第20話親友だった者たち
「ゆあ、ゆあだよね? 同じ学校に来てたんだっ?!」
抱きついたまま女の子は一方的に話しかけ続け、嬉しさを隠せない様子でジャンプを繰り返す。
「りんごちゃん……?」
「そう、そうだよ! 久しぶりっ!!」
戸惑った様子の月見は、女の子と歯切れの悪そうに頬を掻く男子生徒へ視線を向ける。
あんまり再会する事が嬉しくなさそうだな。虐められていたのか?
「びっくり、ゆあもここに進学したんだね?」
「——っあ、うん」
一歩後ろに下がって、距離を取り。遅れて『りんご』と呼ばれた女の子の腕も外ずそうとするが、がっちり捕まれる。
あー、臭い臭い言われた後だし、そんな中で会いたくないわな。
「もぅ〜、逃さないんだから」
っあ、思い出した。
月見が見ていたモニター、そこに同じ後ろ姿があったから見覚えがあったんだ。
だとするなら、臭い事で自傷していた彼女は昔の友達を見て改心したって事か?
幸いなことに、彼らは苺谷だけを視界に入れていて、俺のことは気づいていない。
面倒そうだし、他人のフリをして逃げるか。
ジリジリと後退りし、通行人が通り過ぎた隙に見知らぬようで顔を戻す。
「……?」
その時、3人を眺めて考え込んでいる苺谷と目が合う。
『しぃーー』
人差し指を口に当て、手のひらを合わせ、とりあえず頼み込む仕草をしてみる。
ぼー、としばらく見つめてきていた苺谷はそれをサムズアップで返してくる。
「私たち、今3人で食べ歩きでもしようかと思ってたんですよ」
良かった、内緒にしてくれる。
なんて偽りの希望すら抱かせる暇もなく、苺谷はニコニコしながら指差してくる。
そこまではまぁ良かった、何も良くないけど良かった。
1番の問題は苺谷が指差しているにも関わらず、二人の視線が通行人の間を少し泳ぎ、誰か分かってなかったこと。
やめて……申し訳なさそうな顔でこっちをみないでくれ、苺谷。
悪いね、パッと見で分からなくて。
「っあ……そうなの、ゆあと仲良くしてね? すごく良い子だから」
少し遅れて、二人とも立ち止まっている俺のことに気づいたようで。
女の子は宝物を見せびらかすような自慢げに月見を褒める。
「わたしは、私は別に良い子じゃ」
「えぇ〜? 恥ずかしがらなくて良いじゃんっ!」
さらに力強く抱いた青葉は、クンクンっと鼻を鳴らし。それに伴って月見の顔も著しく悪くなる。
むしろあんな抱きついていて、よく耐えた方だ。お前も鼻が死んでるのか?
そんな悪口を思っていると青葉がジッと細めで凝視してきて、身構えてしまう。
「お風呂ちゃんと入っている? こいつらにいじめられているなら教えて」
まさか、テレパシー? なんてふざけた事を考えていると青葉は月見の耳元でヒソヒソと問いかけた。
うん、違った。
別の意味で、なんならもっと悪い方向に行っているな。
「ううん、ありがと。大丈夫だから」
「大丈夫って、いじめられてるってこと? ちょっと待ってて」
青葉の目線はより細く、力強くなり、袖を捲って、敵意を露わに近づいてくる。
「ち、違う、私はいじめられてなんかない。ちょっと面倒くさくなっただけ」
それを月見が両手で引っ張って阻止する。
「そっか、それなら良いの。自己紹介が遅れたけど私は青葉 林檎、こっちが武藤 龍一。ゆあと小学校からの親友なの」
そして数秒月見の目を見たのち、納得したのか青葉は自己紹介してきた。
「私は苺谷 加音。これからお風呂行こうとしてたところなんですよ、ね?」
それに苺谷は持ち前のコミニュケーションで察し、咄嗟についた嘘に月見も便乗して首を振る。
まぁ……完璧にするとか言ってたけど、染みついた匂いって取れないだろう。
「ごめんね。りんごは普段、誰にでも気さくって感じだけど……ゆあの事になると神経が細くなるから」
そして気づいたら隣へ来ていた武藤が、申し訳なさそうげに謝ってきた。
「全然気にしていない」
「そっか、ありがとう」
苺谷と違ってコの字もないほど、ぶっきらぼうに答える俺へお礼か。
他人、それも異性のために謝ってくるなんて事が荒立たなきゃ、自己犠牲はいくらでも構わないって事なんだろうか?
