第35話 匿名懺悔室

「わかりました。匿名懺悔室ですね。とりあえず行ってみます。行ってみるのは良いんですけど」

『なにかな?』

「どこで俺の連絡先知ったんですか……いやまあ、知りたいわけじゃないんですけど。あらかじめ知らせておいてくれたらすぐに出ましたよ」

『あはは。ごめんね、意地悪して。驚くかなって』

「まあ良いんですけど」

『じゃあよろしくね』

プツ。

と通話が切れた。スマホを下ろした。念のため番号を登録しておく。先ほどの通話で登録をしても良いか聞けば良かった。

宇佐ちゃんはすぐに駆け寄って来る。

「洸君、電話ってユーリさんに関すること?」

「うん。槙村先輩から。さっきの、匿名懺悔室でユーリちゃんの目撃情報があったって。急ごうか」


匿名懺悔室には意外にも早く着いた。

驚くほど空いている。

今は誰か懺悔室に入っているらしく、赤い札に懺悔中と書かれている。

受付などもなく、やはり個人企画らしい。個人企画はお金がかからないという噂を聞いた。

「もしかして、本当にユーリさんの個人企画だったり……?」

宇佐ちゃんは真剣にこの鬼ごっこの終わりを期待しているようだ。

「どーぞー」

いわゆる教会の懺悔室のような筒形の小屋。入り口と出口は別になっているようだ。

出口から小さい子供が出てくる。

ヘリウムガスを吸ったような声が聞こえる。

「二人で入っても大丈夫ですか」

俺が念のために声をかける。

「お好きにどーぞー」

間延びした話し方がかなりユーリちゃんぽい。

二人で入って行く。

中は茶色い床に壁。天井から光を取り入れている。対面にはすりガラス。

「好きに話してくださーい」

すりガラス越しでは、ユーリちゃんなのか、そうじゃないのか。いまいちわからない。

「あなたはユーリさんですか?」

宇佐ちゃんが先に話した。

「個人情報はお話し致しかねます〜」

まあそうだろう。普通に納得の返事が返ってくる。

俺と宇佐ちゃんは特に話すことも無い。今日初めて会った人に聞かせられる懺悔など、懺悔の意味もないほど軽いだろう。

しばらく沈黙が落ちると、すりガラスの向こう側から退屈そうな声が聞こえた。

「これ以上ないならお帰り願いまーす」

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