っても一緒じゃない?」

「ううん、明日香は違う。多分だけど、ちゃんと俺を特別扱いしてくれる。構ってくれる。」

「…普段からそれしちゃってるしね。」


「俺、別れる。もういい。」



――――――――――――僕は、千聖と別れて、退職代行を使って退職した。


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