摩訶不思議超時空バカと異世界無頼奇譚

yyk

第1話 伝説の始まり

 どうか神様

 空っぽで何者でもないオレに救いを

 どうか、どうか神様

 インキャチー牛、ギャンブル依存症、ヤニカス、酒カス、子供部屋住まい、風俗大好きおじさんに光を! 

 まだ死にたくない

 死にたくない

 幸せになりたい

 ……ちょっと待てよ?死んだら借金五百三十万ってチャラじゃね?

 

 そうか

 もっと、借りとけば、よかっ、た


 ▽▽▽


 「――あれからもう十五年になるのね」


 オレは林の中にひっそりと佇む小さな石造りの祠に手を合わせる。

 これは十五年前、日本でしょうもない事故にあって死んだオレの墓。

 この墓は過去の贖罪、そして恵まれなかった三十二年の人生への哀れみの追悼を込めて五年程前にの手で作ったものだ。

 

 そう、あの時のクズの寄せ集めハッピーセットみたいなオレはもうあの世界の何処にもいない。


 今のオレはバビロン王国オーレリア村の勇者……に憧れた冒険者に憧れた農家、ジゼル・ヘンリエットの長女。

 モデル顔負けの美貌とでっけえパイパイを持つ(超重要)村のアイドルであるアドラ・ヘンリエットとして過去の記憶を引き継いだまま中世のファンタジー世界で生まれ変わっていた。

 

 よーするに転生TSFってやつだな。

 ここが素晴らしい世界である事には違いない、のだが……隣の芝は青く見えるとはよく言ったもの。

 実際の異世界生活は娯楽に塗れた現代世界で暮らしていたオレには耐え難い程の退屈を感じさせるものだった。

 

 そもそも顔がいくら良い美少女だとしても所詮は農民の生まれだ。

 来る日も来る日も畑を耕し、夜には固いパンと塩辛いベーコンにチーズ、薄い味付けの野菜スープを毎日胃に流し込むだけの生活。

 近所の芋臭いガキに話を聞くとちゃんとした食事に毎日ありつけるだけでも恵まれてる方らしい。

 まったく、せっかくの異世界なのに夢もクソもない。


 まっ、この美貌を活かして貴族に嫁ぐって言う手もあるが、この辺の農村を領地とする三流貴族の生活なんて現代文明の生活を謳歌してきたオレからするとたかが知れている。

 嫁に入る事で自由も制限されるし、最悪の場合キモイ貴族の慰み者の毎日を過ごす事になるなんて事も……そりゃ無理だ。

 流石のオレもキモ男相手の快楽堕ち耐性までは持ち合わせていない。


 「だがそんなつまらない灰色の日常も今日で終わるわけよ」


 というのもこの世界での成人は十五歳。

 つまりは十五歳からはある程度の自由が与えられるのだ。

 オレは成人してからすぐに田舎を離れて都会に出てみたいと両親に告げた。

 彼らは最初こそ少し戸惑った表情を見せつつも最後には笑顔で「いつでも戻ってこい」と言って、幾何かの金貨の入った小袋を渡してくれた。

 

 あの時はそうだな。

 一応はこの世界での血の繋がった親な訳だし?こう、ジーンと響くものがあった。

 オレには帰る場所がある……か。

 それが見知った村を離れ、現代との常識とかけ離れた未知の世界で宛ての無い旅に向かう勇気の一助にもなってる気がする。

 

 「それじゃあね、過去の私……この世界では幸せな未来を掴んでくるわ」


 オレは成功する、絶対に。

 途轍もなくビッグな人間にな。

 こんなド田舎の小作人程度でせっかく手にした二つ目の人生を終わらせてたまるかってんだ。

 転生者がこんなしょうもなくて見栄えもしない平凡な農家の人生を送らされるハズがない。

 都会に行きさえすれば、一歩を踏み出せば何かが変わる筈だ。

 

 これがオレの伝説の始まり。

 異世界転生ウハウハ成功人生録の幕開けだ!!!


