第14話 優しい朝

「おっ、おはよう優斗!」


リビングに入室して早々、俺を視認した俊が料理をしながらも大変気持ちの良い挨拶をしてくる。

朝っぱらからこの最後にビックリマークがつくような元気いっぱいな声を聞けるというのは学校にでも行かない限り中々体験できないだろう。


「おはよう。ごめんな、4人分になっちゃって。俺も手伝えたらいいんだけど……」


しっかりと挨拶を返しながら、俺のせいで一人分多く作らなければいけなくなってしまった事を謝罪する。

再三言うが、俺は料理が苦手である。それはもう、大が付くくらい苦手である。


「いいって、お前料理苦手だろ?あとんな事で一々謝んなよ!お前は良い行いをしたんだから、堂々と胸を張ってろ!」


同じ高校二年生が発しているとは思えない程の励ましの言葉を発すしゅん

本当、人柄から何まで完璧な奴で、俺はコイツを一生超えられないなと心底思う。


「ありがとう、しゅん


そんな優しい言葉に、俺は感謝を述べる。

するとそれに続くようにしてリビングの扉が開き、女子二名が顔を出してくる。


「二人共おはようさん!」

しゅんさん、おはようございます」


二人にも変わらずのテンションでしゅんが挨拶をすると、依史いしちゃんはペコリと効果音が付きそうなお辞儀をしながら挨拶を返す。


「おはよ~」


伸びをしながら、海華も続いて挨拶を返す。

それから、リビングに充満しているソーセージや卵の香りを胸いっぱいに嗅ぎながら言葉を発す。


「いい匂~い。やっぱ炊事はくーちゃんに任せて正解だったね!」


全くもってその言葉には俺も同感だ。

ありがとうしゅん、存在していてくれて。


そんな事を思いながら、俺はスタンドに立てかけてある掃除機を手に取り、取っ手についてあるボタンを押して起動させる。

プシューン!!と言った少し耳障りな音が室内に響き渡り、正常に起動している事を教えてくる。


隅から隅に、しゅんがまだ作業しているキッチンは後回しで机の下と椅子の下にも掃除機をかける。

――そうして数十分とかけて掃除機をかけ終わった俺は掃除機をスタンドに戻し、いつの間にやら席についていた海華みか依史いしちゃんが座っている方とは反対の席に座る。


「そういや海華みか、さっき言ってた話なんだけど」


席について早々、俺は海華みかに話しかける。

この際だ、依史いしちゃんは遊ぶ時にどうするかという事を聞いておこう。


「さっきって……海行くって話?」

「そうそれ。海に行くのはいいんだけど依史いしちゃんはどうするんだ?水着なんて持ってなかっただろ?」

「ふふん、それに関しては心配無用ってやつよ!」


俺がそう聞くと、海華みかは鼻を鳴らしながら自信満々にそう答える。

ここまで言うってことは、誰よりも先に何か手を打ってあるのだろう。

と、俺は勝手にそう納得しながら口を開く。


「へ~、何をしたんだ?」

「それは後のお楽しみっちゅうわけですな」


もったいぶるようにその真相を伏せられる。

どうしよう、んな事言われたら物凄く気になるんだが……?

というより、海華みかの得意げな表情を見ていたら更に気になってくる。

まぁどうせすぐ分かる事だし、ここは我慢、我慢――。


と、そんな葛藤をしている間に、しゅんが完成した料理を運びながら口を開く。


「待たせたな野郎ども!!」


トンと音を立てながら、料理を乗せた皿が机の上に置かれる。


「あ、しゅん。手伝うよ」


そう言いながら俺は席から立ち上がり、キッチンまで歩を進める。

こうやって友達同士で手伝いながらっていうのも、こういうお泊り系の醍醐味だろう。


「私も!」

「私も運びます!」


続くようにして海華みか依史いしちゃんも席を立ち、図らずともみんなで協力する体制に変わった。


何だか、一言では言い表せないけど――。


俺はこの睦まじくも和気あいあいとした空間を見て、思う。

二人と親友で、心底よかったと。


――そうして無事にみんなで料理を運んだ後、俺達は賑やかな食事を楽しむのだった。

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