おっさん剣聖、獣の国でスローライフを送る～弟子に婚約者と道場を奪われ追放された俺、獣人国王女に拾われ剣術の先生となる。実は俺が世界最強の剣士だったと判明するが、泣いて謝っても今更戻る気はない

第126話 ミブロ、ハーレム入り

　ミブロとの戦闘後、彼女がいきなり、妾（めかけ）にしてほしいと言ってきた。

「つーか、なんで妾？　普通に恋人とか、夫になってくれって言えばいいじゃんか」

　人間姿の古竜がいう。

　するとミブロは首を振る。

「あれくさんだぁさんには、正妻がいらっしゃるようだし」

「は？　なんでおれを見て言うんだよ？」

「？　あなたが、あれくさんだぁさんの、妻なのd」「ちっがぁああああああああああああああああう！」

　古竜が声を張り上げる。

　なんと言う大声だ。

「おれがこのおっさんの正妻なわけねえだろ！？　どうしてそう思ったんだよ！？」

「あれくさんだぁさんととても仲睦まじそうだし」

「別に仲睦まじくねーよ」

　はっきりうなぁ。

「しかし二人は楽しそうに漫才をしてるではないか。夫婦漫才を」

「おれ別にこのおっさんと漫才したいなんておもってねーから。このおっさんが無自覚にボケるから、つい反射で突っ込んでしまうんだよ」

　ミブロが頬を赤らめながら私に尋ねてきた。

「本当？」

「ええ。そこのはただの舎弟です」

　ほぉ、とミブロが安堵の息を吐く。

「つまり、あれくさんだぁさんには、妻がいないと？」

「いえ、妻はいますが」

　ぎろ、とミブロが古竜をにらみつける。

「ひぃい！？　なななな、なんでおれをにらみつけるんだよぉう！」

　さっ、と古竜が私の後ろに隠れる。

「……おまえ、あれくさんだぁさんの、妻じゃないって言った。嘘ついたのか？」

「ちっげーよ！　嘘じゃねえよ！　おれがこのおっさんの妻じゃないってだけだ！　妻がいねえとは言ってねえだろ！」

「む……確かに」

　ミブロが体から出していた覇闘気をしまう。

「あれくさんだぁさんには、妻がすでにいるんですね……」

　しゅん、とミブロが肩を落とす。

　おや、どうしたんだろうか。

「ええ」

「……そのうえで、妾にはしてもらえないと」

「そうですね」

「……わかりました。くすん」

　おや？

　どうして泣いてるのだろう。

「なんであんた泣いてるの？」

「だって、妻がいて、妾にしてもらえないというのなら、もう脈無し。生きるのが辛い」

「？　いや、脈無しってわけじゃないんじゃないの？　このおっさん、妻たくさん抱えているし？」

「！？」

　ミブロが目の前から消える。

「どういうことだ！？」

「ひぃい！？　いきなり背後に回ってきたぁ！？　なにこれ！？」

　おやおや。

　なんとも。

「見事な縮地ですね」

「ひぃ！　おれた刀を突きつけないでぇ！」

「相手の意識の隙を作り、一瞬で相手の近くまで移動する、剣術のひとつですよ」

「冷静に解説してねーでおれを助けてくれよぉおお！」

　ミブロの肩に手を置く。

「その子は私の大事な人なのです。乱暴はやめてあげてください」

「…………嘘ついたのか古竜？」

「ちっげーよ！　おっさんも話ややこしくすんなよ！」

　妻ではないけど、大事な国民であり、舎弟なのだと説明したところ、ミブロは古竜を離した。

「だいたい、わかるだろミブロよ。こんな化け物レベルで強いおっさんと、おれが釣り合うわけないって」

「それもそうか。貴様は雑魚だものな」

「はぁ！？　雑魚じゃねえし！　地上最強の生物だし！」

「嘘つくな。貴様からは強者の闘気（オーラ）を感じない」

「あのバケモンと比較すりゃみんな雑魚になるから！」

　ミブロは頬を赤らめ、もじもじしながら言う。

「……あれくさんだぁさんには、妻、たくさんいるの？」

「ええ」

「それって、どうして？」

「どうしてと言われましても……この世界では一夫多妻が当たり前ですし」

「！？　一夫多妻が当たり前……異世界、すごい……」

　なんだかミブロは感心してるようだ。

「おっさんとミブロがいた世界じゃ、一夫多妻は驚くようなもんなのか？」

「私のいた時代ではそうですね。そういえば、ミブロがいた時代ではどうなのですか？」

　するとミブロは言う。

「一人の妻に、何人ものお妾さんを囲っていた」

「ああ、なるほど。だから、ミブロは落ち込んでたのな。このおっさんの妻にも妾にもなれねーってよ」

　なるほど……

「つ、妻は、その、何人でも、いいの、か？　なら……その、ぼ、ぼくも妻にしてほしい……です」

　おやおや。

　どうしたものでしょうか。

「やめといた方がいいぜミブロ。今日あったばっかりの変なおっさんに、いきなり惚れていきなり妻にしてほしーとかよぉ。もうちょっと、付き合ってお互いのことをわかってからでもいーんでねーの」

　……めずらしく古竜がまともなことを言っていた。

「んだよ」

「珍しく正論だなと」

「おれは！　ずっと！　ずぅううっと！　正論言ってるから！　おかしいのはあんただから！」

　そうかもしれない。

　どうやら私は、一般人と少し感覚がずれているようですからね。

「…………こりゅう」

「んだよ？」

「あれくさんだぁさんの妻になることを、邪魔するってことは。貴様……やはりあれくさんだぁさんのこと好きなんだろ」

「ちっげーよ！　なんでそうなるんだよ！？」

「大好きな人を独占したいんだろ？」

「違うから！　こんなの独占したいとは思わないから！」

「あれくさんだぁさんを、こんなのとか言うな。首を落とすぞ？」

「ぴぎぃいいいい！」

　がたがたがた、と震えながら、古竜が私の後ろに隠れる。

「……やっぱり、好きなんだ。嘘つき」

「嘘じゃねえよ！　好きじゃねえし！　まじで！」

「照れ隠しという可能性も」

「ねーーーーーーーーーーーーーよ！　疑いすぎだから！」

「……でも、距離が近いし」

「あんたが怖い顔して詰め寄ってくるからだろぉお！？」

　おやおや、古竜とすっかり仲良しさんのようですね。

　しかし、ふむ。

「ミブロ」

「は、はい♡」

　古竜がぶつぶつ「……おれんときと態度違いすぎね？　二重人格なの？」と文句言ってるそばで、私は言う。

「私の妻になりたいのですか？」

「はい。あれくさんだぁさんのものになりたい。あれくさんだぁさんの子供を産みたい♡」

　強い女の子は大歓迎だ。

　国を強くするのも王の勤めだから。

「私はまだあなたに対して、好きと言う感情を持ち合わせておりません。あなたを迎え入れるにしても、それは副王として、国のためにやること。それでも、私の妻に？」

「はい。ぼくは、あなたのそばにいられれば、それで満足」

「そうですか……では、よろしくお願いします」

「は、はい！　こちらこそ！」

　こうして、ミブロが私の妻になったのだった。

「おれにゃ理解できんわ。会ったばかりの男に妻にしてくれっていう感覚がよ。闘気（オーラ）に女を惚れさせる魔力でもこもってるとしか思えん」