くしゃみ、再び

 青く眩しい光が徐々に収まっていく。それとともにミチルが持つ再生した剣の全容が顕れた。


「わ……」


 片手剣だったジェイの剣は、もっと刀身の太い大剣となっていた。

 その姿を知覚した途端、剣はズシリと重くなる。


「おも!何これ、おっも!」


 ミチルが両手で支えようとしても剣の重みで体のバランスがとれない。切先は地面につきっぱなしで、ミチルには到底持ち上げられなかった。


「おおい!ウソだろ!重たすぎるぅうう!」


 ミチルがどんなに踏ん張ってもビクともしない剣。鈍く光ったまま沈黙している。


「ゴアアァア!」


 剣が放った光に怯んで動きを止めていたベスティア主はミチルが動かないことを理解すると、咆哮をあげて襲いかかってきた。

 

「!」


「ミチル!」


 ジェイはミチルを助けようと一歩踏み出し、大剣の柄に手をかける。ジェイがぐっと握ると、大剣はまたも青い光を放った。


「ギャアアァ!」


 剣が放つ光が苦手なのか、ベスティア主は悲鳴を上げて後ずさった。

 ジェイはその大剣を軽々と持ち上げて両手で構える。


「なんで!?めっちゃ重いのに!すごいよ、ジェイ!」


 ミチルが感心しているとジェイは不思議そうに首を捻っていた。


「いや……見た目の割にすごく軽いが」


「はあ!?そんなバカな!」


「本当に……まるで羽のようだ」


 ジェイが持った途端、大剣は鈍く光り続け闘志を燃やしているように見える。


「これは……いける!」


 そんな大剣に呼応するように、ジェイからも青いオーラのようなものが上がっていた。


「ミチル……そこで見ていてくれ」


「ウガアアァァ!」


 ベスティア主の雄叫びはすでにジェイにとっては何の意味もなさない。


「すぐ片付けるッ!」


「──!」


 ミチルが見たものは、誇り高き青い騎士だった。

 彼は高く舞い上がり、目の前の怪物を一刀の元に両断した。

 その背には翼が見えた──気がした。


 ベスティア主は最期の声をあげることも許されず霧散していった。


「ハア……」


「す、すごい!」


 剣を振り下ろした姿勢のままのジェイに、ミチルは後ろから抱きついた。


「すごいよ、ジェイ!やったね!」


「……ミチルのおかげだ」


 言いながらジェイは優しく微笑む。思わず抱きついてしまったが急に照れ臭くなってミチルはゆっくり体を離した。


「へ、へへへ……」


「ミチルがこの剣に新しい命を宿してくれたのだ」


「オ、オレが!?ま、まさかあ!」


 何の変哲もないモブ学生にそんな芸当が出来るわけない。きっと偶然奇跡が起こったんだろうとミチルは思う。

 だが、ジェイはまた優しく笑いながら首を振った。


「──私は、そう信じている」


「……ぽっ」


 ちょっと待って!反則だからその笑顔は!

 完全に吊り橋効果じゃん!好きになっちゃうじゃん!


 落ち着け、落ち着け。冷静になるんだ!

 ミチルは火照る頬を懸命に冷まそうと頭を振った。


 あ、ちょうどよく冷たい風が吹いてきた……

 ミチルはその空気を吸って深呼吸をする。


 少し落ち着いたところで、ミチルはある決意をした。


「あのさ、ジェイ」


「うん?」


「オレ、決めたよ。元の世界に戻れる方法を探すことにする」


 この人の側にずっといたいと願ってしまう前に。


「そうか」


 やっぱり自分が生まれた世界で生きるのが自然だと思うから。


「でもさ、そんなには簡単に見つからないと思うんだよね」


「そうだな。私もさっぱり検討がつかない」


 でも、せめて帰る時が来るまでは、思い出くらい作ってもいいよね?


「だからさ……、手伝ってくれる?」


 騎士の言葉は、いつもシンプルだ。


「もちろん」


「へへへ……」


 その笑顔の側に、もう少しだけ。

 


 微笑み合う二人の間に突風が吹く。

 

「雪……?」

 空から白いものが降ってきた。

 ふわふわと舞い踊るそれは季節外れの風花かと思った。

 

「羽……?」

 よく見るとそれは鳥の羽だった。

 さては上空で大きな鳥が喧嘩したんだなと思った。

 

「!」

 しかし、その羽はミチルの周りをふわふわと取り囲み、次第に数が増えていく。

 

「え、な、なに!?」

 無数の白い羽は、ミチルの鼻先をくすぐる。

 元々花粉症のミチルはむず痒さをすぐに感じた。


  

「ハ、ハックション!」


  

 思わずくしゃみをしてしまった後、周りの羽に異変が起きた。

 

 真っ白だった羽が、ひとつ残らず青く染まっていく。ミチルの視界も青く染まった。


「ミチル!?」


 ジェイの叫ぶ声が遠くなる。


「おい、待てよ!コピペだろ、これ!知ってんだぞ!!」


 ミチルは訳がわからなくなっている。


「ウソだろおおぉぉぉ……!!」


 大量の羽とともにミチルの姿はジェイの前から消えた。


「ミチル!ミチル!?」


 ジェイは数歩歩いて辺りを探す。だが、ミチルの姿はもうどこにもない。

 ふと、足元で何かが光った。ちょうどベスティア主を仕留めた場所だ。


「これは……」


 ジェイはその青く光る不思議な石を拾った。


「ミチル……」


 石をぎゅっと握って、ジェイはこれがきっとミチルとまた会える標になると確信していた。







「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」〈ぽんこつナイト編〉──了


 次回からは〈ホスト系アサシン編〉をお送りします!どうぞお楽しみに!








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