第10話 女子と距離をつめる方法。

「いただきます」

「いただくぜ」


 きつねそばを頼んだ新谷と、カツカレー大盛りを頼んだ翔太は手を合わせてまず食事を再開する。


 彼らの通っていた男子校の食堂は大学に比べて品数が少なく、カレーかそばうどんか定食しかなかった。その延長か、迷ったときはとりあえずそれらを頼む癖がお互いについていた。


 そこそこコシのあるそばをすする音と、ガツガツと厚いロース肉のカツが乗ったカレーを一心不乱に咀嚼する音がしばらく続く。


 やがて腹が落ち着いて食後のお茶をすすりながら、二人はラインで出た話題に会話を移した。


「大学に来れば周りに女子がいるから青春が待っているって思ったんだけど。逆に女子に絶望してきたから。女子のどこがいいのか、同じ男子校の翔太から聞きたい」


「どこがいいかって…… フツーにかわいいとかじゃね? それ以外ないだろ?」


「かわいいと思えない女子が多すぎる。男子に要求ばかりする女子が多すぎる。男子を見下す女子が多すぎる。まあ、あくまで個人の感想だけど」


「いや、そんな女子ばっかでもないだろ」


 翔太はくせっ毛の頭をかきながら苦笑いをした。


「まあ、一理あるけど」


 ゼミなら、a子だろうかと新谷はふと思う。漫画でよく見る典型的な地味子だ。まあ男子にいただかれた後は変わるのだが。


 それと、丹波口。底抜けに明るいタイプで初めは苦手意識を持っていたが、越えてはいけない一線をちゃんと理解しているのかそれほど不愉快に感じない。

 陰キャの気持ちに無頓着な多くの人間とは大違いだ。


 それに……

 新谷の脳裏に、一人の女子の顔がくっきりと浮かぶ。

 なぜかにやにやした翔太に、新谷は更に質問をぶつけていった。


「それに女子とどうやってお近づきになったの? 翔太、高校時代から彼女いたよね?」


「フツーに高校の練習試合とかで他校に遠征した時、スマホで連絡先とか交換したりとかだな」

「うっわ、さすがは翔太。僕が同じことやったらゴミでも見るような視線でマジないわーとか言われそう」


「いや、連絡先交換する前に仲良くなっておくんだが……」


「その仲良くなり方がわかんないんだよ」


 ややむきになりだした新谷に、翔太は天井を仰ぎながら考え込む。


「そうだな…… お前、通学のバスで他校の女子と隣の席に座っても外見るか本読むかだったろ? モテる奴は、そういうとこでも女子と積極的に会話していくんだ」


「でも、僕みたいのが話しかけたら気味悪がられない?」


「気味悪がられたっていいんだよ。野球だってはじめからホームラン打てないだろ? 女子ととにかく接点を持って、話しかける」


「慣れていくうちに女子と自然に会話できるようになっていく。そうすると声もはっきりして、相手の目を見られるようになるからいわゆる「キモイ」認定されなくなる」


「その頃には何を言えば女子が嬉しがるのか、嫌がるのか大体わかってくる。そうしたら少し踏み込んだ会話をして、連絡先聞き出すんだ」


「連絡先交換しても、その後は千差万別だな。まめにやり取りしたほうがいい子も、数日開けて逆に相手からライン来るの待ってたほうがいい場合もあるし」


「なんだか聞いてるだけで疲れるんだけど……」

「正解」


「え?」


「恋愛ってのは疲れるものだ。いつ連絡が来るのか、この返信って相手がキレないだろうかとか、今髪をかき上げたけどどんな意味があるんだろうか。そういうふうに相手の一挙手一投足が気になり始める」


「だけどよ」

 翔太はお茶を豪快に飲み干すと、快活な笑顔を見せた。

「それが楽しいんだ。彼女が笑ってくれた、それだけでやる気が出るし一日楽しくなる。それが恋愛ってもんだ」


「ふん…… うつ傾向のある人とかによさそうだね」


「また、そうやって斜に構えたものの見方する……」


「ごめんごめん、でも翔太が彼女作るために苦労してたのが聞けて、安心した。翔太も意外と僕に近いタイプだったんだなって」

 その言葉を聞き、翔太の表情がほころぶ。


「てか珍しいな。こういう話高校の時嫌いだっただろ? 修学旅行で恋バナになっても、お前一人だけ寝てたし」


「まあ、あのころはからかわれるのがいやだったけど。大学生になって、からかわれてもいいから彼女欲しいなって。そんな風に変わって来たんだ」


「ま、がんばれ。また相談に乗ってやるから」


 二人がそう言って席を立とうとすると、新谷にとって耳慣れた声が聞こえてくる。

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