月のない夜、私たちは逃げ出した

@sanma_love

第1話

雲で月が覆われ、一人で出歩くのが憚られるくらいの暗闇の中を一台の馬車が駆けていく。


簡素な造りの馬車の中にはその外観とは打って変わって豪奢なドレスに身を包んだ私と彼女が二人きり、不規則に揺れる馬車に向かい合って座っていた。


「終わりましたわね、すべて。」


目の前の彼女、リリが口を開いた。仕事をやりきったような清々しさを言葉に含ませながらこちらを見つめるその瞳は、もう夜も遅いというのに全く疲れを感じさせないほど爛々と輝いている。

そんな彼女とは正反対に心身共に気怠い疲れに包まれていた私はおしゃべりに付き合う気にはなれず、彼女の顔をぼんやりと眺めながら今日起きたことについて思い出していた。

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