 ▽▽▽


 オーレリア村を発ってから三時間。

 緑豊かな村を抜けてから植生は徐々に変化し、周辺がゴツゴツした岩の立ち並ぶ山道に差し掛かった所でオレは一抹の不安を感じ始める。


 「日本やオーレリア村の中では感じなかったけど、こういう見通し悪くて人気の無い所を一人で通るのって結構勇気いるわね」

 

 残念な事にその悪い予感は的中した。

 前方に見える大きな岩の裏側から三体の魔物がゆっくりとこちらに向かって顔を覗かせたのだ。

 

 おいおい嘘だろ、この辺りは数カ月魔物の出没情報が無かった安全な街道の筈だ。

 クソッ……運が悪すぎる。

 

 「ゲヒヒヒお嬢さんこんにちは」

 「見ろよ兄弟コイツは上玉だぁ」

 「ブヒブヒ!」


 岩の裏にいた魔物達はこちらに向かい歩みを進めてゲスな笑みを浮かべて挨拶してきた。

 

 こいつら、言葉を理解している。

 成程、だから敢えて安全だと言われているこの街道で張ってやがったのか。


 「……これはまずいわね」

 

 その魔物は豚の顔を持ちながら二足歩行し、手に棍棒を携えて鎧を纏って人語を介する。

 二メートル超える毛深い巨体にでっぷりとした腹。

 丸太の様に太い手足。

 オレの現代知識アカシックレコードを参照するとこいつらは多分オーク。

 そしてオークが美少女相手にナニをするかは現代社会最高の娯楽である叡智な遊戯エロゲで履修済みだ。


 「さぁ、お嬢ちゃん大人しくオレ達に付いて来い」

 「大丈夫オジサン達はちょっと嬢ちゃんと遊びたいだけさ」

 「ブヒヒヒヒ」


 んなわけあるか。

 こうなったらいっそ、思い切って戦ってみるか?

 一応、護身用のナイフは持ってはいるが……。

 いや、やっぱり……それだけはやめとこう。

 何故なら二年程前に村に迷い込んだスライム一匹とイキって戦いボロ負けした苦い思い出があるからな。


 あの時に理解した。

 恐らくオレのステータスは人並み、特別な力など無い。

 だから絶体絶命の今、体の奥底で何かが覚醒するみたいなご都合展開が起きない限り天地がひっくり返ってもスライムより格上のオーク相手には勝てやしないだろう。

 

 「クソッ、まさか美少女がオークに襲われるご褒美シュチュエーションが自分が体験するとこんなに恐ろしいものだったとはね……」

 「あぁん?何言ってんだお前、いいから早くこっちに来いホラ」


 オークの一頭がオレの腕を強引に掴もうとする。

 本能で理解出来る圧倒的悪意と恐怖。

 オレは反射的にオークの手を払い除け、その場から逃げ出して無我夢中で叫んだ。 


 「た、助けてええええ!!」

 「おい、待てやコラあああ」


 当然オークはオレを追ってくる。

 

 こんな場所では助けなんて来る訳ない。

 そう思っていても、それでもオレは必死に走り、心の底から叫び続けた。

 情けないが迫りくる恐怖、絶望から逃避する為には声を張り上げて叫ばずにいられなかった。


 「げへへへ、どんだけ泣き叫ぼうが無駄だぞ、こんな田舎の山道にそうそう人なんか来るものか」


 オレとオークとの距離がどんどん狭まっていく。


 助けて!

 助けて!!

 助けて!!!


 あぁ、そういえば十五年前も救いを求めても結局無駄だったような。

 だったらどうする、どうする?ドウスル?ドウするってんだよ!!


 諦めと悟りが心を支配しかけたその時だった。

 

 ――ピロリ―ロリ、ピロロロー。


 どこからともなく聞こえる自然の奏でる音ではない。

 知識ある存在に象られた造られし音。

 笛の音色。


 「この音はッ!?」


 心願成就。

 針の穴に糸を通す様な奇跡、懇願の叫びは神に、否、この場に偶然居合わせた誰かの耳に確かに届いたのだ。

 

 「――へい、お待ちいいいいいいいいい!」


 そして笛の音の直後、調子の良い大声と同時にオレとオークの間に一人の人間が割って入った。

 

 この世界ではめったに見かけない黒髪ロングヘア―に白のインナーカラーが入った奇抜な髪型。

 人形の様に白く整った顔立ちにサファイアの如く煌めく蒼い瞳を持つ背丈の低い少女。

 数多の宝石が散りばめられたティアラに漆黒のゴシックドレスを着こなしたその威容から彼女が高貴な身分である事が窺い知れる。

 

 そんなエレガントでゴシックな少女が……ラーメン屋台と共にオレの前に姿を見せた!


