第5話 私の大好きな宝石

 この世界を楽しみたいけれど、身近な場所から把握していきたい。

「今いる場所は何処なの? 国という存在はどうなっているのか知りたい」

「強い人間が治めている国が多く、昔活躍した人間の家系が国王の国もあります。今いる場所はザムリューン王国のリガーネッタで、国の東側にある中規模な街です」


「家の場所は森の中だけれど、リガーネッタの街まで近いの?」

「魔物に遭遇しなければ、徒歩で1時間くらいの場所に街はあります」

 街まで近くはないけれど、誰にも邪魔されずに過ごせそう。問題は魔物に対応できないと、私ひとりでは森から出られないみたい。


「機会があれば街まで行って、イロハお姉様の世界を味わってみたい。魔法にも興味があるし、森を出られるように魔物退治もしたい」

「森の中ではわたしがいれば魔物の恐怖はありません。アイ様自身で魔物退治をしたいのであれば、魔物退治で生計を立てているギルドがあります。リガーネッタにもハンターギルドがありますので、そこに所属するのが1番早いです」


 ハンターギルドに入って魔物を倒せば、お金も稼げると思うから生活も豊かにできそう。今の私が魔物に会えば一撃でやられると思うから、ハンターギルドへ行く前に攻撃魔法を覚える必要がありそう。


 やりたいことはいっぱいあるけれど、まずは生活環境を整えるのが優先よね。

「ハンターギルドには攻撃魔法を憶えたあとで行きたいけれど、最初は生活に必要な魔法を習得するつもり。私のみが使える宝石魔法は習得方法が変わっていて、私にしかできない魔法よ」


「この世界にはない魔法で興味があります」

 プレシャスの目がかがやいたようにみえた。

「宝石を使った魔法で、宝石魔図鑑に詳細を書けば使えるのよ」

 プレシャスに答えてから、宝石魔図鑑がないのに気がついた。


 宝石魔図鑑が見たいと心の中で思うと、手のひらに宝石魔図鑑とペンが現れた。突然の出現におどろいたけれど、すごく便利な機能だった。逆に消えるように念じると目の前から宝石魔図鑑がなくなって、再び念じると出現してくれた。


「この世界にも宝石はありますが、宝石を使う魔法とは初めて聞きました」

 イロハ様の世界にある宝石も早めに堪能したいけれど、今は魔法が先よね。


「プレシャスの知らない文字と言葉だけれど大丈夫?」

「問題ありません。わたしを気にせずに魔法を作ってください」

 頭の中で魔法にしたい宝石を思い浮かべて、覚えたい魔法は生活に便利な魔法で宝石の種類も決まった。


「魔法に使う宝石はオパールよ。日常生活に便利な魔法を考えているけれど、それらの魔法は生活魔法と呼ぶの?」

「その通りです。生活魔法は少ない魔力で使用できるので、利用できる人間は比較的多いです」


 プレシャスが答えてくれる。プレシャスの瞳は7色にかがやいていて、本当にオパールの遊色効果を見ているようだった。


「わたしの名前になった宝石ですね。遊色効果の意味も知りたいです」

 そういえば遊色効果の意味をまだ説明していなかった。オパールの頁を開いて、写真を見せながら説明する。


「遊色効果とは見方によって色彩が変わる色の変化で、プレシャスオパール特有の現象よ。眺める角度によって色が異なるから、ぴったりの名前と思ったのよ」

「写真の宝石も色が変化していて、わたしの瞳を表現しているみたいです」

 オパールと遊色効果を気に入って喜んでくれたみたい。これから長いつきあいになるから、プレシャスとは仲よくなりたい。


 宝石魔図鑑の写真もきれいだけれど、私には本物のオパールをもっている。

「身につけているペンダントはブラックオパールよ。元の世界から持ってきた貴重な宝石で、イロハお姉様の加護も付加されている。何の加護か分かる?」


「イロハ様の溺愛ぶりがわかる加護ですが、今は知らないほうがよいです。それよりも宝石をよく見せてください」

 プレシャスは食い入るようにブラックオパールを眺めだした。顔の向きを変えているから、遊色効果を楽しんでいるみたい。メインとなる中石はひと目惚れしたルースで、このペンダントは元の世界と繋がる唯一の品物だった。


 プレシャスが顔を上げたから、オパールを見終わったみたい。

「魔法の話に戻すね。覚えたいのは生活に使用する魔法で、明かりと水と火を出現させたい。3種類の魔法に合うのがオパールと思っているのよ。明かりはホワイトオパール、水はウォーターオパール、火はファイヤーオパールね」


「複数の種類があるようですが、何が異なるのですか」

 興味深げにプレシャスが聞いてくる。

「ひとつ目は産出される地域よ。ホワイトオパールは地色が白色で、最大の産出国で多く採れている。ウォーターオパールとファイヤーオパールは別の産出国ね。このふたつは色合いが異なって、言葉どおりに水の青色と火の赤色ね」


 写真の下側にはオパールの種類が書かれていたので、ファイヤーオパールを触ると色鮮やかなルースが宝石魔図鑑から浮かび上がる。立体的にみえる仕組みは不明だけれど、斑がきれいに輝いている良質なルースだった。


「宝石の内部が鮮やかに変化しています。細かい紙吹雪を見ている感じです」

「この産出国特有の見え方で、色の出方は斑とも呼ばれているのよ。遊色効果がない赤色もファイヤーオパールと言う場合があるけれど、個人的には今見ている遊色効果のあるルースで呼びたい。次はホワイトオパールを説明するね」


 宝石魔図鑑でホワイトオパールを選択すると、ファイヤーオパールが消えて、白色に7色の斑が踊っているルースが出現した。


「色の移り変わりが不思議な宝石で、わたしの名前に関連するオパールに興味がわきました。またあとで、もっとくわしく教えてください」

 プレシャスはオパールに興味がわいたようで、このまま宝石を好きになってもらえれば、一緒に宝石を語りあえる。楽しい異世界生活になりそうな予感がした。

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