相手のことを思ってか、自分のためか。
どちらだとしても、それ程彼女と仲が良いと思ってなきゃ出来ないことだろうな。
付き合っているんだろうか?
月見はそれが羨ましかったんだろうか?
「ゆあはちょっと暗くなったけど、姿も笑顔は変わらないね。それじゃお風呂の邪魔をしないように退散しよっか」
満足したのか、青葉は月見から離れると満面の笑みで武藤の隣へ戻り。
苺谷は笑顔で手を振る月見の後ろ手へ視線を向け。
「お2人はこれからどこに行くんですか? デート?」
そしてCランクのモニターに写っていた事から、聞く既に結論が出ている質問を投げかけた。
「ははっ、違うよ? 私達は
「そうそう、親友
青葉は投げかけに、武藤はうんうんっと頷いて肯定する。
片方は判断を相手に委ね、片方は過去形か、複雑そうな関係だな。まったく。
「俺たちはウィンドウショッピングかな、ここにしかない高級毒料理専門店も見てみたいしね」
「そうそう、どんな人たちが食べに行くのか気にならない? 興味あったら一緒に行く?」
目的地が沢山登録されたナビを青葉は見せてきて、陽キャらしく好奇心溢れた2人は誘ってくる。
毒料理専門店……? 聞いた事ないな。
店名がそういう名前ってだけじゃないなら、それは絶対、人生に飽きた人が最後にたどり着く料理店だろうな。
「ううん、遠慮しておくっ! 2人で楽しんで来て」
月見は存在を知っていたのか、特に反応を示さず拒否し。
その裏で苺谷はそっと胸を撫で下ろしていた。
「ばいばーいっ! ゆあも連絡してよね」
後ろ向きに歩きながら大きく手を振り、青葉が武藤と一緒に去っていき。
「良い人たちですね」
それを眺めていた苺谷は呟き、
「そうなの、りんごちゃんもりゅうちゃんも本当に良い人たちなの。
「先輩も良い人だと思いますけど?」
「そう……だね、良い人だと思う」
笑顔を振り撒いていた月見はそれを聞いて俯き、手を胸に当てながら含みのある返しをしてきた。
「ごめん、今日はありがとう。でももう帰るね」
「——っあ、ちょっと」
そして直後、俺たちが何か言う前に月見は駆け出し、止める間もなく消え。
苺谷は虚しい手をゆっくりと下げた。
「はぁーぁ、分かりやすいほどの三角関係ですね。
友達では無くなったような言い方をする男の子。しかし、女の子は抱きついてくる程の仲で、奪い合いの喧嘩をした訳でもなさそう」
何が言いたいのか、全く分からない苺谷。
「それがとうかしたのか?」
「なるほど……それも『どうも思わない』の範疇って訳ですか、サービスしたら倍率上げてくれるかもしれないってのに」
「サービスねぇ。あいつ、もう他人に騙された後だから投票権が戻るのは13日後だぞ」
苺谷が来る前だったから当然知らない話を出すと、彼女の目が少し開く。
「だま……初日ですよ?」
「さっきお前が言ったとおり、良い人だったからな」
嫌味な言い方に気づいたか、ジト目で苺谷は睨みつけ。
「先輩、かなり性格悪いですね。だからモテないんですよ」
それだけ言うと「帰ります」とあっさり月見の後を追うように消える。
まったく俺が帰ろうとする時は引き止める癖、自分勝手な奴だ。
「それに……登場人物はもう1人いるらしい」
頭を掻きながら、青葉たちが行った方向を眺める。
青葉たちがスタバの前を通り過ぎた後、図体が大きい男子生徒が飲み物を片手に出てくる。
まるでタイミングを見計らったように。
「ストーカーか……? まったく、健気だな」
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