 あれ?

 なんかおかしいな?

 もう一度確認しよう。

 ゴスロリ少女が引っ張ってきたのは【らぁめん】と書かれた暖簾を掲げた木製のカウンター付き荷車。

 間違いない。

 あれはまごう事なきラーメン屋台だ。

 あのー?

 ここ一応異世界……ですよね?


 「な、なんだテメェ!?」

 

 オークの一匹が声を荒げて少女に問いかけた。

 そうだねオークさん、正直オレもそう思う。 

 

 少女は目の前の魔物に動じる様子はなく平然と屋台のカウンターに立ち、ラーメンを三つテーブルに並べた。

 

 「まぁ、先ずはミミガー野郎ども……食っていきな」


 いや、いきなり何してんのこの人は……。

 

 「は……え?……いやいやいやテメェ状況この分かってんのか!?オォン?」

 「あんまり舐めてるとやっちまうぞコラァ!!」

 「ブビブヒ!」


 一瞬状況が理解できず思考停止フリーズしたオーク達は我に返ったと同時に屋台に詰め寄り、少女に向かって激しい怒号を浴びせ始める。

 ま、そりゃそうなるよね。

 

 「うっ……」

 

 バケモノ共の怒りを間近でぶつけられた少女は流石に堪えたのか顔を伏せ、わなわなと体を小刻みに震わせて――振り上げた掌で激しくカウンターを叩きつけた。

 

 「五月蠅い!黙れ!!薄汚ない魔物風情が妾の耳元でゴチャゴチャと!!いいから黙って食えやコラァ!!それとうちの店は私語厳禁じゃボケェ!!」

 「ええええ!?そこで逆ギレすんのおおおぉォ!?」

 「え……あ……はい」

 

 少女の放った謎の覇気に気圧されたのかオーク達は渋々屋台の席に着く。


 「しゃあねぇな、食えばいいんだろ……?食えば」


 てか私語厳禁って某有名チェーンかな?


 「……なんだこりゃ」

 「麺料理?みたいだな、匂いは悪くねぇ」

 「……ブヒブヒ」

 「冷めぬ内に食うがよい」


 オーク達はラーメンをじっと見つめ動かずにいたが少女の言葉で覚悟を決めたのか箸を持ち、ゆっくりと麺を啜り始めた。

 いや、オークって箸使えるんかよ。

 麺を口に含んだ瞬間彼等の強張っていた表情は徐々に綻んでいき、彼らの箸は一口二口と止まらなくなっていた。


 「こ、これは!麺とスープが絶妙に絡み合って口に入れる度に重厚でネット~リとした風味が広がっていくッ!」

 「……麺、スープ、そしてモヤシやニンニクが複雑に織り成す食の交響曲シンフォニー、これはうまいぞ!これは味の交響楽団や!」

 「ブヒ!ブヒ!」


 あんたら食レポ上手くないすか!? 


 「ぷはー!食った食った」

 「あぁ、こりゃ星三つだな」

 「ブヒブヒ!ブヒブヒ!」


 気が付けばオーク達は一分と経たずにラーメンを綺麗に完食。

 満足そうに楊枝を使い牙の掃除を始めた。

 

 一体オレは何を見せられていたんだ?

 だが今オーク達はリラックスしきっている、これは絶好の逃走機会だ!

