奪楽園2~キリングアイランド~
Tasaku the Third
第1話 護送される女子高校生たち
2046年2月、一台の観光バスが用賀本線料金所を抜けて首都高速3号渋谷線に入った。
クリーム色をベースにした、一見何の変哲もない観光バス。
しかしそのバスは窓という窓がすべて厚い灰色のカーテンでふさがれ、外から中が一切見えない。
そしてバスを護衛するかのように前には黒いSUVが二台、後ろにも同じ車両が二台走っている。
車列は首都高速3号をそのまま進み、谷町ジャンクションを越えて首都高速1号に入ると、昨年起きた事件の痕跡が目立ってきた。
ビルの外壁には、まだ黒い爆痕や銃弾の穴が点々と残り、割れた窓はベニヤ板で塞がれたまま。
首都高の側壁にも細かな弾痕が無数に刻まれ、改修の足場だけが虚しく立っている。
一年前の2月11日に起きた事件――現在の日本を支配する共栄党政権が『2.11反国家暴乱事件』と呼び、海外へ逃げた日本国民を中心に『血の建国記念日』と呼ぶ騒乱の痕跡だ。
だが、その有様はバスの客席に座る人々からは見えない。
バス内はほぼ満席だった。
乗っているのは濃紺の生地に少し明るいブルーのラインが入ったセーラー襟の制服の少女たち39人。
西濃南高等学校英語科の生徒で、全員同じクラスだ。
しかし、修学旅行や何かの研修旅行で来たという雰囲気は全くなかった。
誰も口をきかないどころか顔をこわばらせ、目のあたりに泣いたような跡があるか声を押し殺して泣いている子もいる。
それもそのはず、全員無理矢理連れてこられてきており、手を後ろに組みっぱなしなのは結束バンドで拘束されているからだ。
手だけでなく首にもひもが巻き付けられ、背中で手首と連結されている。
そして彼らをより怯えさせているのはこのバスに同乗している、自分たちをこんなひどい目に遭わせている者たち。
その者たち――最後部の座席に三人、真ん中通路の座席に二人、最前列に二人座る――は全員スカイブルーの右合わせの詰襟、襟や肩章が黒い服を着て警棒を握り、時々猟犬のように英語科の生徒たちを睨みまわす。
この監視要員も全員女性で、生徒たちと歳が変わらない未成年のようだ。
彼らは『聖徒隊』の隊員。
聖徒隊は執政党である共栄党の母体『共栄教会』の青少年組織である。
西濃南高の生徒を捕らえてバスで護送しているのは『国家社会安全庁(SSA)』という共栄党が創設した秘密警察で、聖徒隊はSSAの任務補助に動員されることが多く、この監視もその一環である。
そして、同じ少女だから歯止めがきかない。
午前9時ごろに岐阜県を出発して静岡県の浜松あたりに来るまでの間、監視要員たちは通路を行ったり来たりしながらひっきりなしに「口をきくな」「いつまでも泣いてんじゃねえ」「顔がムカつく」などドスをきかせた声で怒鳴りつけ、生徒たちの髪を鷲掴みにしたり、胸倉をつかんだり、顔をビンタしたり、警棒で殴ったりの乱暴をしてきた。
神奈川県に入ったあたりから大人しくなったのは大暴れしすぎて疲れたからだ。
それでも時々思いついたように暴力をふるってきてはいた。
バスは浜崎橋ジャンクション、芝浦ジャンクションを経てレインボーブリッジを渡り湾岸線へ。
カーテンを開けることができたら壮大な東京湾の景色を楽しむことができただろうが、こんな状況でそんなことは無理だ。
やがて葛西ジャンクションを過ぎてしばらく走った後、バスは減速して湾岸線を降りる。
大きく立て続けに二回曲がり、目的地に着いたようだ。
フロントガラス越しにゲートのような門をくぐり、何らかの施設のようなものに入ってゆき、バスが停まった。
「降りろ!豚ども!!」
最前列にいた聖徒隊員のブサイクなくせ毛の女が怒鳴ると、前にいた生徒から順番に髪や服を掴んで立たせてバスから降ろす。
泣き声が再び起る。
中には首と手首を結ぶひもを引っ張られて「げえ」と咳込む子もいる。
これから何が待っているのか?
考えたくもない。
いつ家に帰してもらえるのか?
すぐではないことは確かだ。
そして、なぜこんな目に遭わされるのか?
――それは心当たりがある。
このクラスの生徒のほぼ全員がそうだった。
ただ、ここまでひどい目に遭わされるとは誰も予想していなかっただけだ。
自分たちは正しいことをしただけなのに。
後の方の席にいて、胸倉をつかまれて立たされた箕浦佳奈子はもう一つ別のことを考えていた。
それは後悔と申し訳ない気持ち。
私が悪い……私がみんなを巻き込んじゃったんだ。
そんな思いが半分以上を占めていた。
でも、でも……一番悪いのはあいつら!
あいつらがお姉ちゃんを――。
「おら!さっさと歩くんだよ!!」
くせ毛女にみぞおちを警棒で突かれ、佳奈子の思考は苦しみで中断。
髪の毛を掴まれて外へ引っ張り出され、自分同様後ろ手に拘束された前の子の背中を視界に入れながらその後に続いた。
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