第36話 幻術師またの名を七宝行者

 室町時代末期に七宝法師と呼ばれ、幻術に長けた果心居士かしんこじというものがいたそうな。


 その者は、大和国興福寺に僧籍を置いていたが、外道の法力で人を化かすことに長じ、そればかり覚えてたびたび悪戯を働いていた。


「くくくくく、やはり人を化かすのは楽しいものだな!! さてもっと人を化かして楽しむとするか」


 そのことに腹を立てた興福寺は果心居士を破門させる。


 その結果、果心居士は在野の法師となってしまう。


「くそ、あいつらめわしを破門しやがった。おぼえとれよ‥‥‥!!」

 

 果心居士は悔しさを糧に長けていた幻術の力を向上させていく。



 例えば、猿沢池さるさわいけの水面に笹の葉を放り投げると、笹の葉がたちまち魚となって泳ぎ出す幻術を披露したという。


 

 その後、織田信長の家臣を志す思惑があったらしく、信長の前で幻術を披露して信長から絶賛されたが、仕官は許されなかったと言われているようだ。


 だが、果心居士は七宝法師として幻術を披露していく。



 松永久秀が「幾度も戦場の修羅場をかいくぐってきた自分に恐ろしい思いをさせることができるか」と挑んだところ、数年前に死んだ久秀の妻の幻影を出現させ、震え上がらせた。



 明智光秀に屋敷に呼ばれ酒を振舞ってもらう。


 果心居士は「お礼に術を見せましょう」と言い、座敷の湖水を描いた屏風の中の、遠景の小舟を手招きした。


 すると屏風から水があふれ出し、座敷は水浸しになった。果心居士が屏風から座敷に漕ぎ出てきた舟に乗り込むと、舟はふたたび絵の中に戻り、小さくなって姿を消した。

 


 豊臣秀吉に召されたときは、果心居士は秀吉が誰にも言ったことのない過去の行いを暴いたために不興を買い、捕らえられて磔に処されてしまいそうになった。


 しかしこの時、果心居士は鼠に姿を変えて脱出し、それを鳶がくわえてどこかに飛び去ったともいう。



 このように著名な武将たちに果心居士は幻術を披露した。このことも含めて、果心居士は七宝法師と言われたそうな。


 

 

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