 

 奴らは多分鼻が利く。

 だから奴らがこちらに気付く前にできる限り遠くまで逃げる必要がある。

 オレはさり気無ーく油断しきっているオーク達の背後に回り、コッソリとその場を離れていく――その時だった。


 「おーい!そこの人間の女も食っていかぬのか?――」

 「ッ!?馬鹿野郎!今話しかけんなって!」

 「半端ない位の絶品じゃぞー、妾の作ったこってりラーメンは」

 「……あ。」 

 

 ――少女の些細な一言で僅かな和やかさすら感じさせていた場の空気が一瞬にして凍り付いた。


 「…………あん?豚骨?まさか豚骨って」

 「豚の……骨?」

 「ブ……ヒヒヒ……」

 

 豚骨という単語を耳にしたオーク達の表情は血の気が引いたように青白くなり、その直後一斉に屋台から離れて近くの岩に向かってさっき平らげた胃の内容物を全てリバースした。


 「オロロロロロロロ、気持ち悪ッ」

 「ゲゴッ、オエエエ、まさか俺達同族を食っちまったのか?」

 「ゲホッ……テ、テメェ俺達になんてもん食わせやがんだ!!ぶっ殺すぞ!オラァ!!」

 「三番目のヤツ、普通に喋れるんだ……」


 なんて冷静にツッコんでる場合じゃない!

 同族?を食わされ怒り狂った様子のオーク達は棍棒を握りしめてあの巨体からは考えられない猛スピードで少女に迫っていく。


 「矮小なる人間如きが魔物を舐めた罪、死で償いやがれ!!」

 「おいアンタ!なにボーっとしてんの!早く逃げて!殺されるわよ!!」


 と、言いつつオレは少女に背を向けて逆方向へと一目散に走り出す。

 もう無理。

 これ以上あのクソアホラーメン屋とは付き合いきれん。

 ま、精々オークとの追いかけっこでオレの逃げる時間を出来るだけ稼いでくれや。


 「チッ、あの女逃げてやがるな……だが今あいつの事などどうでもいい」

 「おうよ、まずはオレ達をコケにしたコイツを……殺す」

 「ヒャッハー死ねぇ!女ァッ!!」


 少女は迫るオーク相手にも逃げる素振りを見せない。

 それどころか自らオークの前へ。

 死が待ち受ける方向へと歩み寄っていく。

 

 「ちょ!早く逃げなさいよ!」


 まさか、あいつ戦うつもりなのか。

 オレよりもチビで貧弱そうなガキが?

 ハハハ、頭がおかしい事は分かっていたがまさかここまでとは……これじゃ時間稼ぎにすらならないじゃないか。

 結局あいつが助け?にやって来た所で運命は何も変わらなかったな。

 ははは……神様、性格悪すぎだろ。


 「ガハハハ、オレ達の予想外のスピードを知って逃げられぬと悟ったか」

 「残念だったな。オレ達は【動けるデブ】なんだよ!」

 「ブヒヒヒヒ、頭カチ割られて脳味噌ブチ撒けて死にやがれェ!」


 オークの一頭が棒立ちの少女に向かって棍棒を振り上げる。

 こうなったら待つのは死、のみ。

 あいつも、そして多分オレ自身もな。


 「……貴様ら」

 「命乞いなどもう遅い、死にな」


 オークの手によって力強く振り下ろされた棍棒が彼女の額に触れたその時、硬質の物がぶつかり合った時の鈍い音と共に周囲に空を切り裂く激しい衝撃が走る。

 それとほぼ同時にオークの振り下ろした棍棒がバラバラに砕け散り周囲に四散した。

 棍棒が砕け散る程の強い打撃を直に受けた少女はグチャグチャに潰れる所か傷一つ負ってない様子でオークの前に平然と立っていた。


 「……え?」


 オーク達、そしてオレも今何が起こったのかを理解が追い付かずにその場に立ち尽くしている。

 そんな中でただ一人、攻撃を受けた少女だけが静かに動き出す。

 その目からは先程までの笑みが消え、絶対零度の氷のように冷たいまなこでオーク達をギロリと睨んでいた。

 

 「生臭い下等生物の分際で……妾の前で汚いゲボを見せるんじゃねぇ!!このミミガー野郎ォ!!」

 

 少女が声を荒げて叫んだ瞬間、大地が揺れ突風が吹き荒れる。

 そして体からは電を纏ったドス黒いオーラが激しく放出されていた。

 

 ……キレる所ソコなんだね。

 あと取り敢えず沖縄に謝れよ。

 

 「こっ、これは……に、肉眼で確認出来る程の濃密な魔力だと?テメェ一体――」

 「三日間煮込んだスープの恨みを食らいやがれェェェッ!!」

 「スープの……恨み?」


 そう言って少女は目の前のオークに腹部向かって右ストレートを叩き込んだ。

 いや、普通に殴ってるだけやないかい!

