第21話 「ミハラ先輩……?」


扉から声が聞こえる。誰かここを覗きに来たようだが、この話は聞かれても問題ないのだろうか。白鳥先輩が大声で怒っていたのを見る限り、聞かれてもいいのかも知れない。そういえば扉を閉じることを忘れていた。最後に入ったのは俺だから、俺の責任か。

「仕事を片付けて急いで来たんだが、なんだか人数が増えていないか?」

額の汗を拭う仕草が、妙にやつれた感じに見えるイケメンだ。おそらく眉間にシワがよっているせいなのだろう。

「ああ、桧山君と一原さんは初めましてかな。誰かわかる?」

槙村先輩に言われて良く観察してみる。髪は明るいオレンジ色だ。

「ミハラ先輩……?」

俺がぼそっと呟く。呟く理由は、確信が無いからだ。

―――三原椎名、一年二組。青春部副部長。有能な常識人。明るい髪色。いつも眉間にシワがよっている。眼鏡。

明るいオレンジの髪。眉間にシワがよっている。しかしこれだけの情報では本人と断言できない。眉間にシワが寄っている、という情報は、やや失礼な気もする。眼鏡は特徴になるのだろうか?

「はい。正解」

槙村先輩は椎名先輩に寄っていき、肩を叩く。

「今回もお疲れ様」

槙村先輩に労われ、ほのかに笑みを見せる。感謝の笑み、というよりは皮肉じみて見える。

「中学までは槙村の仕事だったんだろう?本当にお前は有能だったんだな。この重労働を上手く捌いてたんだから。生徒会に逃げた理由もよくわかる」

「椎名君は上手くやっているよ。三ヶ月でここまで対応できるようになったんだから。自信を持っても良いんじゃないかな」

槙村先輩がにこやかな表情だ。俺はだんだんわかってきた。椎名先輩が青春部なるものに入ったきっかけは、それなりに槙村先輩が関わっているのだろう。そしてこのにこやかな表情で重労働をさせているのだ。

――高校生、怖い。俺も高校生になれるだろうか。

いや、きっと槙村先輩が特別怖い人なのだ、と思いたい。

「三原君、疲労回復のハーブティーを淹れました。どうぞ休んでいってください。そして一刻も早くユーリをなんとかしてくださいな」

「……善処する」

ここにも椎名先輩を追い詰める人物がいた。穏やかにプレッシャーをかけていくタイプのようだ。椎名先輩は、胃の辺りを押さえる。

ーー誰か、椎名先輩に胃薬を……!

「あの、椎名先輩。ユーリちゃんについて伺っても?」

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