第75話 遠足



 ある日のこと。

 獣人国ネログーマの王都、エヴァシマ。

 兵士達の訓練所にて。


「そろそろ、実戦訓練に入ろうと思います」


 兵士達を見渡し、私は言う。

 彼らは「「「やったー!」」」と喜んでいた。


 気持ちは理解できる。

 今までずっと素振りや、体力作りばかりしており、実践はほとんどさせていたのかったのだ。


 彼らはみな、自分の力を試したくてしかたがなかったのだろう。


「はいはい、副王様っ!」


 トイプちゃんが両手を挙げて、元気よく言う。


「実践って、どこで何を相手に戦うんですか!」

「ゲータ・ニィガ国境付近です。【トカゲ】が巣を作ったようなので、それを駆除しにいきましょう」


 敵の居場所はすでに調べは付いてる。一度様子を見てきたので、天王剣での移動が可能だ。


「皆さん、闘気武器はきちんと装備しましたか?」

「「「はーい!」」」


 兵士の皆さん達の目に怯えも恐れもない。

 彼らにとって久しぶりの実践だ。


 私がこっちに来てから今まで、兵士達には実践をさせていなかった(街の守護は守護神3名で回していた)。


 彼らにはまず、基礎をたたき込みたかった。

 きちんと戦える力をつけてから、実践に出したかったのだ。

 そして今日……やっと基礎を終えて、彼らは実践練習へと赴く。


 普通だったら、久しぶりの実践に、気後れしてしまうところだろう。


「大丈夫かい、ワンタくん?」

「はいっす! 今は……魔物、怖いっていうより、早く倒したいって気持ちがいっぱいっす!」


 他の兵士達も同様のようだ。

 よし。


「では、行きましょう」


 私は天王剣(改)を発動。

 ゲートを開き、兵士の皆さんを連れて、ゲータ・ニィガのはずれまでやってきた。


 目の前には小さな山がある。

 トイプちゃんをはじめとした、兵士達の表情に緊張が走る。


 どうやら敵の位置を、みな素早く感知したのだろう。いいことだ。


「この山にはトカゲが複数居着いています。これから皆さんで山へ入り、トカゲを倒してくること。そうですね……一人5匹、倒してきてください」


 こくん、と皆さんがうなずく。五匹トカゲ倒すのなんて、今の彼らにはたやすいことだろう。


「私はここで待っています。不測の事態……たとえば大けがを負ったり、手に負えないような敵がでてきたりしたら、動きます。が、それ以外では基本ここから動きませんのであしからず」

「「「はい!」」」


 私が付いてこないことに、不安を覚えている子は一人も居なかった。

 

「では……散会!」


 兵士達は体に闘気を纏うと、その場から消えた。

 脚力を強化して、皆が一斉にトカゲの山へと向かって走り出したのである。

 

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