 アイツ、頭のイかれた野郎だがパワーだけは本物だ。

 少女の一撃は並みの力士以上の巨体を持つオークを軽々弾き飛ばし、遠くに見える岩が衝突の衝撃でひび割れを起こす程だった。


 「なん、だと?」

 「テ、テメェ!よくも兄弟を!」

 

 残りのオーク達が小さな少女に仲間が殴り飛ばされるという異質な光景に唖然としつつも何とか気持ちを切り替え、棍棒を構えて攻撃態勢を取った。


 「……遅いわ」

 

 反撃の構えを見せたオーク達だったが少女の言葉通り、彼等の行動は圧倒的に出遅れていた。

 少女はオークが動揺を見せた一瞬の内に細腕一本で屋台を持ち上げてみせ、しかもそれをオークに向かって全力でぶん投げていたのだ。

 えええええ!!

 ほんと何してんのおおおお!この人オオォォッッ!!!


 「マズイぞ、よ、避けられない」

 「ひえぇぇ!」


 屋台は逃げ遅れたオーク達に覆いかぶさるように派手な音を立てて落下して崩壊。

 

 ――チュドーン☆


 その後何故か大爆発を起こしてオーク達は焼豚チャーシューどころか消し炭と化した。

 多分調理スペースに備え付けられたガスボンベがあーだこうだして引火爆発したんだと……いや、深く考えるのはよそう。

 

 「これぞ奥義、超迷惑ッ!屋台超新星リミットオーバー超爆破拳ブレイズエクリシス

 「拳要素はッ!?てか、だっっっっっさッ!!!何もかもだっっっさッ!!」

 「ふははははは、妾の完全勝利だ」


 バカみたいな技と言っていいのか疑問な力技でオークを倒した彼女は高らかに勝利を宣言を行い、やり切った感満載の表情を浮かべてあろう事かこちらに向かって歩みを進めてくる。

 いや、来なくていい。

 来なくていいから。

 頼む来ないでくれ!


 そんな心からの願いは叶わず、彼女はオレの前までやって来てしまった。


 「はっ~……助けてやったから金をくれとでも言いたいわけ?」

 「いいや勘違いするでないぞ人間の女、妾は金なんぞに興味などない」

 「あっそ」

 「まぁよく聞け人間の女。妾はよく当たる占い師デザイアミチコに神託を授けられた大賢人なのじゃぞ」

 

 だからなんだよ!!

 しかも……デザイアミチコ、って。

 名前から漂う場末の二流占い師感半端ないなオイ。

 

 「へ、へぇ~。それで神託って?」


 興味ないけど適当に聞いとこう。

 めんどくさいし。


 「神託はこうじゃ『ピンクのセミロング、ゆるフワ系美形巨乳と旅をせよ。さすれば、魔王を打ち滅ぼし……混乱した新秩序の中でドサクサに紛れて新世界の神に成り上がる』とな!どうだワクワクする話じゃろ!この出逢いはきっと運命の導き、だから人間の女よ妾と共に旅をせぬか?魔王を滅ぼし、共に世界を手中に収めようぞ」


 ああ、運命の導き……か。

 確かに異世界でその言葉を聞くとワクワクする響きだ。

 

 オレは「そうね――」と前置きし、少女に心からの笑顔を向けてこう言った。


 「絶対にお断りするわ、そして今後二度と近付かないで」

 

 そりゃ当然だ。

 さーてと、こんな所で馬鹿相手に道草食ってる場合じゃないぞ。

 日暮れまでに宿屋のありそうな町を目指さないとー!

 オレの行く宛てのない旅はまだ始まったばかりだ。

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