第15話 帝風魔法

 自転車もとい変態赤チャリ号を止めた。見つめた先には大型の魔獣が道を塞いでいる。

 木を丸々持ち上げたジャイアントオークの群れだ。

「聞いていた通りの状況だな。ギルドの連中では到底手に負えん。騎士団も無闇に動けんわけだ」 

 オークとは危険性もさることながら知性がある。会話能力こそ無いが行動で意思疎通を可能にすると言われている、でっぷりと醜い見かけに寄らずの有能個体だ。それが何頭と首を揃えている。

「どうするヤス? パンティのためにどいてくれと頭を下げに行くか?」

「笑止千万!! 俺はパンティを戴く時以外、誰にだろうと頭を下げる気はない!!」

 正面から近づいてゆく。

「聖剣は没収されていただろう? 一人で大丈夫か?」

「誰に言っている?」

「もし助太刀が必要なら手伝ってやらなくもない。犬さながらに足の指をべろべろ舐めろ」

「遠慮する。貴様の足は臭そうだ」

 背後から飛来した木のステッキを後頭部激突寸前でキャッチする。

「たかが魔獣相手に皇帝陛下から授かった聖剣など……。この棒切れでも勿体ないくらいだ」

 オークたちの前に立つ。ところどころから聞くに堪えない豚の咆哮が上がり、そして巨大な木や岩石が持ち上がった。

 ステッキを掲げ、咆哮に負けないくらい声を張り上げた。

「大義は我にあり!! これは!! 俺の!! 俺による!! パンティを掛けた聖戦である!! 立ちはだかる有象無象は皆!! 等しく灰塵に帰すことを知れぇ!!」

 襲い来る巨大オーク群れの中、ステッキに風が集まる。拡大し続けるその気流は黒光を帯び、弾け、そして十字に瞬いた。

「――帝風魔法第二十二番――暗き龍閃は黒風を翻す(ブラック ブロウ ブレス ブレード)!!!!」

 視界が爆ぜた。木々、大地、空間、すべてが黒い奔流に舞い上がる。巻き込まれたジャイアントオークなど見つけるに難し。

山道で起こった風の爆発は一帯すべてを更地に戻した。その突風は数里はなれた帝国の王城まで届き、またしても姫様のドレスを捲った。

「――我が覇道はパンティに繋がっている。混沌、牛頭馬頭、異種異形、何者だろうが、俺を止めることなどできはしない。俺の放つ一撃の大きさは――」

 ヤスは帝風を纏った手で片目を覆った。

「――追い求めるパンティの偉大さと知るがいい!!」

「気持ち悪いことを恰好つけて言うな変質者が」

 後ろから巻き付いた金鞭に、ヤスはまた引っ張られたのだった。

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