第33話 一番美味いものと一番まずいものは何か?

 昔々、江戸におかじの方と言われる女性がいたそうな。


 お梶の方は、太田康資おおたやすすけと北条氏康の養女・法性院との間に生まれた娘と言われている。


 豊臣秀吉によって江戸に移封された徳川家康は、積極的に関東の名門の末裔を集めた。


 その中に江戸城代であった遠山氏も含まれており、早くに家康に仕えたと考えられているという。


 幼い頃から賢さで知られた女性であったため、家康に気に入られたそうな。


 その後、家康は家臣一同を集めてこう尋ねた。


 「およそ食べ物のうちで、うまいものとはどんなものか」


 このように家康は家臣たちに尋ねたそうな。


 他の者たちがそれぞれが答えをならべたが一致はしなかったという。


 家康はそばで控えていたお梶の方にも尋ねたという。


 すると、お梶の方はこう答えたそうな。


 「それは塩です。塩ほど調法で、うまいものはありますまい」


 この答えを聞いた家臣一同は感心したという。


 「では一番不味いものは何か」


 家康はなおもお梶の方に尋ねた。


 「それも塩です。どれほど美味しきものでも、塩味が過ぎれば食べられません」

 

 迷わずお梶の方は答えたという。


 家臣一同は感心しながら、「これ男子ならば一方の大将に承りて、大軍をも駆使すべきに、惜しいことだ」とささやきあったそうな。



 お梶の方は関ヶ原の戦いおよび大坂の陣にも男装して騎馬にて同行したという。


「家康様が戦場に出られるのならわたくしも戦場に赴きます!!」



 そして、関ヶ原にて勝利した際にはそれを祝ってお梶の方は、「勝」と改名させたほどである。


 

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